東京中学生活の始まり
学生にとって四月といえば、進級の季節。そして、入学の季節。ここ、氷帝学園中等部でも入学式が行われていた。
新入生席のひとつに腰掛けてあくびをかみ殺していた白石は、新入生代表の挨拶で壇上に上がった男子生徒を見て目を覚ました。
(アイツ・・・なんやイケメンやなぁ・・・)
遠くからでもわかる、独特なオーラ。爽やかというより、気品にあふれるオーラ。それが、彼の周りにはあるような気がした。
正直、彼の言葉は耳に入ってこない。声は聞こえるが、言葉が脳に伝わらない。見惚れている、とも違うような気がするが。
しかし、次の瞬間呆気にとられた。
「今日からこの俺様が、氷帝学園のキングだ!」
そして、小さく笑った。
思い切って東京に出て来てよかった。そう思えた瞬間だった。
入学式が終わると、は地図を片手にある場所へ向かった。
特別教室棟、音楽準備室。
はノックし、ひと声かけて中に入った。
「あぁ、よく来たな、白石」
「ど、どうも」
目の前にいるのは、音楽教師にして男子テニス部顧問、榊太郎。会うのは二度目だが、やはりどこか迫力があって緊張してしまう。
「さて、来てもらったのは、一応の確認のためだが・・・」
「はい、わかってます。セキュリティ完備のマンションに住まわせてもろうて、家賃、光熱費、水道代なんかを払ろうてくださるかわりに、
うちが男子テニス部のマネージャーをやるってことですね」
「うむ、そのとおりだ。今日は軽く見てもらって、明日から参加してもらおう」
「わかりました」
榊にテニスコートの場所をきき、は音楽準備室を出た。
男子テニス部・・・氷帝もテニスは強いときく。楽しめるところならいい、とは期待に胸を膨らませた。
夕陽に照らされたテニスコートには、もうあまり人がいなかった。どうやらひと騒動あったらしく、そのこともあって早めに終わったらしい。
「なんや、おもろないなぁ・・・」
「ん?白石?なんで自分ここにおんねん」
「へ?」
声をかけられ、それもここできくことのない大阪弁で話し掛けられ、は間の抜けた声を出して振り向いた。
「・・・忍足?」
「他に誰に見えんねん」
「いや、見えへんけど・・・なんでここにおんねん」
忍足侑士。大阪にいた頃、兄の試合についていって何度か顔を合わせた事がある。
「それ俺がきいたんやけど。俺は親の転勤や」
「うちは・・・大阪飛び出して来てん」
「は?」
今度は忍足が間の抜けた声を出した。
「中学は東京の学校通いたい思うてね。受験して、こっち来たんよ」
「ちゅーことは・・・一人暮らししよるんか?よくアイツが許したなぁ」
「大喧嘩したよ。今はもう仲直りしとるけどね」
あのときは大変だった。今までに無い位大喧嘩をして、家を飛び出して、夜中に探しにきた兄に連れられて帰って・・・同時に「ごめん」と言った。
「まぁ・・・大阪出身同士仲ようしたってな」
「ん、よろしゅー!」
東京でまさか知っている人間に会うとは。は一層嬉しくなって笑った。
「ほな、また明日な」
「ん、また明日!」
途中まで忍足と一緒に帰り、分かれ道で忍足と別れ、は部屋へと帰るのだった。
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