「1番殴る。2番蹴る。3番かかと落とし。さ、どれ?」
ついにきた、というべきなのだろう。下駄箱にあったのは、一通の手紙。その手紙にはこう書かれていた。
<越前さん、放課後屋上に来なさい>
差出人不明な上に命令形。正直関わりたくないし面倒だったが、放置しておくとさらに面倒になると予感して、私は1人屋上へと向かった。
屋上にはすでに人がいた。女子が5人。おそらく全員上級生。
「逃げずに来たわね。その根性だけは褒めて差し上げるわ」
「それはどーも」
嬉しくもなんともないが。
「でもねぇ・・・あなた、目障りなのよ!いつもいつも、テニス部の彼等と一緒にいて!大して可愛くもないくせに!」
あぁ、やっぱり・・・という感情が頭の中を流れて行った。
「可愛い可愛くないは私の立場上関係ないと思いますけど?」
「口答えする気!?」
「本当の事を言ったまでです」
「このっ・・・!!」
パン、と乾いた音が屋上に響き、頬に鈍い痛みがはしる。
「生意気なのよ!入ったばかりの1年が媚び売って・・・!!」
「媚び・・・?」
「しばらく表に出られない顔にしてあげるわ・・・」
チキ、とカノジョが取り出したのは、カッターナイフだった。刃物が出てきたというのにひどく冷静で、我ながら感心してしまう。
振り下ろされた腕を易々と掴み、カノジョににこりと笑いかける。
「正当防衛ですよ?」
「えっ」
パン、と今度は違う頬に音が鳴る。カノジョがよろりと崩れ落ちた。残りの4人がカノジョに駆け寄る。
「それが今私が受けた痛み≠ナす。ヒトを傷付ける時は、自分も傷付けられる覚悟を持って挑まなきゃダメですよ?
それに、教えられませんでした?自分がされて嫌なことは、人にしちゃいけませんよ、って」
見下ろしていると、カノジョがわなわなと震えだした。
「・・・ないわよ」
「ん?」
「ふざけるんじゃないわよ!!」
「!」
咄嗟の動きに反応が遅れた。チリ、と左頬に痛みがはしる。4人も、カノジョの行動に驚いていた。
「あんたさえいなきゃ・・・あんたさえ、いなきゃ!!」
振り下ろされる腕を、今度は間違いなく受け止める。そして、何かがキレた。
「・・・あのですねぇ、センパイ。そんなこと私に言ってどうするんですか?私を潰せばあいつらがあなたのものになるとか思ってるんですか?」
「はっ・・・離しなさいよ!!」
カノジョがもがくが、その腕は決して外れない。
「You still have lots more to work on」 (まだまだだね)
カノジョが一瞬、動きを止める。
「私がアメリカからの帰国子女って知ってます?」
「そ、それが、なによ!?」
「アメリカって治安が悪いんですよ。日本と違ってね。だから私、護身術身につけてるんですよねー」
「だっ、だから、何よ!?」
「だぁかぁらぁー・・・
あんたのこんな細腕、簡単に一捻りに出来るんですよ?」
「・・・・・ッ!!」
「まぁこのほっぺの傷と私の時間を無駄にしてくれたお礼は一発だけでよしにしてあげますよ」
にこり、と笑ったつもりだったが、カノジョの目にはどう映っていただろうか。
「1番殴る。2番蹴る。3番かかと落とし。さ、どれにします?」
ひっ、とカノジョの口からもれたが、そんなもの気にはならない。どれにしようかと考えている時、屋上に別の、ここにあるはずのない声が響いた。
「そのくらいにしておけ、」
「!」
振り向くとそこには景吾の姿があった。なぜか、ビデオカメラを手にして。
「今の事は一部始終撮らせてもらった。これが表に出たらどうなるか・・・馬鹿でないならわかるだろうが・・・」
ぱちくりと景吾を見ていると、いつのまにか握力が緩んでいたらしく、カノジョが私の手を振りほどいて逃げ出した。そのあとに続いて、震えて見ていた4人も逃げ去った。
「大丈夫か?」
景吾が近寄って来る。私は反射的に、そのほんの少し高い肩に頭を押し付けた。景吾はピクリと反応したが、動かないでいてくれる。
「・・・怖かったか?」
ときかれれば、答えはNoだ。首を横に振る。
「でも、抑えられなくなるところだった。景吾が来てくれて、助かった」
「・・・そうか」
私はキレるとヤバイ。
昔、不良に絡まれて怪我をした弟を目にして、不良を滅多打ちにしたことがある。アメリカだからまだ何とかなったが、日本だったらどうなっていたことか・・・。
「ありがとう、景吾」
「・・・あぁ」
景吾がストッパーになってくれて助かった。来てくれたことが、嬉しかった。
その後、私がそれほど恐ろしかったのか、景吾の脅しがきいたのか、あのカノジョと取り巻き4人が私の前に姿を見せることは無かった。
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お題配布元
蒼の道
セリフ ヒロイン的セリフ×30 2
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