船上での再会
7月下旬。今日から選抜メンバーによる合宿が執り行われる。氷帝のマネージャーであるも、合宿に参加するべく船に乗っている。
無人島で半サバイバル合宿なのだとか。はというと、そんな合宿を楽しみだなと思いつつ、ある人物を探していた。
そして、ホールの端の方にある小さな後姿を見つけて満面の笑みを浮かべた。そろり、と近づき、大きく腕を広げる。と。
「?」
「!」
相手が振り返り、ぎゅうううっと正面から抱きつく事になってしまった。
「え!?」
「あー、背中からぎゅーして驚かせようと思うたんやけど・・・まぁ、これはこれでありやな!」
「か、?」
「せやで!」
抱き締めていた腕を緩め、腕の中から彼女を解放する。
「こないだぶりやな、大河」
「もう・・・びっくりしたじゃない」
「それが目的やったし」
にこっと笑うに、大河は苦笑するしかなかった。
「おやおや、女の子同士盛り上がってるねぇ」
「あ、竜崎先生」
青学の顧問、竜崎スミレが二人を見て微笑む。
「雨宮さんは少しの間だが、楽しんどくれ」
「はい、ありがとうございます」
「大河は、あっちに美味いのがあんねんで!」
「うん、行く!」
手を引き引かれて走って行く二人を、竜崎は孫娘たちを見る様にあたたかく見送った。
「ねぇ、これって全国大会前の合宿なんでしょ?」
「せやな。まぁ、全国出られへんトコもおったりするけど」
「四天宝寺も全国大会に行くのに、白石くんたちがいないようだけれど・・・」
きょろ、と大河が軽く辺りを見渡す。
「あー・・・なんかね、金ちゃんが腹壊してトイレから出られへん様なって、出港に間にあわへんかったらしいんや」
「えっ、それって大丈夫なの?」
「おん。なんでも第二便があるらしゅうて、それに乗って来るらしいで」
「そっか、よかった」
大河が安堵の息をつく。も嬉しそうに笑った。
「うちも蔵ノ介たちに会うんは久しぶりやから、はよ会いたいわ」
二人が頷きあった時、乾杯を知らせる声が上がった。
青学の部長、手塚国光が乾杯の音頭を執るが、跡部がそれを止める。そんな乾杯では意味が無いそうだ。
(何言うてんねん景吾。にしても、どうでもえぇけど手塚クンにオレンジジュースって似合わへんなぁ)
それは立海の真田もだな、と密かに真田を見る。いや、ある意味跡部にもオレンジジュースは似合わないなと思い直した。
そして今度は、跡部が乾杯の音頭を執るという。
「相変わらず変な男・・・」
「はは・・・」
変わっている事は否定できないので、は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
しばらくして、不意に聞こえてきた言葉に、はむかつきを覚えた。
振り向くとそこには、半袖白ランの灰頭と、緑のユニフォームにオレンジ頭がいた。
「?」
どうやら大河には聞こえていなかったらしい。二人を睨むに首を傾げる。
「あっ、ちょっと!?」
そして、つかつかと歩いていくの後を追った。
「なんや、文句でもあるんか?」
「あ?」
声を掛けると、灰頭が振り向いた。山吹中の、亜久津仁である。
「大河がのっとって、文句でもあるんか?」
「貸し切りだっつーのに関係ねぇ余計なオンナが乗ってんのは気分がよくねぇんだよ」
「大河は元々この船に乗る一員に入ってんねん。自分がどうこう言う権利なんかあらへんわ」
「あぁ?なんだ?てめぇ・・・」
と亜久津がにらみ合う。大河はおろおろと二人を見ていた。そこへ、オレンジ頭が割り込む。
「まぁまぁそのへんにしときなよ二人とも」
「・・・なんだぁ?千石」
「邪魔せんといてもらえる?千石クン」
「そうは言ってもねぇ。可愛い女の子が、そんなに怖い顔なんてするもんじゃないよ?」
「うちは可愛くあらへんから問題無いわ」
「まぁ、確かに可愛いより格好いい顔つきだけど・・・でも、女の子はみんな可愛いんだよ?」
はジト目で、にこりと笑う千石を見た。そして、大きくため息をつく。
「・・・やめた。気が失せたわ」
「けっ、逃げんのか?」
「ちゃうわアホ。こんなん言い合っても意味ないっちゅーことや。大河は必要。ただそれだけや」
「・・・フン。勝手にしろ」
亜久津が背を向けて歩いていく。
「あーらら。ごめんねぇ、亜久津、いつもあんなんだから」
「別に気にしてへんよ。突っかかったうちも悪いし」
「それだけその子が大事って事だよね。そうだ、二人とも、これから一緒にお茶でも「お断りや」・・・あ、そう・・・」
に笑顔でばっさり一刀両断され、千石はすごすご退散した。
「・・・」
「ん?」
「・・・ありがとう」
照れつつ呟く大河に、は微笑んだ。
「うちは、当然のことを言ったまでや」
すると、大河も応えるように微笑んだのだった。
―――――
わざわざやり直す必要があったのか疑問な乾杯。
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