第一次バレンタイン戦争




















2月14日。世間ではバレンタインデーというやつだ。それは、ここ氷帝学園でも例外ではなかった。
むしろ、関係大アリだった。


















「・・・・・」


朝練が終わって自分の教室に向かおうとしたは通りがかりの跡部の教室を窓から見て、固まった。
跡部の机の上には大きな紙袋いっぱいのプレゼント。入りきらずに零れている物もある。


(まぁ、イケメンやしな・・・)


しかし中1でこれとは、跡部景吾恐るべし。ある意味尊敬の溜息を吐き、はその場をあとにした。
そのとき、跡部がを見ていたことにも気づかずに。




















「お、。自分の机えらいことになってんで」

「・・・は?」


教室に入ろうとしたとき、一足先に来ていた忍足が言った。
おそるおそる自分の机を見てみると、跡部ほどではないが紙袋に大量のプレゼント。思わず、唖然。


「いやぁ、俺も来てびっくりやわ。俺んとこもえらいことになってたんやで」


言われて忍足の方を見れば、跡部との中間くらいの量。


「東京はこないにお盛んなんかいな」


その言い方はどうかと思う、と思いつつ、確かに、とも思ってしまう自分がいた。

















プレゼント攻撃は、それだけでは終わらなかった。





休憩時間になるとクラスメイトや違うクラスからプレゼントを手渡される。もしくは、少し外していた隙に机の上に置かれている。
気持ちは嬉しい。嬉しいが、正直、は『女子』のパワーにげっそりしていた。


「女子のパワーって、お前も女子じゃん」

「そやけど・・・」


昼休み。
お疲れモードなと、なぜかそんなに疲れていない他のメンバー。いや、宍戸は若干疲れている。おかしい。こいつらもモテるはずなのに。
きけば、向日と芥川は商店街でお母様方のアイドルなのだとか。宍戸も可愛がられてはいるが、性格的な問題だろう。
忍足もそれほどダメージを受けていないという事は、大阪でもモテていたということだ。跡部は論外である。
もモテてはいたが、あのときは蔵ノ介も一緒だったし、小学生の勢いなんて大したものはない。
だが、中学生になった東京女子たちの勢いときたら。


「あかん・・・パワー吸い取られてもうたわ・・・」

「ハッ。だらしねぇなぁ。あーん?」

「・・・あんたがおかしいんとちゃう?」

「・・・んだと」

「まぁまぁそのへんにしとけって!ほら、チーズケーキ食って充電しろって」

「・・・充電て」


さすがは電器屋の息子、なんて思ってしまった。
目の前に出されたチーズケーキはありがたくもらっておく。ここの学食(もはやレストラン)のチーズケーキは美味しい。


「放課後はさすがに、部活の邪魔はしねぇだろうな・・・?」


宍戸の呟きは、学食の雑踏に消えた。



















放課後。宍戸の心配はとりあえず杞憂に終わった。部活を邪魔する者は無く、いつもどおり、ギャラリーの中での練習。
ただし、練習後には部室横に各々にわけた段ボール箱へプレゼント。も例外ではなかった。


「こないにもろうてどないすんねん。うち一人暮らしなんやけど」

「こういうのは賞味期限が危ないのから食べたらE−んだよ!」

「・・・よくわかっとるなぁ慈郎」


お菓子をたくさんもらって嬉しそうだ。


「・・・で?」

「へ?」


跡部がジト目でを見る。


「俺様には、ねぇってのか?」

「は?」

「ちょおまった。なんで自分だけやねん。俺ら、やろ?」

「え?」

「確かに、から貰ってねぇな」

「ちょ」

「まさか、無いとか言わねぇよな?」

「あ、いや」

「A−!からないのー!?」

「・・・・・」


思わず額をおさえる。あれだけもらっておいてまだ貰う気なのか、こいつらは。


「で、どうなんだ」

「・・・ある」

「まっじでー!?」


本当は、出すつもりはなかった。あれだけもらっているのなら、別に自分があげる必要な無いと思った。
だが、こう、期待の眼差しで見られたら、出さないわけにはいかないではないか。跡部ですら、興味津々な目を向けてくるのだから。
は荷物の中から箱を取り出した。箱を開けると、人数分ラッピングされた小さな包み。


「・・・手作り、か?」

「え、手作りあかんかった?」

「いや、むし「うっれC−!の手作り!いっただっきまーす!!」


跡部をさえぎり、芥川が一番乗りで包みを手にする。はやくもガサガサと開けて口にした。


「んっまーい!」

「そらよかったわ」

「どれも同じなん?」

「同じやで」

「ほなこれもらい」

「んじゃ俺これー」


と、次々に取っていくメンバー。最後に一個、残った。


「いらんの?」

「・・・いる」


どうも気落ちしていまったらしい跡部が、最後の一個を手にする。


「よかったなー景吾」

「あ?」

「それ、最後に作ったやつで、ほんのちょっと量が多めなんやで」


こっそり、芥川達には聞こえない声で言う。と、跡部はきょとんとしたあと、ふっと笑った。


「Thanks」

「どういたしまして」


小さな、でも他のよりほんの少し大きな包みを手にした跡部は、幸せそうに笑っていたそうだ。




















その後、どうにかこうにかプレゼントを持ち帰ったは、食べ物が思ったより無くて安心していた。
どうやら女子たちは、同じ女子であるを太らせない様に気を使ってくれたようだった。

















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まったく季節外ネタ←
バレンタイン戦争1年目。

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