ようこそきょうだい




















秋といえば芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。そんな様々な秋が集結するのが本日のイベント、文化祭である。
ここ氷帝学園も例外なく、文化祭が決行されていた。
模擬店や出し物、展示などはクラスの部、クラブの部とあり、どちらもアンケート上位にはご褒美が出る。
外部招待客も含め、アンケート票数は生徒数以上。ご褒美も氷帝学園なだけあって豪華なものだ。
生徒たちは皆、ご褒美ゲットに向けて気合を入れていた。
や跡部のクラスは出し物なのだが、それに二人は参加していない。二人は男子テニス部の方へ力を入れるため、そちらに参加していた。
男子テニス部の文化祭での催し物は、喫茶店。しかしごく普通の喫茶店ではなく、いわゆるホストクラブのようなものであった。
紅一点のはドレス着用を跡部に命じられたのだが断固拒否し、男声物のスーツを身にまとっている。ちなみに彼女は女性専用だ。もっとも、男子はほぼ来ないが。
これがまた人気で、あっという間に跡部に次ぎNo.2となっていた。
元々兄と同じ整った顔、時々悪戯でふっと出す男声、甘い大阪弁・・・それらに女子は同性であってもメロメロなのであった。


「俺も同じ大阪弁やのになぁ・・・」

「日頃の行いじゃね?」


向日に撃沈させられながら、No.3の忍足は息を吐く。そしてふと窓の外を見て目を瞬かせた。


、あそこにおるん・・・」

「え?あっ、しもた!迎えに行くん忘れとったわ!」


忍足に言われ、席を立ちあがる。丁度客のついていなかったはスタスタと出口に向かった。


「おい、どこへ行く?」

「休憩貰うわ!よろしゅーな!」

「あっ、おい!」


跡部が止めるのもきかず、はスーツのまま小走りに廊下を進んでいった。



















見渡す限りの人、人、人。これだけ広い敷地にこれだけ人が沢山居るというのもすごい。それだけここの文化祭は注目されているという事だろう。


「クーちゃん、ちゃん遅いなぁ」


そんな人々をきょろきょろ見ながら、白石友香里が隣の兄に呟く。


「せやなぁ。なんかあったんやろか・・・」


兄・蔵ノ介も顎に手を当てて考える。まさか跡部に外出を許可してもらえないのだろうか、とまで考える白石は、どれだけ跡部の事が気に入らないのだろうか。


「わぁ、大阪弁かっこいー!ねぇねぇそこのおふたりさん、よかったらあたしたちの店に遊びに来ない?」

「へ?」


顔を上げると、すぐ前に店の宣伝看板を持った二人の女子生徒が立っていた。


「普通の喫茶店だから、なんの心配も無いわよ」

「そうそ!ねー?いこうよー」

「あ、いや、俺らは・・・」


詰められてしどろもどろする兄に友香里がため息をついて前へ出る。


「うちら、人待ってんねん。せやから勝手にどっか行くわけにはいかへんのです!」

「でも来ないんでしょ?だったら――」

「遅うなって悪かったなぁ、蔵ノ介、友香里」


勧誘の声を遮るように、彼女らの背後から五つ目の声が。彼女らの隙間からその声の主を確認すると、友香里の表情がパッと晴れた。


ちゃん!」


たたっと駆け出し、兄と同じ顔の姉にとびつく。


「あらー・・・同じ顔だと思ったら、やっぱり白石さんのきょうだいだったのね」

「お邪魔なら散るしかないわね」

「すみません」


三年生だったらしい二人にが軽く会釈すると、二人は笑って去って行った。その様子を、兄妹はただぱちくりと見送った。


「なんや・・・おまえ有名人なんか?」

「まぁ・・・男テニマネしとったら自然になぁ」

ちゃんかっこえぇからそれもあるやろ!」


友香里が絶賛するのに、笑って否定はしない。


「つか・・・おまえ、なんて格好してんねん!」

「え?」


白石に指摘され、は自分の格好を確認した。


「なんてて・・・店の格好やけど」

まで男モンてのはどういうことや?まさか跡部くんたちは女装しとるとか・・・!?」

「してへんわ、あほ。うちがドレス嫌言うただけや」

「なんや、残念やな。・・・ドレス?」


ドレス着なあかん店ってなんやねん、にしてものドレス姿見れんかったのも残念や、なんて思いながら白石はじっとを見た。


「なんやねん、同じ顔がドレス着とったらきもいやろ?」

「いや・・・はかわえぇからドレス着たらかわえぇと思うで?」

「はぁ?」


怪訝そうな顔をして歩を進める妹に苦笑しながら白石は後へ続く。そんな二人を眺めながら、友香里はひとつ息を吐いた。


ちゃんが男の格好しとるとほんま男兄弟みたいやけど・・・やっぱちゃんは女の子でかわえぇなぁ」


しみじみと頷く友香里は、「置いていくでー」という姉の声をきいて急いで駆けだした。



















校内にも人はわんさかいて、人気の店前は歩くのも大変だった。
小さい友香里とはぐれないように兄姉で片方ずつ手を繋いで歩く。両サイドに同じ顔が来ると妙な迫力である。


(こんなん見慣れとったはずなのになぁ)


が家を出て一年半。今まで過ごしてきた中でたったそれだけの年月なのに、変わっていくのは早いものである。


「もうすぐウチらの店やで」


の声で顔を上げる。姉の指さす方を見れば、黒に白字の看板が。


「なんて書いてあるん?」

「・・・ホストクラブ、やてぇ!?」

「えっ!?」


英語は小学生である友香里には読めなかったが、兄はすぐ読んでくれ、そして驚きの声を上げた。友香里もまたびっくりして目をぱちくりさせる。


「どどどどういうことや!ホストて!ホストて!!」

「そのままやな。ちゅーか蔵ノ介、どもりすぎや、落ちつきぃ」

「落ち着けるかあほ!そんなんにいらん虫がほいほい寄りつくやんけ!!」


はて、と友香里は考えた。そんなことをに惚れている跡部が許すとは思えないが。そして、ぴん、と思う。


「クーちゃん、ホストやから、女の子のお客さんばっかなんとちゃう?」

「んん?」

「せやで。うちが素直にドレス着とっても、お前には女子の接客しかさせへんって景吾言うてたし」

「・・・さよか、跡部くんが・・・」


跡部の手回しに、兄の心情は複雑らしい。


「あっ」


不意に友香里が駆けだした。何かを見つけたようで、兄姉の視線もそちらへ向く。


「景ちゃん!」


前方の人物らしいが、相手は気づかない。


「けーいーちゃん!」


その大声に、何事かと友香里を見る者多数。


「景ちゃんなんで無視するん!?」

「無視したくもなる!ここでその呼び方するんじゃねぇ!!」


やっと反応して振り向いた人物に周りは動揺して相手をまじまじと見た。
かの跡部財閥嫡男で男子テニス部部長の跡部景吾が、小学生の少女に可愛く「景ちゃん」と呼ばれていたのだから。


「景ちゃんって・・・景ちゃんって・・・ぷぷっ」


案の定、同じテニス部の、跡部と親しいレギュラー陣には笑われている。跡部は彼らを一睨みし、友香里と、その後ろから歩み寄って来る双子を見据えた。


「よう白石、東京まではるばるご苦労だったな」

「いやいや、に会うためならご苦労もなんもないわ」


バチバチと火花でも散りそうな下にいたくなくて、友香里はそろりとの元へ逃げる。


「ふたりともこんなとこでまでやめぇや・・・」


呆れてため息をつくに、ちょいちょいと肩をつつく者が。


「どないしたん?岳人」

「あいつ四天宝寺の白石だろ?お前の兄貴ってのはわかるけど、跡部と仲悪ぃのか?」

「あー・・・なんや知らへんけど、ウマがあわんようでなぁ」


溜息をつくを見ながら向日は、絶対絡みだよなぁ、と口には出さないでおいた。


「ほら、ふたりともえぇ加減にやめぇや!」


が見ていられなくて声を上げると、二人はひとまず口をつぐんだ。


「せっかく遊びにきたんやから、楽しまんと損やで。友香里、あとどないしたい?」

「せやなぁ・・・せっかくやから、ちゃんに接客してほしい!」

「・・・えー・・・」

「えぇやん、な?」


久しぶりの妹のお願い攻撃に負け、は友香里を連れて店へと戻るのだった。



















「いらっしゃいませ、Lady」


友香里の手をとって席へエスコートする。友香里はほわぁと不思議な感覚にとらわれながら、にされるがままになっていた。


「お飲物は何になさいますか?」

「えっ、と・・・オレンジジュースで」

「かしこまりました」


がそばに立っていた滝に「オレンジジュースひとつ」と告げる。滝は頷いて裏へと引っ込んでいった。


「えーと、俺もそこ座ってえぇか?」

「えぇで」

「ほな」


跡部も接客に戻り、行き場を失くした白石は、友香里をはさんだ隣に座った。


「お待たせしました」


滝がテーブルにオレンジジュースと、お茶請けらしいクッキーを置く。


「おおきに、萩之介」


滝はにこりと笑うと、別の席へと向かって行った。


「ウエイターは別におるんか?」

「ウエイターっちゅうか、下のNo、やなぁ、多分。上位Noはこうやって席でお客様のお相手を。下位Noはお茶くみとか運んだりとかやな」

「それがホストなんか?」

「ほんまかどうかわからへんけどな。なんせ誰もホストクラブに行った事なんかあらへんし」


もっともだ。中学生がホストクラブに行ったことがあれば問題である。


「おやお嬢さん、口の端っこにクッキーのカスがついてんで」

「へ?」


取ろうとする友香里に、逆や、と笑ってはスッと手を伸ばす。友香里の口元からクッキーのカスを拾い上げて、ぺろりと自分の口に入れた。


「うん、うまいな」

「・・・・・・・・・・・・・いややわちゃん、ときめいてもうたやん」

「おおきに」

「褒めてへんもんっ・・・」


真っ赤になった顔を手で覆って隠す友香里の頭をが笑顔で撫でる。
兄・蔵ノ介は、「なんやろなぁこの姉妹・・・せやけどさすがは俺の妹たちや・・・かわえぇなぁ・・・」と一人でうっとりしていた。


「あかんでぇ、友香里。そないなかわえぇ顔簡単に見せたら・・・狼さんに食われてまうで?」


最後、トーンを変えたの囁きに友香里は、「ちゃんそれただのクーちゃんや・・・」と呟いたのだった。



















そんなきょうだい三人の様子をちら見していたテニス部メンバーは、「なんて微笑ましい、そして照れる姉妹なんだ・・・」と思っていたという。




















―――――
なにこれ友香里夢?((
友香里にみんなの前で「景ちゃん」言わせたかっただけの話( )


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