緒戦のオーダー
「あれー?リョーマは?」
「リョーマくんならもう帰りましたよ。桃ちゃん先輩と」
「え!!」
地区予選二日前。弟の姉離れの危機。
「リョーマってば、愛しいお姉さまをほっぽいて桃と浮気なんて・・・」
「なぁにが浮気だい。ちったぁ弟離れしたらどうなんだい」
「えー・・・」
独り言を聞かれたらしい。スミレちゃんにツッコまれた。
「ところで、もう帰るかい?」
「何か用が?」
「うーん・・・ちと相談に乗ってはくれんか?」
スミレちゃんが私に相談?
「いいですけど」
「それは良かった。オーダーを決めかねていてね・・・」
「ああ・・・」
確かに組みにくそうだ。
職員室に移動して、オーダーの候補を見せてもらう。候補というか、S3とD2が埋まってないけど。
「S1は手塚、S2は不二、D1は大石・菊丸ペアってとこまでは考えとるんだが・・・」
「周助・・・不二はダブルスでもいけるんじゃないですか?河村と組ませてみるとか」
「うーむ・・・それもそうなんだが・・・」
「1、2年生組は協調性無さそうなのばっかだし・・・」
「そうだねぇ・・・」
スミレちゃんはそう相槌をうってまたうーんとうなった。
「緒戦だし、いっそ手塚を温存するとか」
「それでダブルスを大石・菊丸、不二・河村にしちまうと、シングルスを1、2年で固める事になるぞ?」
「あぁ、そっか。じゃあ手塚は温存せず、シングルス2、3に3人の誰かをあてる?」
「それがいいかねぇ・・・。ちなみにリョーマは、ダブルスの経験は?」
「私が知る限りでは無し。父さん対私たちってのはやったことあるけど、数える内に入らないと思う」
「あんたら姉弟だと息の合い方も他の連中とは違うだろうからねぇ」
いやぁ、それほどでも。
とにかくリョーマは、私以外とはとても誰かとペア組めそうな性格じゃない。
「どうしたものか・・・ん?あ、ごめんスミレちゃん、電話」
携帯がバイブで震えている。発信源は・・・公衆電話?
「はい?」
『あ、、俺』
「リョーマ?」
なんでリョーマが公衆電話から電話?とっくに帰ったはずなのに。
『まだ学校?』
「うん。スミレちゃんと明後日のオーダー考えてたとこ」
『丁度良かった。俺、桃先輩とダブルス組むから』
「・・・はい?」
今、信じられない事を聞いたような。
『そう、
竜崎先生 に言っといて。じゃ』
「え、ちょ、リョーマ!?」
ガチャン、と電話が切れて、虚しくツーツーと流れる。仕方なくこちらも通話を切る。
「リョーマ、なんだって?」
「・・・リョーマが、桃とダブルス組むって」
「・・・はぁ?」
スミレちゃんも思わず抜けた声。だって、ねぇ?
「よりにもよってあの二人がダブルスとは・・・」
「何かあったのかも」
「そうだな。だが、組みやすくなったし、これはこれで面白いかもしれんな」
面白い、のかなぁ・・・。不安でしかないんだけど。
「付き合わせて悪かったな、」
「いえいえ。こういうのもマネージャーの仕事だし」
「お前さんは、そういう<}ネージャー志望だったな。希望校は決めてんのかい?」
「・・・はい、一応は」
「あんたの人生だ。あんた自身が決めるんだよ」
「はい」
「それじゃ、気を付けて帰りな」
「はい」
職員室から出て、すっかりオレンジが暗い青に染まった空を見る。
私の将来も心配だけど、今は明後日の方が心配だ。
リョーマと桃のダブルスか・・・吉と出るか、凶と出るか。
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