恐怖の乾汁
地区予選が近づいて来て、みんな気合充分だ。
「スミレちゃんパワフル〜」
とても中学生の孫がいるお歳の方の球出しとは思えないパワーだ。私も負けてられないな。
「いっくよー」
パァンと音を立てて球を出す。
「ひーっ、先輩球出しキツッ」
「竜崎先生に負けず劣らずだな・・・」
伊達に2年間氷帝でレギュラー相手にしてませんから。
「よし!!全員整列だ!!」
国光の一声で全員が整列する。私は国光の隣についた。スミレちゃんからの激励を受け、練習再開。
レギュラーはA・Bコートだ。私もレギュラーコートへ・・・。
「ちょっとお待ち」
向かおうとした時、スミレちゃんから Stop の声がかかる。
「
お前達 には、この男にとっておきの練習メニューを頼んでおいた」
キラーンと逆行眼鏡が光り、貞治が現れた。全国までの長い試合を乗り切る為、足腰の強化から入るとのこと。
レギュラー全員パワーアンクルを足に装着する。片足250gの鉛板二枚、両足で1kg。
半分からならいけるかな、とこっそり段ボール箱の中から予備のアンクルを出してつけた。
さらに、赤・青・黄のカラーコーンと、同じように溝を塗り分けたボール。これを同じ色のコーンに当てるという事らしい。
まず楽にやってのけたのは、動体視力の高い英二。そしてリョーマ。でも、何球かやっているうちに重りがきいてきたようだ。
貞治の引っかけに、英二はまんまとはまった。ミスしたので交代。そして、貞治がミスした者には、と出したものは、なにやら緑色の濃そうな飲み物だった。
「乾特製野菜汁・・・?」
貞治と英二が笑顔を交わし・・・・・英二は飲みきった直後、水飲み場へとダッシュしていった。
「一体どんな味・・・?」
そして、それに気を取られてしまっていたリョーマもミス。緑の液体を飲み・・・思い切り口を押えてダッシュして行った。
「あああ・・・リョーマぁぁぁ・・・!」
本当、何の味がするんだろう。野菜汁というなら、野菜?とてつもなく苦いとか?心配だけど練習を放置するわけにはいかない。
とりあえず、絶ッ対、飲みたくないと思った。
それにしても・・・貞治楽しんでないか・・・?
しかし、なんとチャレンジャーがいた。
「ちょっと飲んでみたくてさ」
ちょっと飲んでみたくてでわざとミスして、みんなが倒れる汁に挑戦するのか・・・。周助は汁を一気に飲み干し・・・。
「っはーっ!なんだこれ、結構美味しいよ。オススメ!」
・・・と言ってのけた。一体、どういう味覚してるんだ・・・?
「飲んでみる?」
「・・・全力で遠慮しておきます」
だから笑顔でその汁を差し出そうとしないでクダサイ。
みんながコートに倒れ伏す中、貞治がみんなの改善点を告げる。
「ミスらなかった手塚はさすがだが、柔軟が必要だ。表情も硬いしね」
「「ププッ」」
え、どうして今私だけ睨まれたの?
「そして越前」
カチャ、と瓶がぶつかり合う。
「毎日2本ずついこう」
貞治が取り出したのは牛乳だった。
「いくら牛乳飲んだって、そんなすぐデカくなるわけ・・・」
「「飲めよ!!」」
「乾が言うんだ、間違いないだろう」
おや、国光まで。もしかして貞治は実証済みなのかな。
鉛の枚数を増やして再開する、となった時、みんな5枚でいいと言い出した。貞治も5枚入れているらしい。どうせ5枚までやるならいっそ、と。
しかし。
「いや、レギュラーは10枚まで」
みんなの動きが止まった。
「ふざけんな!」
「鬼コーチ!!」
250g2枚ずつが1kgだから・・・5kg・・・?
「鬼だわ・・・」
とりあえず私は、このままでいよう・・・。
「」
「ん?」
練習が終わって帰ろうとしたら、国光に呼び止められた。
「何?」
「・・・」
無言で手渡されたのは、ミツマルスポーツと書かれた紙袋。それを受け取って、中身を見てみる。
「あ、ジャージ。できたんだ?」
「あぁ」
中から出して広げてみる。青と白と赤のいい色。うん、青春って感じ。
私は荷物を下に置いて、ジャージを着てみた。
「うん、ぴったり」
「そうか」
「どう?似合う?」
「・・・・・」
あら、黙っちゃった。こういう話題はダメなのかな。
「・・・えっと」
「・・・よく、似合っている」
「え?そう?Thank you!」
笑うと、国光も小さく、ほんの小さく笑ったように見えた。
「2年前、あんたが帽子くれたときも、こんなことがあったね」
「・・・そう、だったな」
「さすがにサイズ合わなくなってきたけど、大事にしてるよ、あれ」
「・・・そうか」
その後、そのまま国光と並んで帰った。
もうすぐ都大会か・・・このまま気合充分で、突っ走ろうね!
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