山に“鬼”が出るとの噂をきき、奥州を統べる伊達政宗は、供を連れて山へと入った。進み行くと次第に、鼻をつく独特な鉄臭がし始めた。否、これは―――









さらに進んでいくとそこには、噂の“鬼”が、いた。真っ白な雪を真っ赤に染めあげ、感情を映さぬ瞳でその塊を見下ろしている。刀の刃先からは未だぽたり、ぽたりと紅の雫が

滴っていて、その行為が成されてから時間がたっていないことがわかる。ざくっと雪を踏みしめて歩みを進めると、鬼が小さくふるえて、ゆるりと政宗の方に顔を向けた。やはり

目は虚ろで、それが政宗を映しているのかすらわからない。主君をかばうように一歩出ようとする重臣を手で制して彼は歩を進める。


「貴様が、噂の鬼か?」


問いに答える声は無い。かわりに、ザッとその姿が掻き消えた。


「!?」

「政宗様!!」


一瞬にして懐に飛び込んできたその影の刃をなんとか受け止める。ギリギリと刃同士がせりあった。


「ッ・・・急に斬りかかってくるとはのう・・・わしに恨みでもあるんか?」

「・・・・・」


返答は無い。政宗が小さく舌打ちをすると、突如鬼の力が緩んだ。


「・・・・・独眼竜の瞳は・・・眩しすぎる・・・」


そう呟いて、鬼は刀を下ろした。黙したまま鬼の刀を捕るが、鬼は無抵抗のまま佇んでいる。


「・・・貴様、名は?」

「名前なんて・・・忘れた・・・」

「そうか」


政宗様、と咎めるような声がきこえるが、政宗は聞く耳を持たない。


「貴様、帰るところはあるのか?」

「・・・帰るとこなんて、無い」

「そうか。なら、わしのところに来るか?」

「政宗様!」


重臣を目で下げて、鬼に向き直る。鬼はやはりどこか無気力な目で政宗を見た。


「貴様の名は今からだ。いいな!」

・・・」


、と自分に与えられた名を繰り返す。そのまま政宗は居城に鬼、改めを連れ帰ったのだった。





















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