反乱
















将が転校してきて二週間がたった。学校には来るようになったが、部活には出ていない。練習はいつもの河川敷だ。
だが、真夜中までやる練習は身体にくる。俺が帰った後も続けていると、おでん屋のおやっさんが言っていた。
相当疲れはたまっているはずで、将は授業に出ても居眠りばかりだった。先ほども、夕子ちゃんの英語で寝ていて廊下に立たされた。
さらに、立ったまま寝て、倒れた。幸い原因は過労で、たんこぶで済んだが・・・自分の身体の事も考えろよ、将。















その日の放課後。ついに竜也が動いた。先輩達との全面対決。



「竜也もまた面白いメンバーを選んだなぁ」

「おい、なんでがこっちにいるんだよ?メンバーじゃないだろ?」


竜也に選ばれた一人、二年の高井が言う。


「俺は竜也派なもんでな。こっちの方が面白そうだし」

「面白そうだしって・・・」


高井が呆れてため息をつく。俺はコレのせいでレギュラーじゃないし、どちらについても変わらないだろう。














河川敷に着くと、将はいつも通り練習していた。


「おまえ・・・過労で倒れたばっかだってのに・・・」

「だ、大丈夫だよ!しっかり寝たら楽になったし!それより・・・」


ちら、と将が竜也の後ろを見る。俺は目配せして竜也に説明を頼んだ。


「―――と、いうわけだ」

「え?」


どうやら将は戸惑っているようだ。まぁ、無理もない。


「こいつらが残りのメンバーだ」


と言って竜也が紹介していく。二年の高井、背の高い一年花沢、眼鏡で小柄の一年古賀。これに将と竜也で五人だ。


くんは?」

「え?」


思いもよらないところで声を掛けられ、逆に戸惑う。


「俺は、メンバーじゃない」

「どうして?なんなに上手いのに・・・」

が“上手い”?」


高井の言葉に内心舌打ちする。サッカー部では、実力はあまり出していなかった。出す気になれなかった、が正しい。
将とサッカーするほうが何十倍も楽しい。


は出られない“理由”があるんだ。このメンバーは変わらない」


将は少しまだ言いたそうな顔をしていたが、やがてしっかりと頷いた。














まずは2対2のミニゲームをする。これは将の、信頼を得るためのゲームだ。


「将」


俺は、ゲームに向かおうとする将を引き留めた。


「いつもどおりにやればいいからな」

「・・・うん!」


この弐週間で将は急成長している。前とは違うという事を、思い知らせてやれ。




ホイッスルの音が河川敷に響いた。














ゲームは着々と進んでいった。途中躓きながらも、お互いに点を入れていく。転んでは起き上がり、またボールに食らいついていく。
将はサッカーを心から楽しんでいた。


「やめ!」


竜也の一言でゲームが終わる。荒い息をしていた将に、花沢の手が差し伸べられた。高井も、古賀も笑っている。
将は見事、こいつらの信頼を得た。














続いて、レギュラー相手の作戦。定石だが確実なテ。


「マンマークで将をFWに、か」

「異論あるか?

「いや、ない。将が適任だ」


一番下手だと思われている将にならボールを集めやすい。それに、将は元々FW向きだ。


そしてマンマークの練習が始まった。まずはボールなしで、マークにつく、マークを外す練習。
これは大体みんなできた。次はボールを使ってやる。


「まずは俺とが手本を見せる」

「え」

「クるのか?」

「いや、これくらいじゃコねぇけど」

「ならいいだろ」


まぁ、確かに拒否する理由はない。少し驚いただけだ。俺は足でひょいとボールを持ち上げた。


「俺がボールもちで竜也が追う側な」

「行くぞ!」


竜也が向かってくる。俺も気合入れて迎え撃った。















さすがは竜也だ。少し気を抜けばボールを取られてしまいそうになる。フェイントをしても簡単には引っかかっちゃくれない。楽しい。


「・・・と、こんな感じだ」


ぴた、と動きを止める。もう終わりか。


「楽しかったー」

「お前な・・・。とにかく、これができればマンマークもできるようになる。
 相手との距離やプレッシャーのかけかた、フェイントの仕方に気を付けて、始め!」















練習は毎日日が沈んで月が昇るまで続いた。一人一人が、勝つための練習をしている。大丈夫だ、やれる。

そして、対決の前日。


「なんとか形になったな」


マンマークで相手を攻め、ボールをこぼさせて竜也へ送り、将へつなげてゴール。


「明日だね」


将の言葉に頷く。


桜上水うち のサッカーをつまらなくさせてるキャプテンたちに、俺達が引導渡してやろうぜ!」


竜也の言葉に、全員がしっかりとうなづいた。大丈夫だ、お前達ならやれる。俺は、お前達に託すぞ。

















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