桜咲き舞う春。真田家と上杉家は、親交の為に花見の宴席を催すこととなった。席の中心には真田昌幸、、信之、幸村、上杉景勝、綾御前、直江兼続がおり、その席を囲むようにして家臣団の席があった。席に宴の料理と酒が並べられ、挨拶が執り行われる。真田と上杉の縁に、乾杯。そして宴は開催された。
「ささ、景勝様!どうぞいっぱい」
「・・・うむ」
すかさず兼続が主に酒を注ぐ。そのそばで綾御前がお猪口を口につけていた。それを見やり、真田側も酒を頂戴することにした。まず信之が父に酒を注ぎ、続いては幸村がの方へ。
「姉上、おひとつどうぞ」
「ありがとう、幸村」
幸村によっての杯はあっという間に満たされる。く、と杯を傾けて喉を鳴らし、は息をついた。
「信之、幸村も」
「ありがとうございます、姉上」
「頂戴致します」
が信之、次いで幸村に酒を注いでやる。二人が酒を口にすると満足そうに頷いて、は自らの杯に視線を落とした。
「・・・あら?」
赤い杯、透明な酒の上に浮かぶ、淡い色の桜の花びら。ふふ、と笑みをこぼし、は指でその桜を掬い取った。
「桜も宴に参加したいのかしら?」
「これだけの賑わいならば、それもありえるでしょうな!」
の独り言とも思える言葉に相槌ったのは兼続だった。は彼に目を移して笑いかける。そして兼続の杯に酒を注ぎ、もまた、兼続に注いでもらっていた。
「ふふ、仲良きことは美しきかな、ですね、兼続」
「もちろんでございます、御前!」
綾御前に言葉をかけられ、兼続は奮起した。その様子をは微笑ましく見つめていた。
宴は順調に進んでいった。盛り上がっているその宴席を、はそっと抜け出す。それを偶然目に留めた兼続は、の後を追った。
「殿」
「あら、兼続殿。どうなさいましたの?」
「あぁいえ・・・殿が宴席を離れられるのが見えまして」
「そう・・・追いかけて来てくださったのですね」
淡く微笑まれ、兼続の胸が一波高鳴る。はその様子に気づいてかいないでか、桜の木を見上げた。
「こうして皆が笑って過ごせる日がずっと続けば良いのにと思います。この乱世では、そんな願いは儚く消えるということも、わかってはいますが・・・」
「きっと・・・きっと大丈夫です!我らが義の心を貫けば、きっと泰平の世は訪れまする!」
「・・・ふふ、そうですわね」
この方のこの真っ直ぐな心と瞳には、いつも勇気をもらう。乱世に荒みそうになる心に清き水が流れる。はいつもそれに救われていた。
「・・・ありがとうございます、兼続殿」
「む!?私がなにかしましたかな!?しかし、殿のお役に立てたのでありましたら、嬉しいものですな!」
ははっと笑う兼続にはまた微笑みを浮かべる。彼がいるから、この乱世でも立ち向かっていけるのだと思う。弟たちも共に奮起し共に戦っているが、弟たちとはまた違う、“何か”。それを胸に抱きしめ、また訪れる戦火に、彼女らは立ち向かっていく。
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