先行く不安
アスベル達が戻ってきて父アストンと話した後、これからラントにしばらく滞在するという王都からの要人の使者が訪れた。なんでも要人を乗せた亀車が時間になっても到着しな
いらしい。事故にでもあったのか、はたまたモンスターに襲撃されたか。心配になったアストンは、やほかの兵達をつれて街を出た。
予想が的中してしまい、亀車はモンスターに襲撃されていた。背に負った大剣を抜き、はモンスターに応戦する。とそこへ、小さな影が複数視界に入ってきたのがわかっ
た。
「アスベル、ヒューバート、シェリアにあの子まで・・・!」
「お前たち・・・!危険だ!近づいてはいかん!」
アストンが声をあげるが、アスベルは引く気はないらしい。石を投げて一頭を自分達の方へとおびき寄せた。
「アスベル!ヒューバート!」
だがこちらはこちらでイーグルに手こずってしまっている。アスベルたちが怪我をしないことを祈りながら、は一頭ずつ確実にしとめていった。
戦闘はなんとか終わった。アスベル達も無事のようだ。はアスベル達のことを父に任せ、シェリアやフレデリックとともに亀車の方へと向かった。
「お怪我はございませんでしたか?」
「大丈夫です」
第一印象は、利発そう、だった。弟達と同年代の少年、ウィンドル王国の王子、リチャード。
「ご無事でよかったです。警備の不行き届き申し訳ありませんでした。後ほど改めて父よりお詫び申し上げます」
「・・・あの子たちは?」
リチャードが目を向けたのは、アスベルたちだった。ちょうどアストンから叱責を受けているところである。
「アストン・ラントの息子、私の弟たちと、その友人、です」
まだ名も知らぬ少女をなんと言っていいかわからずは彼らの友人と称す。リチャードは「そうですか」と言うと少し沈黙した。
「・・・リチャード様?弟達が、なにか」
「あの子たちが助けてくれたのだから、いいと思う」
「・・・・・ありがとうございます」
弟の勝手な行動がよしと見なされたようで少々複雑ではあるが、は素直に受け入れる。アスベルたちを叱り終えたアストンが戻ってきて、亀車は再びうごきはじめた。
アスベルはリチャードに関わるなとアストンに言われたが、彼がおとなしく言いつけを守るわけもなく、いつの間にか客間に潜入してリチャードとコンタクトをとっていた。なぜ
かリチャードのかわりに剣の稽古をして、さらにはリチャードを、アスベルが連れてきたソフィと名付けた少女と共に街の外へと連れ出したらしい。父にきかれたらごまかせとア
スベルに言われたヒューバートとシェリアだったが、にはあっさりと報告した。それをきいたときにはすでに日は暮れてしまっていたが、アスベルたちはまだ戻ってきて
いない。リチャードの護衛たちの話では、リチャードの剣術指南役であるビアスの姿もないらしい。何かあったのでは、と不安がよぎるが、真っ暗な夜に動くのはこちらも危ない
。一同は朝になってからアスベルたちを探すこととなった。
夜明け直前に動きだす。目指す場所はラントの裏山。フレデリックと、リチャードの護衛達とともには早足で進んだ。ヒューバートたちからきいたときに自分だけでも向
かえばよかった。今更思っても仕方のないことだが、そればかりが胸を渦巻いていた。裏山につく頃には日も昇ってきていて、彼らを探しやすい状況となっていた。
「アスベルー!リチャード様ー!ソフィー!」
花が咲き誇るその奥の大木のそばにみっつの影が見える。それは見知った姿と、新たに知った姿たち。は彼らの姿を目に留めると駆け足で近寄った。
「アスベル!」
「姉さん!」
「心配かけて・・・!」
近寄った勢いのままアスベルを抱きしめる。慌てるアスベルをすぐに離し、リチャードに向き直る。
「リチャード様、弟が危険な目にあわせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ、むしろアスベルたちを危険な目にあわせてしまったのは僕の方です。巻き込んでしまってすみません」
ビアスのことを言っているのだろう。彼は先ほどこの花畑で倒れているのが発見された。打ち傷ばかりだったから、アスベルとソフィが倒したのだと思われる。そしてこのリチャ
ードの言動から、ビアスがリチャードを襲ったことがわかった。
「ともかく、ラントへ戻りましょう。私もついて戻ります」
は三人を連れ、裏山をあとにした。
街に戻ると案の定アスベルはアストンのしかりをうけたが、リチャードがアスベルをかばった。すべての責任は自分にあると。それによってこの件に関しては不問となった。が、
禁じられているはずの裏山に行った件は有効で、アスベルは自室での謹慎を命じられた。続いてアストンはへ向き直る。
「」
「はい」
「おまえは知っていたようだな、アスベルが裏山へいったと」
「はい」
「本来ならばおまえにも罰を言い渡すところだ」
「おっしゃるとおりです」
禁じられている裏山へ行ったことを黙認していたのだ。当然である。
「だが今回はいい。おまえにはやってもらうことがある」
「?・・・はい」
なんだろうか。疑問に思うをそのままにし、アストンはリチャードに向き直った。そして王の容態が悪化したことを伝えた。リチャードはすぐに王都に戻ることになり、
それにヒューバートともついていくこととなった。身支度をしている時、母ケリーの表情が暗いことに気づいては首を傾げる。
「母さん?どうしました?」
「・・・」
ケリーはレティカの顔を見て目を潤ませ、彼女を抱きしめる。
「母さん・・・?」
「ヒューバートを・・・お願いね」
「・・・・・」
母の様子がおかしい。だがこの場できいてはいけない気がして、はただ「はい」と頷くことしかできなかった。
王都へ行くまでの間、父はヒューバートを連れていく件についてなにも語らなかった。当のヒューバートは王都へいけることがうれしくてそわそわしている。
「・・・本当は」
不意に口を開いたアストンには顔を向けた。なんだろうかとその横顔を見つめる。アストンは顔を正面に向けたまま続けた。
「本当はこんなことを罰にしたくはないが・・・耐えてもらうぞ、」
どういうことなのだろうか。問いただすこともできない雰囲気で、は小さく「はい」と答えた。父も母も様子がおかしい。これからなにがあるのだろうかと、は
少々不安を覚えたのだった。
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