黒の集団
もうすぐ決勝が始まる。そして今、試合開始前に、不動峰中と対峙している。不動峰は去年の新人戦の直前に暴力沙汰を起こし、出場を辞退している。
試合を見てきた貞治によると、去年とは全く別物らしい。区が違ったから元がどんなものか知らないけど。
部長以外はみんな2年の新レギュラー。部長と監督を兼任している男の名は、『橘桔平』。
(橘桔平・・・?)
どこかできいたような、と思っていた矢先、不動峰が現れたのだ。部長らしき彼が、国光の前に立つ。
「手塚だな。俺は不動峰の部長、橘だ。いい試合をしよう」
「ああ」
二人は固く握手を交わした。それにしても橘・・・どこかで見たような気はする。どこか引っかかりを感じる。なのに出て来なくてもどかしい。
どこだ?東京ではない気がする。関東・・・いや、全国・・・。
「!」
思い出した。橘桔平。獅子楽中、九州二翼と呼ばれた橘桔平。外見も表情も変わったから、すぐにはわからなかった。これは、面白くなりそうだ。
決勝のオーダー
D2 不二・河村
D1 大石・菊丸
S3 海堂
S2 越前
S1 手塚
もし、S1まで回ったら、地区大会にして全国区同士の対決となる。国光の腕の経過もあるし、その前に決着をつけたいところだ。
D2の試合が始まる。青学不二・河村ペア対不動峰桜井・石田ペア。ここでまたふと気づく。
(石田・・・石田鉄?・・・って、銀さんの弟の!?)
大坂四天宝寺中3年の石田銀。実家は東京不動峰で、1つ下の弟がいると言っていた。これは、なんという巡り合せだろう。
四天宝寺と縁のある人が、二人もいるなんて。これはますます、面白い。
不動峰の2年生ペア、周助、タカさんとうまいことやりあっている。鉄くんも銀さんと同じくパワープレイヤーだ。
どちらも退かず、ラリーの応酬が続いている。と、周助が、決めに出た。
「何あれ、球が弾まなかった!」
「不二の得意とするトリプルカウンターのひとつ、『つばめ返し』だ」
つばめ返し。相手のトップスピンを利用し、さらに同じ方向に回転を与え、二乗の超回転を与えたスライスのカウンターショット、なのだそうだ。
確かに地をゆくその様は、地面すれすれを滑空する燕のよう。
「さすがは青学の天才、不二周助・・・青学ナンバー2で、全国区に近い男」
今ので流れが変わり、青学が押し始めた。
しかし、それで退く不動峰ではなかった。鉄くんの、特殊な構え。あれは。
「波動球!!」
鉄くんの渾身のフラットショットが周助に向かって行く。威力は銀さんには遠く及ばないが、周助の力であれを返すのは無理だ。
「不二、どけ!!」
「!」
ボールが周助に届く直前、タカさんが割り込んで、波動球を打ち返した。タカさん、なんてパワーだ。だが、それでも鉄くんは退かなかった。
連続で波動球を打つつもりだ。彼の筋力では、腕を壊しかねない。できれば止めさせたい。しかし、それはかなわなかった。
波動球の威力に耐えられなかったのか、ラケットのガットが切れたのだ。ゲームカウントは5−3で青学のリード。だが。
タカさんの手首も、限界だった。
周助が審判に棄権を申し出る。タカさんはまだやるつもりでいるが。
「やめときなさい、タカさん。波動球はそんな、生易しい物じゃないよ」
「の言うとおりだよ、タカさん。後は大丈夫だから。ねっ」
「あ・・・あぁ。ス、スマン・・・みんな・・・」
ラケットを取り上げられてタカさんが大人しくなる。そのままタカさんは病院へと向かった。
「ところで、『波動球』のことを知っていた様だが・・・」
「石田くんには1つ上の、私たちとタメのお兄さんがいてね。波動球は彼発案」
「ほぉ・・・」
貞治が新たなデータをノートに書き込んだ。
もっとも、銀さんの『百八式波動球』は、鉄くんのそれとは比べ物にならない、天と地の差があるけどね・・・。
次はD1。これは無事におさえておきたいところだ。雲が出て来たし、一雨来るかもしれない。
D1 青学 大石・菊丸ペア 対 不動峰 森・内村ペア
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