新星の果たし状
彼はテニスコート横を通りかかっても、まだ部活には参加しなかった。それでも彼の目は違っていたから、もしかしたらどこかで練習しているのかもしれない。
「あ、切原」
「う」
会いたくない人に会っちまった。いや、会いたくないなんてことは、ないんだけど、って、思うのはなんでだ?
「一生懸命練習してるみたいね」
「・・・まぁ」
「そんなキミに、餞別」
「へ?」
先輩が差し出してきたのは紙袋。受けとって中を見てみると、ペットボトルと、何かの包みがあった。
「中身はからあげなんだけど、大丈夫だった?」
「え!あ、はい!肉、好きなんで!」
「それはよかった」
にこりと笑う先輩に、思わず見とれてしまった。
中身ってことは、おにぎりでも作ってくれたのか?
「いつでも待ってるよ」
「・・・はい!」
よっしゃ!今日もやってやる!!
「餌付け?」
「失礼な・・・」
どこからか見ていたらしい、精市がに言う。
「いつ来るかな」
「さぁねぇ・・・」
「いずれにせよ、楽しみだ」
「そうね」
数日後、彼は教室に来た。果たし状を、三人に叩きつけに。
「今日の午後三時に、テニスコートに来い!・・・逃げんじゃねぇぞ」
そう言って彼は、去って行った。
「・・・なんか可愛いな」
「それは少々失礼ではないか?」
「なかなかの威勢の良さだね」
「・・・・・」
真田が果たし状を開け、そして目を見開いた。
「・・・漢字が間違いだらけだ。たるんどる!」
「あらら・・・」
どうも頭は少し弱い子のようだ。
そして午後三時、果たし合いの時間となった。今回は真田一人が相手をするのだという。
「弦一郎、試すんだろうね」
「人がいいな、弦一郎は」
「そうだね。真田は案外好きなんだよ。あぁいう無鉄砲な子が」
固唾を飲みこみ、二人の試合を見守る事にした。
彼は、格段に強くなっている。トレーニングの賜物だろう。
しかし真田とて、ただでは終わらない。
「風林火山の風・・・さっそく出したか」
切原も負けてはおらず、スプリットステップを使って風を返した。
続いて切原のライジングショット。中1が打つにしては威力のある、いいショットだ。
しかし真田は、これを風林火山の林でいなした。
「さすが、弦一郎・・・」
そして、真田のスマッシュが切原のコートに突き刺さり、切原が倒れた。
真田が、もう終わりだと悟り、背を向ける、と、切原が立ち上がった。
「待てよ・・・逃げんじゃねぇよ・・・」
どこか、空気が変わった。
振り返った切原の目は、赤く、充血していた。
「なに、あれ・・・」
切原がボールを、特殊な持ち方をして放る。そのサーブは地面で、真田の顔に向かって跳ねた。
身体能力が上がっている。と同時に、理性も失っているような、そんな感じがする。
「アンタ・・・潰すよ」
「切原・・・」
今度は真田がおされ始めた。風林火山の山をもってしても防げない切原の勢い。
そしてついに、真田は風林火山の火まで発動した。
切原は火の勢いにのまれ、地に伏した。しかし、真田に風林火山全てを出させるとは。
「切原、やるじゃん」
さらに、切原は再び立ち上がる。
「そこまで!」
だが、それを精市が止めた。
「君の負けだ、切原くん」
「俺の・・・」
「そうだ、君の負けだ。今の実力では、何度やっても結果は同じだ」
「く・・・っそ!!」
切原が、地面に拳を叩きつける。その瞳には、かすかに光る物が。
「大丈夫だよ」
「え?」
そんな切原のそばに、がひざをついた。
「そうやって、悔しくて泣けるなら、大丈夫。君はまだまだ強くなれるよ、赤也」
「あ・・・」
「素質は十二分にある。あとはテニス部に入って実力をつけるのみ。ね、弦一郎?」
真田を見やると、切原もそちらを向く。真田はうむ、とうなづいた。
「俺達はいつでも相手になってやる」
その背には、王者の貫録があった。
「あれ?どうしたの、赤也」
「どうもまた仁王に騙されたらしい」
「またって・・・あーあ、いいカモにされちゃったわけね。それにしても、それで素直に走っちゃう赤也・・・良い子じゃん」
「やっぱおもしれーやつ!」
「これから楽しくなりそうだね」
「む・・・まったく、たるんどる!」
「それにしても・・・」
不意に精市がを見る。
「随分彼が気に入ったようだね、」
「ん?そう見える?」
「うん、見える」
「そうねぇ・・・なんか、可愛いし」
「可愛い、か」
「なに?精市、ヤキモチ?」
が精市の腕に手を廻そうと近寄るが、精市は華麗に避けた。
「もやっと弟離れしてくれるかなと思っただけだよ」
が批判したが、精市は軽く流しただけに終わった。
そんな様子を、他のメンツは呆れつつも微笑ましく見守っているのだった。
―――――
なんかOVAにそりすぎたけど・・・立海烈伝終了!
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