夏へ





















武蔵森戦から二週間。将はまだ捻挫が完治していないから療養中・・・なんだが、放課後の部活に顔を出す事も無くなって、二日たった。


「竜也」


声を掛けると、同じことを思っていたらしい。練習後、俺たちはシゲ、高井、森長も一緒に、河川敷へと向かった。


















途中でたいやきを買って、いつもの壁に向かう。


「おー、やってるなぁ」

「え?みんな!」


将が驚いた顔で振り向いた。そんな将の足元を見て、あぁやっぱりなと呆れの溜息をつく。


「将、やるならせめてテーピングしてやれって。クセになると面倒だぞ」

「ご、ごめん」

「俺に謝ってどうするんだ、お前の身体なんだからな。ほら、座れ、テーピングしてやるから」


手際よく巻いてやると、「くんってテーピング巻くの上手いよね。お父さんに教わったの?」と将に言われて、周りから「なになに?どういうことだ?」と声がかかる。あぁ面倒だ。隠していたわけじゃないが、面倒だ。簡単に「スポーツ病院の院長なだけだ」と返すとさらにわめくから、「うるせぇ」の一蹴で沈める。買ってきたたいやきとジュースで一服して、お暇する事にした。


「もう帰るの?」

「おう、邪魔しに来ただけやからな」

「つーかテーピング巻きに来ただけかな。お前、今度から放課後部活に顔出してからここ来い。テーピング巻いてやるから」


将は乾き笑いをもらしながら頷いた。忘れたら承知しないからな。


「俺ら、別に心配なんかしてへんで」

「お前は、こうと決めたらやりとげるやるだからな」


みんなが将を信頼している。だからお前はお前の壁を乗り越えて来い、将。



















数日後、将の捻挫は完治し、今日から部活に参加することにするらしい。で、HRが終わったのに寝たままのシゲを起こしにかかっている。


「なんでおまえ、俺のこと“さん”づけするんや?」

「あ、同い年なのにへんか。なんかシゲさんって、おとなっていうか、年上な気がして」

「・・・トロいくせにえぇカンしとるわ」

「え?」

「シゲさんでえぇってことや」


おう、行くでー。なんて言ってくるシゲは出会った時からこんな感じで、将が感じたようなものは俺は感じなかった。否定しなかったという事は、本当に年上なのかもしれない。中学で留年なんてどんな事情だ。・・・なんて、詮索するだけ無意味か。シゲの家事情をどうのこうの言ったって仕方がない。サッカーを一緒にする仲間という事に、変わりはないのだから。



















このところ、武蔵森戦の話を聞いて、という入部希望者が続出している。いいような、わるいような、というところではあるが。これだけの人数の中で、果たしてどれだけ真剣で、熱心で、勝とうとしているやつがいるのか。ほとんど知らないし、興味の無いやつらばかりだったが、その中に一人、友人を発見した。


「大地?」

「不破くん!」

「「クラッシャー不破!」」


三者三様の反応で思わず乾き笑いが。最後のは多人数だが。将は転校してきた上に出席していなかったときもあったから“クラッシャー不破”の名を知らないようだった。


「天才児にして問題児。あいつにプライドズタズタにされたやつは多数。ついたあだ名はクラッシャー・・・壊し屋ってわけだ」

「そうだったんだ・・・。くんは不破くんと仲良いの?」


名前で呼んでるし、怖がってないみたいだし。と言われて、うーんとこぼしてしまう。仲が良い、と言っていいものかどうか。なぜかあちこち擦り傷だらけだった大地の手当てをしたら変に気に入られただけなんだが。


「それにしても、おまえが相手をしていた壁は、もしかして大地だったのか?」

「うん、不破くんすごいんだよ!サッカーしたことないのに、次々セーブされちゃって、さ・・・」


思い出して落ち込むな。だがそんな大地がここにきたってことは、将は大地に勝ったという事だろう。入部するのはリベンジするため、だろうか。


「2−Cの不破大地。志望動機は・・・そいつの笑顔の真相を究明したい!それだけだ」


指差され、将が驚いている。・・・確かに将の笑顔は不思議なものがあると思うが、なんだその志望動機は。


「経験はゼロだがオレの方が直にうまくなる、予定だ」

「言うじゃないか」


しかしやってのけそうなところがこいつのこわいところだ。頭もよくて運動もできる。ただし性格に問題アリ。将との対決はPKとのことだったから、GK向きだろう。フィールドプレイヤーにはおそらくむかない、性格的に。


「あと、もうひとつ」


竜也の声に、みんながそっちに集中する。竜也の隣には女子が1人。マネージャー希望の2−Bの小島有希。・・・どうも裏がある気がするな、この子。
ともあれ俺たちは新しい仲間を加え、夏に向かって走り出した。




















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