主君・浅井長政が彼の義兄・織田信長に反旗を翻した結果、浅井は滅亡した。燃え盛る業火につつまれる小谷城を見つめながら、は幾月か前のことを思い出していた。
「は、どうして高虎と一緒にいるの?」
「えっ?」
散歩のお誘いを受けて、長政の妻・お市と歩いているときのことだった。突然の問いに、は目をぱちくり瞬かせた。
「いつもそばにいるけれど、どういう心境なのかと思って」
「あたしは、ただ、高虎のそばにいたいだけです。一緒に、いたいだけです」
「本当に、それだけ?」
本当に。そうきかれて口をつぐむ。その先を口にする術をは持っていなかったのだ。すぐに答えが出てこなかったというのに、お市は小さく笑った。
「そのまま即答できないということは、違う“何か”もあるということよね?」
「そう・・・なんでしょうか」
「えぇ、きっと」
お市はほほえみを浮かべたまま、彼の人を思い浮かべた。
「誰かのそばにいたい、その誰かの力になりたい。そう思うのは良いことよ。その気持ちが何を元にして浮かぶのか。それがきっと、あなたにもわかるわ」
「・・・あたしが高虎のそばにいたいという理由、ということですか?」
「えぇ」
微笑むお市に反しては「うーん」と唸った。
「あたし、高虎に関しては依存していると自覚があるんですけど、それでもその“何か”があるんですかね?」
「あるわ。あなたがそちらを自覚していないだけで」
「そう、ですか・・・?」
よくわからなかった。高虎は生まれたときから一緒で、ずっと一緒に過ごしてきて、これからもずっと一緒にいたい相手。それとはまた違う感情があるということだろうか。
お市が長政に呼ばれてその話はそれ以上はできなく、はふとしたときに考えるようになったのだった。
じっと火を見つめていると、様々な思いがこみ上げてくる。やがて高虎、吉継、の三人は向き直った。
「お市様を頼む。俺は、織田には下らない」
高虎がまっすぐ吉継を見つめる。
「俺は俺の、おまえはおまえの、それぞれ見るとしよう」
「夢の、続きを」
ぱちん、と掲げた手が合わされる。続いても吉継に手を掲げ、あわされた手をぎゅっと握った。
「?」
「お市様に伝えてほしいの。“あたしはあたしの答えを探してみます”って」
「・・・わかった」
何のことかはわからないが、伝えればお市は把握できるのだろう。そう思って吉継は何も聞かずにうなずいた。そして高虎とは吉継に背を向ける。
「」
背後からよばれては振り向いた。高虎も、まだなにかあるのかと吉継に視線を向ける。
「おまえの夢はなんだ?」
率直にきかれ、先ほど思い出した情景が再び浮かぶ。小さく笑って、は口を開いた。
「青く澄み渡る空みたいな未来、かな」
「・・・そうか」
それでなんとなく吉継は把握したらしい。少しだけ沈黙がれたあと、青い影の二人は再び吉継に背を向けた。遠ざかっていく二人の背を見つめ、吉継が小さく呟く。
「おまえは高虎さえいればどこまでも突き進むんだな、」
たとえ時のながれがどこをながれていようとも。吉継はひとつ息をつくと、もう見えなくなった二人に背をむけた。それぞれの思いを胸に、それぞれの夢の続きを見るため、歩き出す。
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