「・・・・・迷った」
















氷帝学園中等部2年、越前。現在地、神奈川県。今日は練習が休みだから、神奈川の美味しいケーキ屋に行ってみようと思ったんだけど・・・。


「・・・・・迷った」


方向音痴ではない、はず、なのだが。初めて行くところに地図無しでは無謀すぎたか。
とりあえず目の前にある学校で道をきこうと門に近づき、そして、そこに書かれている校名に開いた口が塞がらなかった。


「立海大付属中・・・」


まさかの全国2連覇校、立海大付属中に来てしまっていた。狙ってきたわけではないが、なんとなく気になってこっそり門から覗いてみる。
門の近くにテニスコートが見え、テニス部が練習している。近くの木陰へ移動し、練習を拝見。さすがにレベルが高い。


「そこで何をしている?」

「!?」


突然後ろから声を掛けられ、驚き振り向く。そこには立海のジャージを着て、黒い帽子をかぶった、少年に見えないが少年、がいた。


「部外者だな。何か用か?」

「あー・・・えっと・・・」


彼の事は知っている。立海2年、真田弦一郎。立海のNo.2だ。そして、関東大会決勝で、景吾に勝った男。


「どうした?真田」

「幸村」

「!」


しどろもどろしていたら、立海テニス部No.1、『神の子』幸村精市まで来てしまった。


「君は・・・?」

「偵察の可能性がある。こそこそ偵察など、男としてたるんどる!」


別に偵察に来たわけじゃ・・・・・ん?

確かに、今の私は普通のTシャツに7分丈のズボン、暑いから帽子の中に髪をおさめこむ、という格好をしている。が、男に間違われるとは。


「・・・・・」

「どうした、何とか言わんか!」

「真田、今のは真田が悪いよ」

「何?俺が何か間違ったことを言ったか?」


どうやら本気で男だと思っているらしい。ショックを通り越して呆れてしまう。いいんだ、顔が親父似なのは自覚しているから。


「彼女は女子だ、弦一郎」

「・・・何ィッ!?それは、本当か、蓮二!?」


もう一人、新たな人物の登場だ。立海No.3の柳蓮二。これで立海ビッグスリーが揃ってしまった。
真田は柳を見た後、くわっと効果音の付きそうな勢いでこちらに向いた。


「氷帝学園中等部2年、越前。実力者でありながら女子テニス部には入らず、男子テニス部でレギュラーのマネージャーと練習相手を兼任している」

「・・・よく御存じで」


帽子をとると、おさめこんでいた髪がぱさりと落ちる。それで真田もようやく理解したらしい。
それにしても、敵校の情報とはいえ、なぜマネージャーのものまで知っているのだろう。


「それは・・・すまん・・・」

「いや、別にいいよ」

「だが、それとこれとは話が別だ」

「え?」


今度はぎろっと睨まれる。迫力あるなぁ。本当に同い年だろうか。


「氷帝という事は、やはり偵察ではないのか!?」

「あー・・・」


その問題がありましたね。


「それも違うと思うよ」


否定したのは幸村だった。


「なぜだ、幸村」

「偵察にしては堂々としすぎているし、氷帝がこんなテを使うとも思えないからな」


おぉ、わかっていらっしゃる。


「幸村くんの言うとおり、私はその・・・ちょっと、道に迷って、ここに着いちゃっただけだから」

「迷子なんだ?」

「・・・・・うん」


笑顔ではっきり言われると悲しくなるな。綺麗な顔なだけあってダメージも大きい。


「そうか・・・疑ってすまなかった」

「いえいえ。『王者』を見たいと思ったのは事実だし」

「個人として?」

「個人として」


言うと、幸村はまた笑った。


「そうか。それじゃ、これも何かの縁だよね。よろしく、

「ん?うん、よろしく、精市・・・?」


突然のファーストネーム呼びだったから思わず私も呼んでしまったが、彼・・・精市は笑顔のまま何も言わなかった。














本当の目的地を告げると、精市は休憩中の誰かを呼んだ。


「呼んだ?幸村くん」


赤い髪で、フーセンガムを噛んでいる少年。名前は確か、丸井ブン太。


「この子を君のお気に入りの店に連れて行ってあげて欲しいんだ」

「いいけど・・・誰?」

「越前さん。氷帝の迷子ちゃん


なんか変なレッテル貼られた・・・!!


「ふーん。いいぜ!俺、丸井ブン太。シクヨロ!

「シク・・・?よろしく、ブン太」


その後、ブン太に目当てのケーキ屋に連れて行ってもらい、ケーキを1つごちそうしたまでは良かった。


「・・・なぜ戻って来ている」

「帰り道がわかんなくて」


ブン太を勝手にそっちまで連れ回していいかわからず、結局2人で立海に戻って来てしまったのだった。














「ありがとう、助かった」


立海から最寄りの駅まで真田に送ってもらい、礼を言う。


「もう迷うなよ」

「・・・保証はできません」


あはは、と乾いた笑いをもらすと、「たるんどる!」と言われた。


「それじゃ、またね、弦一郎」

「んん?」

って呼んでね、弦一郎。Bye!」


有無を言わせる前に手を振り、私は駅へと駆け込んだ。














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お題配布元
はちみつトースト
台詞 351〜400


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