新たな歩み
















新サッカー部は始動したが、人数が足りない。これではゲーム練もろくにできない。
それを見越してか、メンバーの体力の無さを感じてか、竜也が捻挫して動けない自分の代わりに、陸上部の尾田を連れて来た。
笛に合わせてジョギング、ダッシュの切り替えを繰り返す。それを20周。


「なんでは免除なんだよ」

「俺はお前らより基礎体力あるからな」

「ほんとかよー?」


嘘ではないが決定的な理由はそこではない。そろそろ言っておくべきなんだとは思うが・・・。
言い出すタイミングが掴めないまま、みんなが走っているのを眺めた。
次々に走れなくなって脱落していく。10周でついに高井も崩れ、残り一人となった。


「・・・将」


もはや感覚的に走っているに違いない。尾田なんて、笛吹くのも忘れて全力疾走している。それに将が必死についていく。


「酸素ボンベどこだったかな」


20周走りきった時に必要になるであろうものを取りに俺は動いた。














案の定、将は走りきったとたんに倒れた。すかさず酸素を送り込んでやる。


「良い根性だ、将」


言ってやると、将は弱々しく笑った。持久力があり、根性があり、ボールへの執着心があり・・・これに基礎体力と技術がつくとどうなるのだろう。
今から将の成長が楽しみで仕方がない、そう思って口元を緩めた時、視界を金髪がかすめた気がした。














最近、将が河川敷に来ない。あいつのことだから練習してないなんて事は無いと思うが・・・。


「将坊ここんとここねぇなぁ」


俺の心中を読んだかのようにおやっさんが言う。


「場所変えただけで、ボールは蹴ってるだろ」

「違いねぇ」


ひとつ、大根を口にする。おやっさんのおでんは味がしっかり染み込んでて美味い。もう一口いこうとした時、背後から足音が二人分きこえてきた。


「おやっさんこんばんは」

「よぉ将坊。噂をすれば何とやらだな」

「え?あ、くん」

「よぉ」


俺の姿を認めて将が笑う。そして後ろを振り返った。


「野呂くん入って」

「おっ、今日は友達も一緒か?」

「野呂?」


俺も後ろを向くと、おずおずとこの間まで姿を見ていた1年が入って来た。


「へいらっしゃい!」

「ひっ・・・!」


おやっさんの迫力に、野呂がびくりと震える。
やはり一般的にはおやっさんの顔は怖いのだろうか。俺は思わなかったし、将も平気だったと聞くからイマイチよくわからない。


「こっちに来ないと思ったら、野呂と練習してたんだな」

「うん、一言言っとけばよかったね。ごめん」

「いいさ」


言ってはんぺんを頬張る。やっぱおやっさんのおでんはうめぇや。














将がトイレに、と立った時、俺はそろそろおいとますることにした。


「おやっさんごちそうさま」

「おぉ、気を付けて帰れよ」

「あぁ。・・・野呂」

「はっ、はい!」


声をかけると、野呂は緊張した面持ちで俺を見る。
そんなに怖いか?俺。


「努力は必ず報われる。だから、諦めるなよ」

「えっ・・・?」


戸惑う野呂を尻目に、俺は今度こそそこをあとにした。


















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