彼女は甘党
本日は晴天。今日も絶好のテニス日和。テニスコートでは、今日もテニス部が必死に練習をしている。そんな様子を、交友棟から眺める者がいた。
2年F組、不二。報道委員の彼女は、兄からおさがりでもらったカメラを手に、シャッターチャンスを狙っていた。
(今日も跡部先輩はかっこいいなぁ。いや、跡部先輩に限らずだけど。樺地と鳳でかいからわかりやすい・・・あ)
レンズ越しに見えた人影を、顔を上げてレンズ無しで見る。無表情に近いが上を目指していること滲み出ているその顔に、思わず笑みがこぼれる。
「頑張ってるなぁ、日吉」
そしてまたカメラを構える。どれ、かっこいい姿の一枚でもとってやるか。
が兄たちと同じ中学に行かずに氷帝学園を選んだのには、わけがあった。
一つ目は、兄たちと離れて楽しんでみよう≠ニいうことだ。もちろん兄たちと一緒にいるのは楽しい。
だが、どういうわけか女子の友達は少なかった。氷帝では幼稚舎上がりの子も結構いて初めはなかなか友達ができなかったが、
2年になった今ではそれなりに女子の友達もできて、氷帝に入って良かったと思っている。
二つ目は、制服が可愛いから。なんて簡単な理由、と思われてしまえばそれでおしまいだが、制服は重要である。
青学のセーラー服も女子としては捨てがたかったが、氷帝の制服が勝った。
三つ目は、兄たち以外のテニスを見てみたかったということ。小学生の頃から兄たちとテニスをしていたが、それ≠オかしらなかった。
将来プロに、とか、今自分もテニスをしたい、というわけではないが、いろんなテニスが見られる。
そう思って青学と並んでテニスの強豪と名高い氷帝を選んだのだ。実際、こうしていろんなテニスを見られている。は毎日が楽しくて仕方がなかった。
細かいことを言えばまだあるだろうが、が兄たちと同じ青学を選ばず氷帝にしたのは、こういったことがあるからだ。
もっとも、下の兄、の双子の兄裕太も、青学ではなく聖ルドルフに転校してしまったが。
裕太の転校は良いことなのでは何も言わなかったが、寮に入ってしまったのは寂しかった。
の日課は、朝食後のプリンと、放課後のテニス部ウォッチング。彼女は努力している人を見るのが好きである。
兄たちが努力家だからその影響もあるだろう。氷帝テニス部の中では、跡部と日吉を眺めるのが好きだ。
跡部はなかなかその努力している姿が見られないが、滲むでるオーラで何かいつもと違う雰囲気を感じ取るのだ。
日吉は見るからに努力しているのがわかって楽しい。自分のやりやすいスタイルで、ぐんぐん昇って行く彼は、には輝いて見えた。
他の人からは二人ともどう見えているのかわからないが、は2人の練習姿を見るだけで、胸が熱くなるのだった。
不意に少し先に見慣れた頭が現れた。は声をかけようと彼に歩み寄った。
「日吉ー」
「・・・!?・・・な、なんだお前か。気配消してくるなよな・・・」
「消してないって」
はむう、と口をとんがらせた。どうも、彼女の気配は読みにくいらしく、よく他の人にも「気配感じなかった」と言われる。
武道家である日吉にも気配が読めないほどだから、はもしかしたらすごいのかもしれない。本人は無意識なので複雑な心境のようだが。
「で?何の用だ?」
「プリン作って来たんだけど食べる?日吉のは甘さ控えめ」
「・・・俺の、は?」
「後は鳳と樺地とあたしの分」
鳳と樺地は1年の時同じクラスで、今もよく話をしている。テニスの話題で盛り上がれるのが楽しいからだ。
日吉は1年の時から今も同じクラスで、男子の中で一番話をするのは日吉だ。
「・・・まぁいい。もらっておく」
「素直にくれって言えばいいのに。はいどーぞ」
「あぁ・・・ありがとう」
日吉はから簡単にラッピングされたプリンを受け取った。数秒眺めていると、は「じゃあ鳳と樺地のとこ行ってくる!」と言って駆けて行った。
「・・・俺のは甘さ控えめ、か」
そうした気遣いが嬉しく、くすぐったい。この感情の種類は、なんとなくわかっている。
「どうせアイツのは甘さ倍増なんだろうな」
そう言って小さく「クッ」と笑い、日吉はプリンを食すべく人気の無いところへ向かうのだった。
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不二さんの序章的な。日吉→ちっく。ただし日吉もまだ△。
タイトル間違えた感がにじみ出ている←
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