女神への反逆者






















預言なんて、くそくらえだ。


















、23歳、女、ごくごく一般農家の生まれ。彼女は預言士によって結婚を詠まれ、マルクト帝国名門貴族、ユースティス家に嫁いだ。家族は娘が貴族へ嫁ぐことを喜んだ。裕福なところへいけるからと。だが、そんなものは夢物語だ。マルクトはそれほど貧富の差があるわけではないがその一門は違うらしく、平民であるを歓迎などしなかった。夫となったケルニーですら、蔑む目を向けた。幸せどころか、不幸へと落とされた。預言のせいで。はあらがうことを決意した。元々村を魔物から守るために我流で剣を覚えて自警をしていたこともあり、単身でマルクト帝国軍へ入隊した。姓はユースティスを使ってあれこれいわれるのは面倒だし、あらがうと決めたのにそれを使うのも変だと思い、元のを使った。追ってくる様子もないし、放置しておけばいいと判断したのだろう。離婚したわけではないから預言には反していない。それだけで厄介払いができたということだ。もちろん平民上がりで女であるが軍で楽なことなどひとつもなかった。魔物や賊の相手をしてある意味実戦経験のある彼女は、並の兵士ならあっという間に倒せて実力は十分。しかし噂とはどこからか吹いて来るもので、が預言に逆らって軍にきたことは、瞬く間に広がった。それからは陰で『女神への反逆者』と言われるようになり、彼女の味方は周りにはほとんどいなくなっていた。



















はぐんぐん昇格し、いつしか小尉となっていた。そんなある日、彼女に転属命令が言い渡された。配属先は第三師団。それは、『死霊使いジェイド』がいるという隊だった。


「本日づけで第三師団員となります、小尉です」


さすがに軍の集団とあろうものがざわつきはしなかったが、空気が少しピリッと張りつめたのがわかった。そんな様子に内心うんざりしながら、は指定された位置に整列した。そのまま団内訓練が始まった。当然、といえば当然か、へのさりげない“いじわる”が多方向から向けられた。


「どうした?息があがってんじゃないか?」

「どこをどうみたらそう見えるんでしょうかねぇ?」


剣がギリギリ擦りあっている。不意に背後からくる気配に気づいて右に跳びのいた。チッという舌打ちをきいて彼らに向き合う。


「そんな、ねぇ、こんな小娘相手に二人がかりで来なくても」


しかも背後から。とは口にはしなかったが、カチンときたのが見て取れた。


「謙遜すんなよ、“小尉殿”」

「・・・・・」


あぁいやだいやだ。は目を細めてため息をつき、キッと彼らに鋭い目を向ける。その様子に彼らは少々たじろいだが、そんなの知ったことではない。


「ふたりまとめて、どうぞ」

「こんの・・・!」


一人が剣を振りあげる。それを軽くいなし、次の手を受け止める。キリ、と刃同士が擦りあう音がした。くんっと手首をかえして流し、足払いをかける。


「っ・・・!」


尻餅をついたところで顔すれすれに剣を地面に突き立ててしまえば、一人戦意喪失。もう一人にも足払いをかけて、小さく“紡ぐ”。


「水の刃よ、我が敵を・・・」


詠唱はそこで止まった。目の前に矛先が現れたからである。ゆっくりと右へ引かれていくそれを目で追って、槍を出した主を目にする。


「そこまでです」


ジェイド・カーティス小佐。第三師団の死霊使い。その眼鏡のレンズ奥の赤い瞳はなにを思っているのか見えない。と戦っていた二人も息をのんで彼を見ていた。


「少々“おいた”が過ぎますね。そこの二人はこれから今日一日謹慎処分とします。そちらの・・・小尉は、あとで私の執務室に来るように」


小佐の命令には逆らえず、三人とも素直に頷く。訓練はそこで終了となり、男二人は部屋にて謹慎、はジェイドの執務室へと向かった。




















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