大阪里帰り 〜跡部様と一緒〜 その1





















中学二度目の全国大会が終わった。結果は王者立海大に負けてベスト8。跡部も、皇帝真田に敗北した。
チャンスは来年のあと一回。みんな新たに気合が入っている。だが、学生の本分もなさなければならない。
宿題が終わっていない者たちの為に、数日休みとなった。
はもちろん宿題は終わらせている。この期間を利用して帰省することにした。
そのことを榊に告げた後、ふと跡部を見る。顔にこそ出してはいないが、真田に負けたことでキているはずだ。


「・・・・・」


は小さく笑って、跡部に近寄った。


「景吾」

「・・・なんだ」

「うち、明日から大阪帰るんやけど」

「・・・そうだったな」

「景吾も行かへん?大阪」

「は?」


跡部は思わず唖然とする。この一年半の間で、一度も誘われたことなど無いというのに。他の誰かを誘う所を見た事も無い。
忍足が日時を合わせて勝手についていくことがあるくらいだ。


「行かへん?」

「・・・どういう風の吹き回しだ?」

「なんやねんその疑いぶりは。・・・気分転換、したらえぇ思て」

「・・・・・」


自分の、ために。


跡部は見透かされている事に失笑し、に向き直った。


「仕方ねぇな。行ってやろうじゃねぇか。あーん?」

「決まりやな。ほな、オカンに友達連れてく言うとくわ」

「・・・は?おい」

「庶民の布団は固くてあかーんとか言うんやないでぇー?」

「待て。ちょっと待て」

「なんやねん」


さすがの跡部も動揺し、の腕を掴む。


「まさか・・・お前の家に泊まるのか・・・?」

「高級ホテルんがえぇんやったら止めはせんけど」

「・・・いや」


ありがたく、泊めさせてもらおうじゃねーの。


跡部がにっと笑うと、も笑った。


「ほな、また明日」



















翌日。新幹線で新大阪駅に着いた二人は、ひとまずその辺りを歩く事にした。このまま帰ったのでは跡部の気分転換にはならないだろう。


「あ、ここのたこ焼きめっちゃ美味いんやで!」


がたこ焼き屋に駆けて行く。
おっちゃん、たこ焼き一丁!お、蔵ノ介くん?おっちゃんうちやでー。ちゃんか、久しぶりやな、二個オマケしたるわ!おおきに!
という会話を聞き、跡部は駆け戻って来たの手元を見た。8個づめパックの中に10個のたこ焼きが乗っている。


「ほな、冷めんうちに食べようや!ほら、そこ座り」

「あ、あぁ・・・」


跡部が示された所に素直に座る。もちろん、綺麗かどうかの確認は忘れない。


「ん、これ景吾の爪楊枝な」


差し出された爪楊枝を受け取ってを見ると、すでに一個目を口に入れてほくほくいっているところだった。
跡部は数秒を見つめていたが、食べへんの?ときかれてやっとたこ焼きを口にする。


「本場のたこ焼きめっちゃ美味いやろ!」

「・・・これが本場なのか?」

「せやで。外はカリカリ、中はトローリ!これが本場のたこ焼きや!」


なんでこいつはこんなにテンションが高いんだと思いつつ二個目を口にする。
確かに、以前が作った物とは少し違う美味さだ。
ふと跡部は、たこ焼きを口にしてほくほくいうを見た。
この、なんて幸せそうな顔してやがるんだ、可愛いじゃねーの。
なんてことは決して口にはしない。だが、気持ちが高ぶったのか、別の言葉が口からこぼれ出していた。


「・・・なんか、デートみてぇだな」


言って、はっとする。はきょとんとしていたが、すぐに笑った。


「せやねぇ。なんや、デートみたいやなぁ」


ピタ、と時が止まった気がした。まぁそんなんとちゃうけどなーという言葉が跡部に届いたかはわからない。


(まったく・・・心臓に悪い奴だ)
























その後はまちをぶらぶらしたあと、帰路についた。インターホンを押すの後ろで跡部が白石家を見上げている。


「一般家庭はこんなもんやからなー」


言われて、そうかと首を戻す。もっとも、白石家は一般家庭よりは少し上かもしれないのだが、はそうは思っていない様だ。
インターホンから少しして、ドアが開く。よりも大分小さい影がひょっこり顔を出した。


「おかえりちゃん!」

「ただいま、友香里」


友香里の頭を撫でると、は半身退いて跡部が友香里に見えるようにする。


「妹の友香里。小6や」

「友香里です」


ぺこりとお辞儀をする姿に、とかぶらないな、と跡部は内心思った。


「で、友達の跡部景吾や。氷帝の部長やで」

「ふーん・・・」


友香里がじっと跡部を見る。少し、ほんの少し、跡部が眉を寄せた。


ちゃんの彼氏?」

「は?」

「な」


友香里の顔がにやついている。は呆れて友香里の頭をぐしゃぐしゃ撫ぜた。


「友達やゆうたやろ。ませたこというやないで。誰やそんなん教えたんは・・・ってアネキしかおらへんか・・・」


自分ツッコミを終え、が家の中に入って行く。手招きされ、跡部も続いた。
靴を脱いで「お邪魔します」とひと声入れたあと、友香里と跡部の目が合った。
跡部はにやりと片口角を上げ、すれ違いざまに友香里に呟いた。


「いずれは『友達』じゃなくしてやる」


友香里は思った。


ちゃんに春が来たと。



















――――
ベスト8かはわかりません。多分、ベスト8。3年もベスト8だよね?

Created by DreamEditor