認めざるを得ない実力
放課後になりました。今日から仮入部開始という事で、1年生の姿も見える。もちろん、リョーマも。
しかし、なぜか2年がリョーマにつっかかっていた。かっこ悪いったらありゃしない。
止めるか否か迷っていたとき、学校指定ジャージとは違う、いわゆるレギュラージャージを着た5人が入って来た。
3年副部長、大石秀一郎。同じく3年、不二周助、乾貞治、菊丸英二。
2年、海堂薫。
レギュラーはこのメンバーに、部長の手塚国光、2年の桃城武を加えたメンバーだ。
「ちぃーっす!!!」
1、2年の声が重なる。副部長である秀一郎が指示を出し、ばらける。レギュラー陣も打つらしいので、お手並み拝見だ。
レギュラー陣が始めたのは、反対コートからロブを上げてスマッシュで籠に返すというもの。青学レギュラーならこれくらい軽いだろう。
と、その時、ロブが大きめになった。その先には、リョーマ。
(これ、打つなぁ・・・)
思った通り、リョーマは来たボールをスマッシュし、籠に返してみせた。誰もが、リョーマに注目する。
「あんがい簡単だね」
そして挑発することも忘れない。我が弟ながら、なんて恐いモノ知らず。
案の定、さっきの2年につっかかられ、胸倉を掴まれる。その手を離せ。
「ナメた真似しやがって!!1年坊主がしゃしゃり出る場所はねぇんだよ!!」
弱い犬ほどよく吠える。とりあえず止めようと口を開くが、出たのは違う所からの声だった。
「コート内で何をもめている」
部長、手塚国光の登場だ。
「騒ぎを起こした罰だ。そこの二人、グラウンド10周!」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ。コイツが・・・」
「20周だ!!」
あの2年が余計な口を出すから周回数が増えた。
「全員ウォーミングアップ!!済んだ者から2年3年はコートに入れ!!1年は球拾いの準備につけ!以上!!」
「「ハイ!!」」
国光の声で場が引き締まる。とりあえず、リョーマがあの2年の恨みを買ってしまったことは、間違いなかった。
翌日の放課後練習。やはり、2年がリョーマにくってかかった。どうやらラケットが無くなったらしい。
「ねぇ貞治、あの2年の名前は?」
「ん?あぁ、荒井か。またあの1年に絡んでるのか」
荒井・・・変な因縁つけて、馬鹿らしい。リョーマのラケットが無くなったのだって、こいつとその取り巻きが隠したのだろう。
でなければラケット3本もそうそう無くなる訳がない。
「Ungly・・・」(醜い・・・)
「口が悪いぞ?」
「そう思うのなら止めたら?」
「うーん・・・」
うーんて。周助は止める気無さそうだな。荒井がリョーマに投げたラケットは、ボロボロでガタガタなもの。それで試合をしろというのだ。
本来なら、こんなラケットでまともなプレーができるわけがない。
「部長達が帰ってきたらどやされるしなぁ」
「・・・うーん」
まただ。また周助は歯切れの悪い相槌。
リョーマは退かないだろう。でも安い挑発にはのらない。荒井はまだべらべらと続けている。
「1年のお前にはそのラケットがお似合いだぜ。これに懲りて二度とでしゃばるんじゃねぇぞ。
そうすれば大事なラケット、3本とも¥oてくるかもな!」
やっぱりね。おっと、リョーマの目の色が変わった。
「いるよね。弱いからって小細工するやつ」
リョーマはコート内へと歩き出している。
「いーよ、やろうか」
さすがは我が弟。変に感心してしまう。
「うん、もうちょっと見てみたい」
「そう言うと思った」
「周助、面白がってるでしょ・・・」
青学の天才、恐るべし。その笑顔の下に、一体どんな顔が隠されているのやら・・・。
「ん?何か言った?」
「え、いや!?何も言ってないよ!?」
「そう?」
この人、読心術でも持っているんだろうか・・・。
結局レギュラー陣で止めるものは一人もおらず、私もリョーマを見守ることにした。
ボロボロでガットゆるゆる、フレームガタガタのラケットでは、さすがのリョーマも普通には打てなかった。
けど、それで終わらせないのがリョーマ。次のリターンは荒井のコートに決まった。
「おー、からだ全体回転させてスピンかけたよ」
「やるじゃん」
レギュラー陣も感心、1、2年は騒然となった。「めちゃくちゃ速かったよ!!」という声が聞こえてため息をつく。
((めちゃくちゃ遅ー―っ))
今、リョーマとシンクロした自信ある。リョーマの球はこんなものではない。
一度コツを掴めばあとは簡単だ。その後もリョーマは打ち返していく。
「弘法は筆を選ばず、ってやつ・・・かな」
「ウチのリョーマをなめるからあんな目見るんだよ、荒井」
「・・・ウチの?」
周助がこちらを向く。あれ、もしかして気づいてなかったのか?
「うん、アレ、私の弟」
「『それはもう生意気な弟』?」
「そ。可愛いでしょ」
「・・・彼が」
後ろで、「来るな、あいつ」ときこえた。青学はレギュラーを決める際、校内ランキング戦というものをすると聞いた。
1年は秋まで参加できないのが普通らしいけど、レギュラーにそう言わすだけの実力を見てもらえたという事か。
「やったね、リョーマ」
リョーマはあのボロラケットで、荒井を0ゲームで抑えてしまった。
その後、全員グラウンドを走らされたわけだが、それになぜだか私も含まれていて、グラウンドを走る羽目になった。
翌朝、部室で国光に封筒を渡された。
なにこれ、と言いつつ中身を出してみる。それは、4枚のリーグ戦用紙だった。
「これが、例の校内ランキング戦の組み合わせ?」
「そうだ」
「ふーん・・・上手い事実力わけるの大変そうだなぁ。・・・お」
Dブロックの下にその名前があって、無意識に口角が上がる。
国光も、実力を認めざるをえなかったという事か。おそらく、自分がそうであったように。
「レギュラーは海堂薫と乾貞治、か」
リョーマがどう戦うか、楽しみだ。
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