マムシと呼ばれる男






















校内ランキング戦一日目。今日は一人平均3試合行う。リョーマはすでに2試合終わり、どちらも6−0で勝利。


「次は海堂かー」

「・・・なんスか」

「え?」


リーグ表を見ながらつぶやくと、いつの間にか後ろに本人がいた。


「ああ、次のリョーマの相手は君だなって思ってただけ」

「・・・・・」

(えーと・・・)


口数が少ない子なんだろうか。それに加えて目つき悪・・・鋭いから、睨まれているように思ってしまう。
でもまぁ私の場合は若で慣れてるし、こういう子は精神的に強くて優しい子が多かったりする。こういうところも、かわいいし。


「念の為言っておくけど、リョーマを贔屓するつもりはないよ。そりゃ、勝ってレギュラーになったら嬉しいけど。
でも、実力のある人がレギュラーになるのは道理だよ。そのへんは読み違えないでほしい。私はこれでも、完全実力主義、弱肉強食の氷帝にいたんだから」


もっとも氷帝の場合、負けたら二度と上には上がれないと言われているけど。


「・・・そうっスか。勝つのは、俺だ」


そう言うと海堂は去っていった。悪い子ではないのだろうが、プライドは少し高そうだ。ますます、若に似ているな・・・。























リョーマと海堂の試合が始まった。どちらも退かない、強烈なラリー。そして、リョーマが上手く逆をついて決まるように思えた。
でも海堂はそれに追いつき、むしろそれを利用するかのように腕を振り抜いた。ボールは弧を描き、ネット際で跳ねて外へ逃げた。


(バギーホイップショット・・・?)


何かで見た事がある。形が少し違うから、それの応用なのかもしれない。それにしても海堂、なんてリーチの長さ。


「スネイク」

「スネイク?」


周助の言葉を繰り返す。


「海堂の技の事だよ」

「んでもってスネイクで左右に走らされて大幅に体力を削る・・・。じわじわいたぶるから、マムシって呼ばれるんだにゃー」

「・・・重」


後ろからのしかかってきた英二が解説してくれるが、迷惑も置かないでほしい。
なんだかデジャヴ。よくジロちゃんとがっくんが乗っかってきてたなぁ・・・。なんて、懐かしがっている場合じゃない。


「マムシ、ねぇ・・・」


確かに蛇のようなプレイスタイルだ。ラリーが続き、スネイクを打たれ、リョーマが打ち返す。
体力を消耗して汗の量が多くなってきている。でも、汗の量が多くなっているのは、リョーマだけでなく、海堂もだった。


「うーん。さすがリョーマ、抜け目ないなぁ」

?」

「はめられたかもしれないけど、リョーマも海堂をはめてるよ」


ほら、とリョーマが繰り出す球を示す。リョーマの球は低くて深いライン際。それによって海堂に低姿勢を保たせるようにしたのだ。


「策に溺れたな、海堂・・・」


国光が呟く。はめたつもりがはめられたと気づいても海堂は気力をなくしてはおらず、強気のサーブを打った。


「・・・『スネイク』って、『バギーホイップショット』のことだよね?」

「何!?」


リョーマのリターンは弧を描き、海堂のコートに突き刺さった。


「うわー・・・打っちゃった」


さすがに『スネイク』ほどキレはなく、ミニバギーホイップショットと言ったところだけど。リョーマのリーチで打つのはキツイだろう。
しかしリョーマ、さっき雑誌で打ち方を見て、実物を見たのは今のが初めて、で打ってしまったらしい。末恐ろしい子だこと。


「・・・やけに試合慣れしているな。それも、相当力のある相手と。お前か?」

「確かによく打ってたけど、2年の間があるからね、私は。・・・ウチには、もっとすごいのがいてね」

「もっと、すごいのだと・・・?」


おそらく国光はすぐ気づくだろう。サムライ、越前南次郎という存在に。














そしてゲームは、6−4でリョーマの勝利に終わった。



















「お疲れ、リョーマ」

「ん」


リョーマはそのままコートを出て行く。と、急に変な音がし始めた。何かを殴るような・・・。


「海堂!?」


見れば、海堂が自分の膝をラケットで殴りつけていた。


「Stop」

「!!」


海堂の右手首を掴んで止める。抵抗されるけど離してやらない。


「こんなことして次に支障が出来たらどうすんの?まだ終わってないでしょ?」

「・・・・・」

「悔しいのはわかるけど、冷静になりなさいよ、薫」

「・・・ッ!?」


ファーストネームで呼ぶと、不意を突かれたように驚き、目を丸くする。名前呼びされ慣れていないと、こういう時に効果的だったりする。


「まだ次があるよ、薫」

「・・・っス」

「さて、治療しますか」


右手首を掴んだまま、薫をコート外へ連れ出す。


「レギュラーの座は・・・諦めねぇ・・・!絶対に・・・!」


貞治とすれ違う時、薫がそう言ったのを、確かに聞いた。
























薫の治療を終え、ふとりーぐ表を目にする。今の所、Dブロックで全勝はリョーマと貞治。リョーマが貞治に勝てばリョーマのレギュラー確定。
貞治と薫で、勝った方がレギュラーに。リョーマが貞治に負けて薫が貞治に勝ったら、3人とも一敗。そうなったらおそらくスコアで見るのだろう。


「いやいや、おねーちゃんはリョーマが勝つのを信じてますよっと」


贔屓してないって言ったけど、やっぱり勝ってほしいとは思う。




今期のレギュラーは、明日、決まる。
















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