ふたりでお勉強会
2年になって早1か月。時が経つのはなかなかはやい。
あれだけいた入部希望の1年生は、半数近くまで減っていた。
残った面子はみな、真剣に、本気で立海テニス部でやっていく気のある子たちだ。楽しみである。
さて、部活もそうだが彼らは中学生。勉学のほうも重要なわけで。
「せんぱああああああい!!!!」
大きな音をたててドアを開き、2年の教室に飛び込んできた1年、切原赤也に、教室内の視線が集中する。
次の授業の小テストの予習をしていた柳とも、切原に目を向けた。
「赤也・・・もう少し静かに入って来れないの?ここに弦一郎がいたら叩き出されてたよ」
「そんなことより!先輩!」
そんなことではないのだが、と思っていると切原がの机の前まで来て、バンッと机に手をつく。
「勉強・・・教えてください・・・!!!」
「・・・え」
思わず柳を見る。が、柳はに向けて肩をすくめるだけ。
切原に目を戻せば、じっと真剣な目で見つめてくる。
御指名のようです。
どうにもあの目に勝てず、は切原の勉強を見てやることになった。ちょうど今日からテスト前で部活は休みだ。
も勉強はする、が、問題は、切原の元々のスキルだ。
果たし状のときの漢字間違いは酷かった。あれをある程度鍛えるとなると、骨が折れるだろう。
そして目の前に座っている後輩は、キラキラ目を輝かせている。腹をくくるしかないようだ。
「えーと、じゃあ、まず何がわからないの?」
「全部っス!」
「・・・・・」
全部。また、困った答えを。
「・・・じゃあ逆に、得意科目は?」
「国語と体育っス!」
あの漢字で?とききたくなったが、ひとまず抑えた。
今回は中間考査だから5教科のみ。自分で得意だというのなら、国語はあとまわしにしておこうか。
「じゃあ、苦手な科目は?」
「英語っス!なんなんスかあれ、言葉じゃないっスよ!日本人なんだから日本語だけで充分だっての!」
あのね、英語も時には必要になってくるんだよ?
心の中の言葉は本人には通じない。痛みが出てきそうな眉間を軽く押さえ、切原の英語のノートをめくった。
「・・・・・」
真っ白。もしくはミミズ。
「赤也・・・あんた英語の授業中寝てばっかでしょ・・・」
「だってわかんないんっスもん」
もん、じゃない。今度こそ本当に頭を抱えた。英語が得意なのはジャッカルと柳生だ。柳生に至っては全教科だが。
しかし切原に勉強を教えるのは、難しいだろう。柳生は性格的に。ジャッカルは苦労が絶えなさそうで。
引き受けた以上簡単に放り出すわけにもいかず、はノートと教科書を切原の前に並べた。
「まず教科書の単語10回ずつね」
「ゲ!」
「ゲ、じゃない。単語すら覚えられないんじゃ、手のつけようがないよ」
「ううう・・・」
唸っている。それほどまでに英語嫌いなのだろうか。
は図書室の時計を見た。
「・・・18時までにテスト範囲の単語10回ずつ書いて、半分以上覚えられてたら、帰りに肉まんおごってあげる」
「まじっスか!?よっし、やるっス!」
やる気が出たのか、切原はシャーペンを握り、ノートにがしがし単語を書きはじめた。
物で釣るのは本当はよくないのだろうが、やる気を出させることから始めなくては。
ふう、と一息つき、も自分の勉強を開始した。
結局、その日は半分以上間違え、条件満たさず。
「帰ってからも予習するのよ?明日、またテストするからね?」
「・・・っス」
「大丈夫。積み重ねていけば、物にできるよ。それは勉強だって、テニスだって一緒」
「・・・そうっスね!」
ぐっと握り拳を握って気合を入れる切原。やる気だけはある、と思ってもいいのだろうか。
「それじゃ、また明日」
「あっ、送りますよ先輩!」
「え?」
分かれ道でわかれようとしたら、切原に言われて振り向く。
「いいよ、逆方向だし」
「でも、もう暗いし・・・」
「大丈夫よ、そんな遠くないし」
「いーや!引かないっスよ!送らせてください!」
若干上から、切原が目で訴えてくる。どうにも、この真っ直ぐな目には弱いようだ。
「・・・わかった。それじゃ、お願いします」
「・・・!はいっ!」
切原に家まで送ってもらい、気を付けて帰るよう重々言い、わかれた。
そのことを精市に話すと、「赤也もやっぱり男だね」と言われ、首を傾げたが、精市はそのあとは何も言わなかった。
そんな日が何日か続き、なんとか切原は単語は覚えた。が、文法までやる時間はなく。
「・・・赤点」
「・・・っス」
英語、赤点。単語の書き取り部分だけは満点。そこは褒めてあげたいが、結果は、赤点。
他の教科は、ときけば、数学が、と返って来た。
「赤也は再試クリアするまで部活禁止」
「え!」
精市に言われ、切原が固まる。
「まぁ、赤点だもんなー。仕方ないだろぃ」
「おまえだってギリギリだろ・・・」
丸井とジャッカルが言うが、切原は固まったままだ。
「あぁそうだ、」
「ん?」
「も、赤也がクリアするまで部活禁止ね」
「「え!?」」
と切原の声が重なる。
「連帯責任」
「え、そんな、先輩は悪くないっス!俺が馬鹿なだけで・・・!」
「それに、にも非はあるんだよ?」
ふむ、と柳がデータノートのページをめくる。
「精市、は赤点では無かったが・・・」
「でも、点数は落ちた」
「そのとおりだ」
「・・・蓮二はともかくなんで精市まで知ってるの・・・」
結果、一切言わなかったというのに。
「というわけで、二人ともしばらく部活禁止ね。お互い監視して、勉強する様に」
「「・・・はーい・・・」」
とぼとぼと図書室へ向かう二人の背を、他のメンバーは黙って見送った。
「・・・幸村くん」
「なんだい?ブン太」
「もしかして、赤也のやつに気ぃ、きかせた?」
「まさか」
精市が笑う。
「でも、あれで赤也の勉強がはかどってたのは確かみたいだからね」
「それ、にとってはマイナスだろ?」
ジャッカルも口をはさむ。
「大丈夫だよ。は赤也と違って元がそれなりに高いから」
「・・・なるほど」
納得していいのやら悪いのやらというところだが、部活開始の時間になったので会話は終了した。
結局切原は再試も1度落ち、二人は1週間近く部活禁止となったのだった。
―――――
2年のときは柳と同じクラスで。
部活禁止だけどテニス禁止ではないので身体なまらせないようには多分してる。
Created by DreamEditor