Life or Death
加戸部さんが転校してきて、一週間の時が流れた。はじめのアレがあったからか、加戸部さんは今でもクラスになじめないでいる。
それでも俺は、相変わらず彼女から目が離せずにいた。加戸部さんを見ていると、人生楽しくないのだろうかと思えてくる。
授業中はぼーっと窓の外を眺めていることが多い。それでいて先生に何も言われないのは、彼女の成績がおそらくいいからだろう。
ほら、まただ。また今日も、彼女は空を見ている。
「加戸部さん」
声を掛けると、彼女が無言で顔を上げる。
「今日も隣、いいかな?」
きいて、こくんと頷くのを確認して、隣に腰を下ろす。初日からずっと、昼休みは加戸部さんの所へ行くようになった。
彼女は他の人と違って、俺のことを拒まないでくれる。それだけで、特別扱いしてもらえているような気がして、嬉しかった。
「ねぇ、加戸部さん」
今なら、きけるかもしれない。気になっていたことを。そう思って声を掛ける。
「どうしていつも、タブレットを口にしているんだい?」
色の事は、なんとなくきけなかった。彼女は一瞬目を丸くした後、軽く目を伏せた。
「・・・これがないと、死ぬから」
「え・・・?」
思いもよらなかった答えに愕然となる。死、ぬ・・・?
「これがないと死ぬの、私。・・・別に死ぬのが嫌だから飲むわけじゃないけど」
「・・・それは、自分は死んでもいいと思っているって事・・・?」
そんな、こと。
「・・・平たく言えば、そんな感じね」
肯定されて、一瞬思考が止まった。
「ふざけるな!!」
気づけば怒鳴りつけていた。彼女が驚いて目を見開いている。でも、こんな。
「死んでもいいなんて、簡単に言っちゃいけない。俺は、君が・・・考えたくもないけど、もし君が、死んだら、悲しくて、苦しくて、辛いよ・・・」
「・・・・・」
加戸部さんの顔が、だんだん俯いていく。そして、ぽつりと言った。
「・・・そんな風に言われたのは、“あいつ”で二人目ね・・・でも」
一度区切って加戸部さんが顔を上げる。その時の目を、決して忘れないだろう。
「あんたは、常に生死の境目にいるコトを、知らない」
忘れられるわけが、なかった。
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