とアニスは猛ダッシュでエンゲーブに戻っていた。アニスの相方トクナガでモンスターを蹴散らしていくとあっという間だった。それからエンゲーブに共に来ていた部下たちをかき集めてタルタロスに乗艦する。今すぐにチーグルの森へ向かうという無茶苦茶な命令をしたことはわかっているが、「大佐命令よ!」と言ってしまえば部下たちも従わざるおえないし、何が何でもやらなければという気になる。決して恐怖政治ではないのだが、ジェイドには絶対的な何かがあるのであろう。部下たちはジェイドとの期待通りすぐさま発進準備を整え、チーグルの森へとタルタロスを走らせたのだった。
どうやら彼らはまだここまで戻ってきていないようだ。森の入口でアニスとは待ち、その付近に部下が数名潜んでいた。やがて人の足音がきこえてきて、人数や足音の感じからルークたちだと把握する。
「お帰りなさ~い♡」
「ご苦労様でした。タルタロスは?」
「森の前に待機させています」
が報告を終えると、茂みに隠れていた兵士たちがルークとティアを取り囲む。突然のことに二人は当然動揺した。
「おい、どういうことだ!?」
「そこの二人を捕らえなさい。正体不明の第七音素をを放出していたのは、彼らです」
「は!」
ジェイドの命令で兵士たちが一歩また一歩とルークたちに迫る。
「ジェイド!二人に乱暴なことは・・・!」
平和の象徴イオンが切なげな声をあげてジェイドを見た。
「ご安心ください。何も殺そういう訳ではありませんから。・・・二人が暴れなければ」
それはつまり、抵抗すれば死を見ることになるかもしれないということ。ルークもティアもすぐに把握し、武器をとろうとしていた手を力なく下ろした。
「いい子ですね。― 連行せよ」
「は」
かくして彼らはジェイドたちに捕らえられ、陸上艦タルタロスへと連行されたのだった。
ルーク、ティアをタルタロスに連行し、その一室に押し込める。その部屋には彼らの他に、ジェイド、アニス、イオン、、ジェイドの副官であるマルコがいた。〝いろいろなお話〟を聞かせてもらった。この付近で謎の超振動が計測されていたのだが、それが彼らであり、キムラスカ・ランバルディア王国から彼らが不可抗力とはいえ不法入国してきたことがわかった。またルークのフルネームは〝ルーク・フォン・ファブレ〟といい、キムラスカ王国の王族に連なる者であるらしい。ルークがフルネームを名乗った時の眉がぴくりと動いたが気づいたのはジェイドくらいで、それもルークが〝お前らが誘拐に失敗した〟などというので流された。その件はこの場の誰も知ることではなかったので置いておくこととなったが、ここでイオンが重大な提案を出した。マルクトとキムラスカの平和条約、ルークにも協力してもらえないか、と。ルークは王族に連なるファブレ公爵家の子息だ。彼の口添えがあれば平和条約も多少進みやすくなるかもしれない。そう考えての提案だった。
「これからあなた方を解放します。軍事機密に関わる場所以外は、全て立ち入りを許可しましょう」
「大佐」
さすがにそれは、とは声を上げたが、ジェイドの視線を受けて口を閉ざした。ジェイドは彼らに目を戻して続ける。
「まずは私たちを知ってください。その上で信じられると思えたら力を貸して欲しいのです。戦争を起こさせないために」
「協力してほしいんなら、詳しい話をしてくれればいいだろ」
はこの、ルークの上から物を言う言い方に再び眉を動かした。これもまた気づいたのはジェイドだけである。
「説明してなお、ご協力いただけない場合、あなた方を軟禁しなくてはなりません」
「何・・・!」
「ことは国家機密です。ですからその前に決心を促しているのですよ。どうかよろしくお願いします」
「詳しい話はあなたの協力を取り付けてからになるでしょう。どうかよろしくお願いします」
「ルーク様♡私、ルーク様と旅がしたいです♡」
ジェイド、イオンが言ってドアの方へ歩いて行く。ルークが貴族と知って声色を変えたアニスはまだこの部屋に残るようだ。は半眼でルークを見る。
「な、なんだよ?」
「・・・別に」
「、あまり睨んではかわいそうですよ」
「・・・失礼」
ジェイドに促され、はくるりとルークに背を向ける。そのまま三人は部屋を出ていき、残されたあとルークはなんだったんだと軽く首をひねっていた。
ルークたちは艦内を探索していた。師団員たちやイオン、ジェイドに話を聞きながら、立ち入ることを許された場所を歩いて行く。ふとルークはひとつのドアの前で足を止めた。
「ここはなんだ?」
「あー、ここはたしかぁ」
アニスがドアノブに付けられた〝印〟を見て、うんうんと頷く。
「ここは少佐のお部屋ですねぇ~」
「・・・さっき睨んできたやつか」
ルークは苦手意識ができてしまったのか、眉間に皺を寄せた。そして「じゃあいいや」と通り過ぎようとしたとき、ガチャリとドアが開いた。
「あ」
「少佐」
「あれ?なんだかご機嫌斜めですぅ?」
「・・・・・」
ルークが声を漏らし、ティアがその名を呼び、アニスが彼女をまじまじと見る。はその一行をつらーっと眺めた後、踵を返して歩き出した。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
それを、ルークが止める。なぜわざわざ止めたのかと、その場の誰もが思った。
「・・・何か?」
「あ、いや、えっと・・・」
だが本人にもなぜ止めてしまったのかよくわかっていない様子で、しどろもどろ言葉を濁す。
「用が無いなら行くけれど」
「あ、その」
「少佐、よろしければお話を伺えませんか?あなた方のことを知るためにも」
ルークのどもりを拾ったのはティアだった。は半眼をルークからティアに移す。
「悪いけれど、私から話せることは何もないわ」
「そう、ですか」
「えぇ、私事を挟んで申し訳ないけど」
言いながらは再びルークへ視線を戻す。半眼、というよりはジト目と称すのが合っているだろう目つき。その目にルークが小さく「う」と漏らした。
「私、高慢で身勝手な貴族が好きではないの」
「んなっ!?」
そうしては彼らに背を向けて歩いて行く。唖然としてその背を見送るティアとアニス、拳を震わせて「何なんだよあいつは!?」と声を上げるルークだけが残された。