ステップアップ
「いてっ」
翌日の部活の時。将の頭に何かが当たった。
「紙くず?・・・手紙か?」
「そうみたい・・・えっ!?」
手紙の内容を見て将は走り出した。慌てて後を追う。
「風祭?!?」
「わるい竜也!急用!」
それだけ言って前を向く。将がその手紙を落としたことにも気づかずに。
一瞬見失ったが、ゲーセンの前で将を見つけた。野呂と一緒に階段を下りて行く。野呂にヤキを入れてるはずの3年がいなかったが、先輩達に何かあったのか・・・?俺は息を整え、意を決して中に入った。
中に入って、その光景を目にして、俺は一気に血が頭に昇るのを感じた。
「てめぇら・・・何してやがる・・・?」
「あ?なんだてめぇは。てめぇもこうなりたいのか?」
下衆な笑い声をあげながら、その男は倒れた将の膝に足をかける。
「その汚ねぇ足をどけやがれ!!」
もう、止められなかった。
なんとか立ち上がった将を野呂と共に入口までさげ、高校生と思われる連中に蹴りを食らわせる。先輩達も参戦し、そして。
「俺も混ぜろや!」
どこから現れたのか、なぜかシゲが乱入した。
「シゲ!?」
「、お前頭血ィ昇りすぎやで?」
高校生をボコしながらシゲが言う。
「・・・悪かったな」
ようやく冷静になれた。再び高校生たちを睨みつける。勝負がつくのに、時間はかからなかった。
ごくり、ごくりという音が耳につき、やがてそれがぷはーに変わる。
「運動の後の一本はカクベツやな」
「おまえ・・・よくコーラ一気飲みできるな・・・」
考えるだけで喉が痛い、息苦しい。と、そんなやりとりをやっているうちに、パトカーのサイレンがきこえてきた。
「シゲ」
「わかっとる。ヅラかるでぇ、ポチ」
「えっ?でも先輩が・・・」
シゲに襟首を掴まれながら将が言う。
「ほっとけ!あいつらが男になる機会つぶす気か?」
先輩たちは、決意の目をしていた。俺達は、警察が来る前にその場を抜け出した。
しばらく行った裏路地で、俺達はひとまず足を止めた。
「っったく誰や、ポリ呼んだんは?」
「俺だ」
「竜也」
「水野くん」
待ち伏せていたかのように、竜也がそこに立っていた。どうやら竜也は、将が落としたらしい手紙を拾って来たようだ。
「どういうつもりだ?シゲ」
「こわい顔すんなや、タツボーン」
「・・・あれはシゲが投げたのか」
なぜ、ときくべきなんだろうか。そう思っていると、竜也が「タツボンはやめろ!」と言ったのち、問い詰め始めた。将の人柄を、みたかったらしい。それにしても危ないマネさせやがって・・・。
「決めたで!」
竜也のバッグから勝手にボールを出してリフティングをしていたシゲが、ポーンと高くボールを蹴る。
「オレ、サッカー部戻るわ!」
「ようやく決めたか。これで戦力アップだな」
「期待しといてやー。せや、自己紹介がまだやったな。オレは佐藤成樹。シゲでえぇよ。おまえはポ・・・いや、カザや。よろしゅうな、カザ!」
今、ポチと言いかけたな。さっきもポチと呼んでいたし。確かに犬っぽいが。シゲが将の肩をポンと叩くと、将はがくりと腰を抜かした。今頃かよ、とみんなして笑った。
先輩たちは1週間の謹慎処分ですみ、サッカー部は無傷。シゲと野呂が戻って来て、サッカー部は10人になった。辞めた奴らも数人戻って来るらしい。
「試合までせめて12、いや、13か14は欲しいな」
「ギリギリ11でも試合してやる!とは言わないのか?」
「無理」
きっぱり言う俺に、高井が首を傾げる。
「そうだな・・・言っとく、べきだな」
俺は竜也に言って、メンバーを集合させた。
「みんなに言っておきたいことがある。俺は、フルタイムで試合に出る事が出来ない」
辺りが小さくざわつく。
「ちなみに俺が今まで本気出してなかったのは、“できる”ことを知られて試合に出されないためだ。・・・おまえらからしたら腹立たしいことかもしれないが」
言ってしまえば、今までは手を抜いていたのだから。
「俺の膝は・・・」
思わず将を見てしまい、一瞬目が合った。意味も無く目を逸らしてしまったから、将が首を傾げている。・・・落ち着け。
「俺は、膝を怪我してる。3年前やったやつだが、完治はしていない」
「サッカーできるんはできるが、長時間はできひんっちゅーことやな?」
「あぁ」
シゲの言葉に頷いて見せる。
「というわけだから、みんな、きばれよ?」
笑ってみせると、みんな口元を引くつかせた。なんだよ。そして俺は気づかなった。将が、何か言いたそうにしていたのを。
部活が終わり、クールダウン中の水道で。
「えっ!?シゲさんって同じA組だったの?じゃ、2年なんだ?」
「なんや、知らんかったんかいな」
「お前が授業出てないからだろ」
他愛もない会話の後、解散した。
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