きっかけはここから





















冷たい風が吹き、は身震いした。学校指定のマフラーをぐいと口元まで上げ、早足で校門をくぐる。まだ早い時間で、人影は無いと言ってもいい。
は階段を駆け上がると、息を切らしながら指定席に座った。直後、真田がコートに現れる。良かった、間に合った。
ただただ素振りをする姿も輝いていて、ほう・・・と息をこぼした。だからは気づいていなかった。別の所から自分の事を見る、その視線に。



















クラスは違うので、授業中は彼を見る事が出来ない。おそらく表情変わらず授業を受けているだろうと想像するだけ。彼は委員会の時もそうだから。
板書をし終え、はまた思いにふけった。



















今日も練習が終わった。急いで、彼らより早く学校を出なくては。そう思っては席を立とうとした。


「あ、やっぱりいた」

「!!!!??!!?!!!」


突然の声に驚き椅子から転げ落ちる。地味に痛い。


「大丈夫?」

「だ、だいじょう、ぶ・・・」


差しのべられた手をとって立ち上がり、は相手を見た。


「どうして、幸村さんがここに・・・?」

「明日当てられるのにノート忘れてね。まぁいっかと思ったんだけど、精市に取って来いって言われちゃって」

「・・・ここ、D組よ?」


幸村さん・・・幸村一架のクラスはA組のはずだ。彼と、同じ。すると一架はノートをぱたぱたさせながら言った。


「通りがかりに誰かまだいるような気がしてねー」

「う・・・」


そう言われると言い返せない。


さんはこんな時間までなにしてたの?」

「え、っと、私は、勉強を・・・」

「ノートも教科書も無しで?」

「うう・・・」


見透かされている。正直に答えた方がいいのだろうか。だが、勇気が出ない。


「そういえばね」


突然切り出される言葉にの顔が一架に向く。


「どうも視線を感じるって“アイツ”が言ってたんだけど・・・さんの事?」

「えっ!!?い、ち、違う!私、真田くんの事見てなんて・・・!!」

「誰も弦一郎とは言ってないけど」

「・・・!!!」


はめられた。そう気づいた時には遅く、一架がにやりと笑っていた。


「やっぱりねー。あ、心配しなくてもいいよ。視線は感じるけど、どこからの視線かは気づいて無いみたいだから」

「ど、どうして幸村さんは・・・」

「私も最初は全く気づいてなかったの。ある時弦一郎が何か視線を感じるって言いだして。
 嫌な視線?ってきいたら、嫌ではない、だが不思議な心地だって。それでピンときたの。その視線は恋心じゃないかって。これでも女だからねー。
 それで昨日やっと、場所を特定できたの」

「あああああああの!!!真田くんには・・・!!!」


慌てすぎてどもるに一架は笑いかける。


「言わないよ。そんなことしない」


それをきいてはほっと胸を撫で下した。


「ところでさん、今から帰るのよね?」

「え、う、うん」

「なら、一緒に帰ろうか」

「え?」


突然の申し出に驚き、は目をパチクリさせる。


「これも何かの縁だし、女の子一人で返すわけにもいかないし。確か同じ方向でしょ?」

「そう、だけど・・・」

「なら決まりね。いこ!」

「あっ・・・」


ぐい、と手を惹かれ、慌てて鞄を手にする。あっという間に、テニスコート近くの門まで連れて行かれた。










「おまたせー!」

「遅いぜ一架!ん?誰だソイツ」


丸井がじっとを見る。はたじろいて少し退いた。


ちゃん。まだ教室に残って勉強してたから、一緒に帰ろうって誘ったの」

「へぇ・・・」

「弦一郎は知ってるよね?」


一架の言葉に、え、と胸が高鳴る。


「ん?あぁ、委員会が同じだからな」


覚えていてくれた。それだけでの心は幸せに満ちていた。


「それじゃ、帰ろうか」


幸村の言葉で皆が歩き出す。も一架の隣を歩き、少し歩く真田の背中を見つめるのだった。



















分かれ道。が不意に立ち止まった。


「私、こっちだから・・・」

「あ、そうなんだ?てことは」


一度切って、一架は斜め上を向く。


「弦一郎と同じね。送ってあげたら?」

「えぇ!?」

「ふむ・・・そうだな。最近は物騒だからな。そうしよう」

「え、あ、でもっ、すぐ、そこだからっ!」

「すぐそこだからといって気を抜いては危険が増す。やはり送ろう」

「・・・っ!!」


が口をぱくぱくさせながら一架を見るが、一架は笑みを浮かべるばかり。
真田に「行くぞ」と言われ、は諦めて歩き出した。だがすぐに振り返る。


「幸村さんっ・・・!」

「一架でいいよ!また明日、!」


は一瞬固まったが、すぐに笑みを浮かべて「また明日」といい、踵を返して歩いていった。
真田の少し後ろを歩く姿は、とてもかわいらしかった。



















「ねぇ一架」

「なに?精市」

「あの二人をくっつけるつもりなのかい?」


さすが、めざとい。


「くっつける、まではしないよ。アクマできっかけを作るだけ。どうするかは本人たち次第だし」

「ふーん・・・人の事もいいけど、自分の事も考えなよ?」

「え?」


弟を振り返るが、幸村はとうに歩き出していた。慌てて追いかけるが、幸村はただ楽しそうに笑っていたという。




















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わたしにしては珍しく大人しめな夢主←
だーんだんだんでぃずーむな感じだけど縦書きの便箋は送りません←
そしてでしゃばり一架さん。このころにはどうなってるんだろうね君はw(え)

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