雷が鳴る
じめじめする夏の手前。体育館では床をキュッキュいわせながら、テニス部が練習をしていた。
「あーあ、いやっスよねー、雨」
「文句を言うな赤也。天候はどうにもできん」
「そうっスけど・・・」
ふてくされつつ、切原がコートに戻ろうとする。が、ふと柳が一点を見つめているのに気づいて立ち止まる。
「どうしたんスか?柳先輩」
「・・・数秒後、が精市の元へ走る確率100%」
「へ?」
きょろ、と二人を探す。どう考えても30mは離れている。なにか用があることを見抜いたのだろうか。だが、実際は違った。
切原が首を傾げた直後、激しい轟音が体育館内に響いた。切原も驚いて肩をすくめる。と、目の前を猛スピードで走り抜けていくひとつの影。
しかと見るとそれはで、勢いのまま精市の背中にしがみついた。
「・・・一体なんスか?」
「は雷が苦手なんだ」
「雷が?」
「あぁ。それで、雷が鳴るとあぁして精市にしがみつきにいく」
「・・・へぇ」
見てみれば確かにぎゅっとしがみついている。しがみつかれている側は、もう慣れっこなのか平然と他の1年に指示を出している。
「あれ、幸村先輩じゃないとダメなんスか?」
「あぁ、精市以外のところには行った試しが無い。停電しても、確実に精市のところに行くからな」
ある意味すごい。が、切原はなにか面白くないような思いだった。
部活が終わり、帰り道。
「・・・、自分の傘があるだろう?」
「だ、だって・・・」
言ってが「ひっ」と肩をすくめて精市の腕にしがみつく。さきほどから雷がたびたび鳴って、精市の傘から出るに出られない様になっているのだ。
「というわけではい、俺の傘から出てー」
「えええええええ!!!」
小さい屋根の下で精市がひょいとを傘から出す。そのまま精市は傘をさして歩き出してしまった。
「幸村くん残酷だろぃ」
「何か言った?ブン太」
「なんも・・・」
目を逸らしつつブン太も歩き出す。傘に入れる気は無いらしい。そして他のメンツも歩き出す。置いていかれる。
傘をさせば帰れる。が、させば精市の傘に入る事はできない。
「先輩、どうしても、幸村先輩じゃないとダメなんスか?」
「え」
不意に切原がきく。は答えが見つからずうなった。
「ダメ、じゃないんだろうけど、もう、身体が覚えちゃってて、精市のとこしかいけないのよね」
「じゃ、じゃあ!訓練しましょ!訓練!」
「訓練?」
が首を傾げる。さすがにおいていくのは気が引けるのか、他のメンツも近くまで戻って来ていた。
「そうっス!幸村先輩じゃないとこに行く訓練!」
「そう上手くいくかなぁ」
「やってみなきゃわかんないっスよ!だから」
切原の言葉が途切れた。大きな雷が耳を襲ったのだ。
「!!!!!?!!!」
言葉すら発さず、が駆け出す。その先は。
「どうやら、訓練は気長にやるしかなさそうじゃのう、赤也」
「・・・・・」
やっぱり、精市だった。
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