テニス部へ殴り込みや!





















中学生活二日目。なんとも普通に過ぎて行った。そしてなんと忍足が同じクラスだった。
入学式にいなかったが、彼曰く、「電車乗り間違えて入学式出られへんかったんや。東京はややこしゅうてあかんわ」とのこと。
の住むマンションは学校からそう遠くなく徒歩通学で電車に乗る必要が無いため、「ふーん」とだけ返していた。




























放課後。ジャージに着替え、はテニスコートに向かった。榊監督は、部長にはすでに伝えてあると言っていた。
テニスコートにはすでに何人かいて、打ち合っている人もいた。そこに、は足を踏み入れた。
はある計画を企んでいるのだが、果たしてうまくいくのか否か。


「こんちはー」

「ん?白石やん」

「あーん?なんだ、てめぇは」


忍足と、入学式のイケメン。名を、跡部景吾というらしい。


「テニス部に入部希望なんやけど」

「おぉ、えぇやん。ところで白石、なんで声そのトーン「ここは実力主義なんやろ?誰か、対戦せぇへん?」


忍足の言葉を遮り、が声をかける。それを言わせてしまっては、計画が台無しである。
跡部が何か言いたそうにを見ていたが、気付かないふりをした。


「よっしゃ!んじゃ俺がするぜ!」


手を上げたのは、小柄な赤紫おかっぱの少年。


「俺、向日岳人。お前は?」

「白石や」

「・・・下は?」

「勝ったら教えたる」

「なんだと!ふん!俺が勝つっての!」


向日がコートへ入っていく。も後に続こうと足を踏み出した。


「おい白石・・・」

「なんや?忍足」

「自分・・・」


忍足が言いたいことがわかったは、にこりと笑ってコートに入って行った。


「・・・あいつ、なにがしたいんだ?」

「さぁ・・・本人あれで遊ぶの好きみたいやから・・・て、跡部?」


忍足が跡部を見たが、跡部はコートの中の二人を見たまま、忍足に目を向けなかった。





























「ゲームセット!ウォンバイン白石!6−2!」


コールが響き、ゲームが終了した。6−2での勝ちだ。汗をぬぐいながら、二人で跡部達の元へ戻った。


「くそくそ!なんだよお前!強いな!」

「おおきに」

「なんや・・・自分も強かったんかいな」

「伊達にアイツの相手してへんからな」

「ほな、次は俺の相手してもらおうかいな」

「えぇで、ほな・・・」





「そのへんにしておけ。白石





コートに向かおうとしたと忍足の足が止まる。向日も「え?」と跡部を見た。


、って・・・女!?」

「なんや・・・気づいとったんか、跡部。おもろないなぁ」

「あれ?声・・・」


低くなっていたの声のトーンが元に戻る。向日はそのギャップに目をぱちくりさせている。忍足は呆れの溜息をついていた。


「つーか知っていた、だな。榊監督からお前のことはきいていたからな」

「ちゅーことは自分が部長なん?1年やのに」

「昨日俺が部長になったんだよ。3年を倒してな」

「実力主義はこれも含めっちゅーわけやね・・・」

「そういうことだ」

「えーと、つまりどういうことだ?」


三人の目が向日に向く。


「んー・・・どっから言うべきや?」

「声やろ」

「あぁ、せやな。うちは男声出すんが特技でな。で、この顔やし、よく遊んでんねん」

「あ、低い声・・・顔は確かに、男っぽいもんなぁ」


ふむふむと向日が頷く。


「入部の件は、マネージャーとして、やね。さすがにここで選手にはなれへんから」

「女子部にいきゃいんじゃねぇの?強ぇんだし」

「あー・・・それやと契約違反やから」

「契約?」


向日が首を傾げる。自分より下にあるその顔に、少しきゅんとした。


「生活保障を榊監督がしてくれる代わりに、男子テニス部のマネージャーをするっちゅーんが、契約や」

「・・・なんでんな契約してんだ?」


これは跡部も初耳だったらしく、眉を歪めながら聞いてきた。イケメンは、顔を歪めてもイケメンである。


「うち、中学は東京に通いたい思うて、一人で上京してきたんや。せやけど、中学生の一人暮らしは危ないやろ?
 んで、オトンと榊監督が知り合いやったさかい、榊監督にお願いしてセキュリティ完備のマンションを一室借りたんや。
 せやけど、家賃も光熱費なんかもめっちゃたこうて・・・
 男子テニス部のマネージャーをするならそのへんは榊監督がもってくれるいうんで、こっちを引き受けたっちゅーわけや」

「ふーん・・・なんか大変なんだな。ま、これからよろしくな、白石!」

「・・・向日はかわえぇな」

「はー!?嬉しくねぇし!頭撫でんのやめろよな!」


思わず頭を撫でると嫌がられた。なんとなくショックである。


「白石、俺は?」

「しらへんわ」

「酷いんちゃう?」


忍足をあしらい顔をそむけると、跡部と目が合った。しばらく沈黙で見つめあう。


「跡部は・・・」

「・・・・・」

「ただのイケメンやね」

「は?」


はそれ以上何も言わず、さてマネ業を開始するかと部室に向かって行った。向日と忍足も自分の練習に、と散っていく。
取り残された跡部は、ただただの後ろ姿を見つめ、小さく笑った。



















―――――
しまった。侑士とがっくんの屋上での出会いを無視してしまった。

声でだますのがやりたかったのと、「ただのイケメンやね」が言わせたかった。

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