ここにあなたがいる





















よいしょ、と中身のぎっしり詰まった買い物バッグを持ち上げる。少し買いすぎたかなと思いつつも、まぁ日持ちするものだからいいかと思い直し、足を進めた。


?」

「えっ!?」


突然声を掛けられ、は驚きながら振り向いた。それがまた、最近よく一緒に帰るようになった、憧れの人で。


「さ、真田くん?」

「すまない、驚かせたか」

「う、ううん、大丈夫」


ふ、と彼の手元を見るとビニール袋がある。何を買ったのだろう。


「あぁ、おつかいを頼まれてな。は・・・」


ちら、と真田はの両手を見て軽く目を丸くした。片手に通学鞄、もう片手には重たそうな買い物バッグ。


「随分と多いな。もしや、お前が作るのか?」

「あ、うん。ウチお母さんいないし、お父さんは夜遅いから・・・。今日はお父さん早めに帰って来るからちょっと気合い入れようとして買いすぎちゃって・・・」

「・・・」


少し気恥ずかしそうに話すに対し、真田は軽く目を瞠った後、眉間に皺を寄せてとの距離を詰めた。真田くん?と首を傾げると、彼はスッと空いている右手を出す。


「俺が持とう」

「えっ!?い、いいよそんな!」

「持たせてくれないか。・・・無神経な事をきいてしまった、詫びだ」

「あ・・・」


知らなかったとはいえ、の家庭事情をきいてしまった罪悪感からだった。は少し迷った後、じゃあお願いします、と買い物バッグを真田に渡したのだった。



















帰り道を無言で歩く。何度か一緒に帰っているとはいえ、会話は少ないままだった。それでもにとっては傍に居るだけで幸せなのだった。そしていつものように家の前まで送ってもらい、荷物を受け取る。


「荷物、ありがとう。ごめんね、持たせちゃって」

「これは俺が侘びとしてしたことだ。謝る必要はない。それに、これくらいどうということはない」


確かに、日頃から鍛えている真田にとっては造作もない事だっただろう。もう一度ありがとうと言い、は踵を返してドアを開けようとした。が、先にガチャと音がして、内側からドアが開かれた。


「あ、おかえり、

「お父さん、もう帰ってたの?」

「予定より早く帰れてね。・・・おや?」


の父・和春が、真田の姿を目に入れて小さく首を傾げる。それに気づいて真田が会釈し、が慌てて「あっ、あのねっ」と切り出した。


「え、と、真田弦一郎くん。友達がテニス部のマネージャーで、ちょっと縁があってみんなで一緒に帰ることになって、真田くん、方向が一緒だからってよく送ってくれてるの」


マネージャーとの関わり始めは少し意味合いが変わって来るが、ひとまず置いておく。


「今日はスーパーで会って、荷物持ってくれて・・・」

「へぇ、そうなんだ」


娘さんにはお世話になっています、と真田が言う。和春は軽く観察する様に真田を見て、ふーん、とこぼした。


「彼氏、じゃあないんだ?」

「ちちち違うよ!!そんな!真田くんに失礼でしょ!?」

「え、あぁ・・・ごめん、ついね」


の酷い慌て様に、さすがは父と言うべきかあっさり把握して、和春はの頭を撫でた。


「これからも、をよろしくね」

「はい、友人として、良い関係を築けたらと思っています」


“友人”というフレーズに、どきんと小さく胸が跳ねる。つい最近まで、こうして話をすることもほとんどなかったというのに。緩みそうになる口元をなんとか引き締め。真田に手を振って見送った。




















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