風は小さな嵐となり舞い始める。
次の日の放課後。部活が終わると、即効で将の所に向かった。将はやはり、昨日のでもめげずにボールを蹴っている。何かの技を練習しているような・・・?
「将」
「あ、くん」
将が動きを止めてこちらを振り返る。
「なんの練習してたんだ?」
「リフティングを使って抜く練習!」
「リフティングか・・・お前得意だもんな」
どうやって知ったんだ?ときくと、功兄がビデオを貸してくれて、と返って来た。功兄、の説明も受けた。
うん、知ってるよ、とは言わない。言えない。まぁ、それはさておきだ。
「よし、相手してやる。コツつかんどけよ!」
「うん!」
荷物を置き、俺は将と対峙した。
たったの一日で、どれだけ根詰めて練習すればここまで上達するのだろうか。将の、サッカーに対する集中力と吸収力は半端ない。
うかうかしてたらすぐ追い抜かされてしまうだろう。事実、今俺は将に抜かれたのだから。
「あとは竜也を抜く、だな」
「・・・うん!」
将の目は生き生きしている。今日も竜也はここを通るだろう。あいつはあれで、面倒見は悪くないからな。
案の定、竜也は来た。そして、将が竜也に挑戦状を再び叩きつける。竜也も、久々に楽しいだろうな。自覚は無さそうだが。
将が、駆けた。竜也も迎え撃つ。将が、足首でボールを蹴りあげる。正面に来たことに不意を突かれたのか、竜也の反応が一瞬遅れた。俺の時と同じだ。
将はその一瞬のうちにかかとでボールをとらえ、前へ、先へ、翔け抜けた。
将にはそこにゴールが見えたのだろう。抜いただけで終わらず、シュートまでうった。まぁ、見当違いの所に行ったが。
「やったーっ!!」
勢い余って転げるほどに、将は身体全体で喜びをかみしめる。
「ありがと!ありがと!できたよ!ありがとう!!」
ぶんぶん竜也の腕を振りながら将が言う。竜也はただ呆れていた。俺もとりあえず、苦笑しか出ない。
「くんもつきあってくれてありがとう!!」
言った直後、疲れた〜とへたり座る将を見て、自然に笑みがこぼれる。
「第一歩だな、将」
「うん!!」
にこっと笑う将の顔を目にして、一瞬、時が止まる。あぁ、こいつは変わってないな。昔から、ずっとこの笑顔で、サッカーを楽しんできたんだ。
その後、さすがに今日はもう上がると言って帰って行った将を見送り、俺と竜也は二人、河川敷に残った。
「お前が、風祭をあそこまで育てたのか?」
先に口を開いたのは竜也だった。
「俺がちゃんと学校行って部活も出てるの、お前も知ってるだろ?功兄・・・あいつの兄貴がなんかのビデオを見せて、そん中のテクを練習したらしい。
俺は最後の仕上げを手伝っただけだ」
言うと竜也は、そうかとだけ返した。こいつも、将の急成長に驚いているんだろうな。
「あいつは化けるぞ、竜也」
「あぁ。・・・」
「ん?」
何やら竜也は真剣な表情をしている。
「頃合いなのかもしれないな」
「竜也・・・?」
その表情の意味を知るのは、もう少し後の事。
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