武技を磨く流浪の旅の途中、は丹波の地に寄り立った。まちを見て歩いていると、ふと前でもめ事が起きているのが目に入る。二人の男が小柄な人物を囲っているようだ。まわりに他に人はおらず、助けられる者はいない。余計なことに首を突っ込みたくはないが仕方がないなと、はそちらへ歩みを進めた。


「よってたかって詰め寄るのはよくないと思うが?」

「あぁ?」


近くに寄って男たちが振り向いてはじめて、囲まれている人物が見えた。おそらくどこかの武士の息女で、上等の物を着ているから狙われてしまったのだろう。


「その子、いやがってるように見えるが、違うのか?」

「あぁん?なに外野から・・・」

「嫌がっておるのじゃ!こやつら無理矢理わらわに向かってきたのじゃ!」

「てめっ・・・!」


男の一人がキッと少女をにらむと少女がひゃっと身を縮こまらせた。



「ほら、やめてやったらどうなんだ」

「・・・調子に乗りやがって・・・!」


男たちが刃物を取り出す。は一瞬目を細め、面倒くさそうに「あーあ」と頭をかいた。


「刀抜いたからには、覚悟決めろよ?」

「うっせぇ!!」


男たちが切りかかってくる。はそれらを避けつつ少女に近寄った。


「失礼」

「えっ、きゃっ!?」


急にかつぎ上げられて少女が小さく悲鳴を上げる。頭引っ込めてろ、とに言われて少女ははの肩にしがみついて身を縮こまらせた。は自分と彼女に男等の刃が当たら

ないように避けながら、自分も剣を抜いて応戦した。もちろん峰打ちである。あっと言う間に二人の暴漢をのし、は少女を地面へとおろした。


「さって、これで大丈夫だろう。これに懲りたらまちに出るときには気をつけて・・・」


言いながら少女に目を向けて、は固まった。なぜかものすごくきらきらした目で見られている。


「そち、強いのじゃな!わらわは感激したぞ!」

「は、はぁ・・・」


勢いよく詰め寄ってくる少女に対して退き気味になってしまう。どうしたものか、と困っていると、こちらに駆けてくる足音がきこえてきた。


「ガラシャ!」

「父上!」


駆け寄ってきた青年を見て少女がぱっと顔を明るくするが、すぐにしまったというように表情を変える。


「また勝手に抜け出して・・・!」

「ご、ごめんなさいなのじゃ、父上・・・」


しゅんとする少女を見て青年はため息をつき、そしてへと顔を向けた。


「娘がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」

「あぁ、いや・・・」


青年はに一礼すると、ガラシャ、そして娘と言われた少女に向き直る。


「さぁ、帰りますよ」

「まっ、待ってほしいのじゃ、父上!」


きびすを返そうとする青年をガラシャが止める。ガラシャはの正面に来て意気込んだ。


「わらわはガラシャ、明智光秀が娘のガラシャじゃ!そちの名前はなんじゃ?」

といいます・・・」

「ほむ!じゃな!?」


ガラシャが満足そうにうなずくのを目を瞬かせて見、はっと気づく。


「明智・・・光秀・・・?」


ちら、と、娘の用が終わるのを待っている青年に目を向ける。つまりこの青年が、織田信長の家臣、明智光秀ということか。


「かの明智殿にこのような可愛らしいご息女がいらっしゃるとは・・・」

「ほむ?」

「いえ・・・お転婆で手を焼いております」


苦笑する光秀と、なんのことやらと首を傾げるガラシャを見て、も苦笑した。そんなことはおかまいなしに、ガラシャはへと言葉を続ける。


はなぜ丹波に参ったのじゃ?」

「俺はあちこちを旅しているんですよ」

「旅!」


ガラシャの目がまた輝きはじめ、光秀がしまったという顔をした。


「ならば世界をその目で見ておるのじゃな!?わらわに世界の話をきかせてほしいのじゃ!」

「えっ?ええと・・・」


は伺うように光秀を見る。光秀は顔に手を当ててため息をついたあと、頼みます、の意を込めて頷いた。こうしては明智邸に招かれてガラシャに旅の、世界の話をきかせ

、彼女に気に入られてしまうのであった。



















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