ヤマト隊




















チーム結成で早速任務・・・というわけではなく、まずは彼らの力を知るために、知ってもらうためにシュミレートを行うことになった。シュミレーションルームに移動し、シンとトウマをそれぞれ座らせる。使用機体はひとまずジンでやってもらう。二人とも機動力の高さに機体を上手く動かせている。が、シンのほうは少々問題があった。

「うーん・・・トウマは得意と言うだけあってジンをいいように動かせているけど、シンは機体を振り回してるわねぇ」

つまり、シンの操縦にジンのほうがついていけていないのである。機体の性能にパイロットの腕がついていかず振り回されることはあるが、さすが最新機体に乗っていただけのことはある。

「インパルスやデスティニーに比べたら、やっぱジンは性能が落ちちゃうのかな」

「バージョンにもよるけど、どうしてもね。シン、ザクやグフには?」

「ザクはシュミレートやったことありますけど、あんまり合いませんでした」

キラもうーんとうなり、がシンにきくが、やはり重量型は合わない様子。

「ディン、バビ・・・ゲイツを回してもらえればありがたいけど・・・」

もうーんとうなり、じゃあ次はゲイツでいってみますか、と機械の設定をしなおす。結果は、シンはジンよりはよくなった、が、トウマはなかなか扱いに難ありというところであった。慣れもあるのかもしれないが、即戦力でとはなかなか言い難い。これらを考慮し、は二人に合う機体を模索した。

「そうねぇ・・・シンはなんとかゲイツを回してもらえるよう手配して・・・トウマはハイマニューバの2型をもらってカスタマイズしちゃいましょうか」

「え?」

思わず声をもらしたのは当のパイロットたちではなくキラだった。機体の知識はあるだろうが、2型だのカスタマイズだのといった点での声だろう。

「トウマは実績はないけど、実力はあると思うわよ?ジンハイマニューバ2型はゲイツやザクウォーリアに比べたら旧式ではあるけど、パイロット次第ではそれらを上回るっていわれているし、やってみる価値はあると思うわ」

言ってはカタタっとキーボードに指を走らせる。これをあとでキラに正式文にしてもらい、上へ提出するのだ。今更だがは隊長であるキラに敬語を使っていない。はじめは使っていたのだが、キラに「違和感ありすぎるからやめて」と言われてしまったのだ。元々仲間であることを承知の隊員たちはこれを受け入れ、隊長副長間で敬語が無くても気にしないことにした。いわゆる、ジュール隊状態である。

「さて、それじゃシンはゲイツ、トウマはジンハイマニューバ2型でもうワンセットシュミレートしましょうか。シズマ、ジェイス、二人の被弾しやすい箇所や消費しやすいエネルギーをしっかり把握しておいてね。そうしたら修理や補給で優先すべき場所がわかりやすくなるから」

「はい!」

シズマとジェイスがメモを手にスタンバイする。パイロットたちは武器や機能性能の確認をしながらシュミレートをし、整備士たちはそれを元に被弾率や消費率のデータをとっていった。二人のシュミレートが終わると「お疲れ様」と声をかけ、今度はキラとがそのシートに座る。隊員たちに小さな緊張がはしった。

「これ、フリーダムのデータ入ってない・・・よね?」

「ところがここにディスクがあってね?」

「用意いいなぁ」

何を感心しているのやら。少々呆れつつはキラにストライクフリーダムのデータディスクを渡し、自分もワルキューレのデータディスクをセットする。エタニティのデータは無いが、フリーダムのほうもミーティアのデータはないし、問題ないであろう。機動させ、二人はシュミレートに入った。シンたちにはまず個々でのシュミレートをさせたが、今回は共同戦線に設定した。フリーダムとワルキューレがモニター内を駆け、次々に敵をおとしていく。その速さと確実さにシンは改めて二人の実力をかみしめ、整備士二人は感嘆の息を漏らしていた。やがて全てをおとし終えると、ブザーが鳴って終了の合図を示した。一息ついてキラとがシートから立ち上がる。自分達のデータをチェックして、あーだこーだ言ったあと、隊員たちに向き直った。

「と、まぁ、私達のほうはこんな感じね。データうまくとれた?」

「は、はい!ていうか被弾ほとんどないし、機体の性能なのか、消耗もあまりないんですけど・・・」

「シュミレーションでのデータとりはこれが限界かもね」

シズマのメモをのぞきながらキラが言う。もっと敵の数を増やして高難易度にすればいいのかもしれないが、あまり期待はできなさそうだ。

「今度ジャスティスのデータもらおうかな・・・」

「またすごいことを考えるわね・・・」

ぼそっと呟いたキラにが呆れの声を漏らした。確かにインフィニットジャスティスとアスランのデータがあれば相手としてはじゅうにぶんだろうが。ひとまずパイロット全員シュミレートを行い、シンとトウマの適正機体も見いだせたので、MSのシュミレーション訓練は終了することにした。




















シュミレーションの次は白兵戦の模擬ということで、一同はまず射撃訓練場に向かった。これには整備士たちも参加することになる。それぞれに銃を渡し、一人ずつチェックしていく。

「シン、無闇に撃ちすぎ。脇閉めて一点集中しなさい」

「う、はい!」

まさに数打ちゃあたるな射撃にから指導が入る。

「・・・近くでレイの射撃見てきたんでしょう?思い出しながら撃ちなさい」

「っ・・・・・はい」

まだ傷は癒えていないかもしれない。だが彼のことも乗り越えなくてはいけないし、彼はシンの身近にいた一番の手本なのだ。それからシンはに言われたことを意識し、脳裏に覚えているレイの姿を思い浮かべながら引き金を引いた。かなりよくなったことがシンも自分自身でわかり、若干呆気にとられていた。シンのほうはとりあえず大丈夫だろう。トウマは、と見てみれば、こちらはとくに問題なさそうだった。パラと資料を見てみれば、なるほどアカデミーの成績は射撃2位だったようだ。シズマとジェイスはそこそこだ。トウマほど良くは無いが、シンほどばらつきがあるわけでもない。許容範囲かな、と重点だけ教えてよしとする。あとは、キラだ。ふっとキラに目を向けて、は口元をひくつかせた。

「・・・あのね、隊長」

「えっ、な、なに?」

「セーフティ忘れなくなったのは感心だけど・・・これは」

キラの射撃は、いいとは言えない。シンほど無鉄砲なわけではないが、正確性は無い。確かに射撃指導も訓練もそう受けたことはないだろうが、撃ったことがないわけではない。思わず額を押さえてため息をついたにキラは乾いた笑いしか出せなかった。


















射撃の次はナイフ戦。もちろんナイフは擬似刃だ。これは隊員4人ともいい動きをしてみせた。

「・・・隊長?」

「いや、だって、さ?」

またしてもが頭を抱える。体術という意味では悪くないのだ。だが、ナイフの扱いが危うい。

「隊長ってMS戦はすごいのになぁ」

思わずシズマがこぼしてしまうレベルだ。もっとも、潜在能力は天下一品なので鍛えれば見違えることはわかっているのだが。

「隊長には私がみっちり白兵戦を鍛え込むとして」

「げ」

「げ、じゃない!四人は相手をローテさせながらもうワンセットずつやって」

「はい!」

四人の声が重なり、タイマーつきの模擬戦が行われた。その間にが白兵戦をキラに叩き込んでいったのだった。




















本日の業務が終了し、解散となる。隊員たちが隊長室から出て行くと、つかれたーと声をもらしながらキラが机にだらけた。

「情けないわねぇ・・・これからもっともっと仕事がくるのよ?」

「でもザフトって本来は義勇軍なんでしょ?必要の無い時は本業につくって」

イザークが本来評議会の文官であるように、戦時でないザフト兵は本業に戻る。だがいまは戦後でいろいろと忙しいのである。戦後処理は新隊のこちらにはそうそうまわってこないが、反組織が完全に無くなったとはいえない。それらに対するものが必要なのである。それを話すとキラは「そうだけど」と唸っていた。そこへ部屋のブザーが鳴り、来客を告げる。どうぞ、と声をかけると馴染みの顔がふたつ入ってきた。

「よ、お疲れ」

「ディアッカ、イザーク」

「ジュール隊長、だ!」

「細かいこと言うなって」

「公の場で言われては困るからな!」

ディアッカが軽く言ってキラが返し、イザークが顔を歪めてディアッカがなだめるという流れだ。そんなやりとりに苦笑し、はソファを薦めた。ソファへ移動してくるキラと入れ替わりにがコーヒーを四人分用意し、テーブルへと置いていく。

「まさかにコーヒーを出される日がくるとはなぁ」

「茶化すなら取り上げるわよ」

「冗談だって」

ディアッカをジト目で見て自分もキラの隣に腰を下ろす。コーヒーを一口飲んでイザークも「そういえばのコーヒーを飲むのは初めてかもしれんな」と呟いた。

「そうだっけ?まぁなかなかコーヒー淹れてあげる機会も無かったしね。コーヒー好きなのよ?大体アンディの影響だけど」

「・・・バルトフェルドさんの」

味を思い出してか、キラが微妙な顔をする。バルトフェルドはあれからザフトへ籍を戻し、前と同じように地球駐在となった。前のように支配ではなく、共存していくために。なんだかんだで砂漠を気に入ってはいたらしい。また砂漠の虎と呼ばれることになるのだろう。ふうと息をつき、イザークがカップをソーサーへ下ろす。

「隊員たちとはうまくやれそうか?ヤマト隊長=v

「えぇ、そこは大丈夫そうです。歳も近い・・・というか、年下の子しかいませんし」

「へぇ。ま、小隊だもんな、とりあえず」

ディアッカの言葉に「はい」と返し、キラがを見る。口につけたカップをおろしてが小首をかしげる。あぁ説明しろということかとワンテンポ遅れて把握し、口を開いた。

「シンは元々ミネルバクルーで、まぁ、戦った相手ではあるけど、戦いが終わってからキラと会って少し話したらしくて、打ち解けてはいたのよ、ね?」

キラにききながら言うと彼は頷いた。

「だからとりあえず大丈夫。あとは今年度卒の子ばかりだけど、もうひとりのパイロットも赤の子だし、整備士ふたりもいい感じだし、今日シュミレートとかやったのを見たら、いいスタートはきれそうよ」

「なら、よかった」

ほっとした様子で言ってイザークがコーヒーを口にする。ぱちくりとが目を瞬かせて、じっとイザークを見た。

「そんなに、心配してくれたの?」

「べ、べつに、まだ任務も無いだろうから、特に心配など、していない!していないからな!?」

「あー、はいはい」

くすくすと笑うとまたイザークが声を上げる。今度はキラが目をぱちくりさせた。こんな様子のイザークを見るのも珍しいと思ったのだろう。イザークはひとつ咳払いをすると、真面目な顔に戻してキラを見た。

「まだ正式な事例はおりていないが、これからしばらくはジュール隊でヤマト隊を預かる事になる。また任務が決定したら、隊員のデータを送ってもらう事になるだろう」

「そうね、了解」

「あぁ、頼む。いずれ艦を与えられるかどうかというのはまだわからないが・・・」

「それねー、ある意味艦はないほうがいいと思うのよね」

「そうなのか?」

きいたのはディアッカだった。隊があれば艦があるものだが、はあまり艦を与えられることに気が進まない様子で、意外だと思ったのだ。

「だって、ウチって隊長も私もパイロットでしょ?私もキラも艦を指揮するのは向いていないというか難しいというかだし、それならどちらにしても艦長が必要だもの」

「うん・・・確かに無理だね。マリューさんすごいって思うもん」

「キラ、そこ感心する点違うからな?」

思わずディアッカがつっこみを入れてしまうくらい、キラの感想は少しずれていた。

「新米隊長の新隊に艦長として来てくれる強者がまずいるかってとこよね。っていう点もふまえて、しばらくはお世話になるかと」

「そうだな・・・」

イザークも確かにと思ったらしく、少々眉をひそめて頷いた。

「ともかく、まずは事例が出てからだ。それまでにキラにザフトやプラントのことをしっかり叩き込んでおけ!とくに!基地内部の構造をだ!!」

「え、なんで迷ったのイザークが知ってるんですか」

「馬鹿者!副官が首根っこひっつかんで迷子になっていた隊長を迎えに来たのを見たら、誰だってそう思うだろうが!!」

できるだけ目撃されないように気をつけたつもりだったのだが、どうやらイザークとディアッカには見られていたらしい。乾いた笑いをもらすキラに、イザークがにらみをきかせていた。

「あ、イザーク、事例が出たら頼みがあるんだけど」

「なんだ」

まだすっきりしないらしく、若干苛立ちを残した声でイザークがこたえる。

「ゲイツとジンハイマニューバ2型って、こっちに回してもらえるかな?」

「ジンハイマニューバ2型?またどうしてそんな型を」

「トウマが・・・新しいパイロットが、そっちの方が得意そうなんです」

答えたのはキラで、イザークは数秒思案したあと、「何とかしてみる」と言った。イザークとディアッカを部屋から見送った後、キラとも残りの仕事を片付けて、それぞれ宿舎へと戻ったのだった。