ヤマト隊結成から数日後、隊長、副長以外の隊員がヤマト隊に配属されることになった。艦はまだなくそれを与えられる成果もないので、しばらくは他の隊と共に任務につくことになる。大体ジュール隊とともにということは両隊とも承知していた。そのためヤマト隊の人数は少ない。今日はその、配属される隊員たちとの顔合わせであるが、これはまた二日ほど遡る。
「え?俺が、ヤマト隊に?」
シンは元ミネルバ、グラディス隊の副官、アーサー・トラインから告げられて、驚きの声を上げた。ヤマト隊の隊長が誰のことを言っているのか、シンはわかっていた。旧グラディス隊が待機を命じられている間、シンはオーブに戻っていた。ルナマリアやメイリン、アスランと慰霊碑を訪れていて、そこでキラとラクスに会い、アスランに彼がキラだと、フリーダムのパイロットだと紹介された。シンは戸惑いながら、だがキラの「何度吹き飛ばされても、何度でも花を植える」という言葉に感銘を受け、一緒に戦ってくれるかという言葉に頷き、涙したのだという。あれは前触れだったのだろうか。いや、キラもシンもこうなるなど米粒ほども予想していなかった。シンは喜びを感じ、同時に案じることもあった。
「でも、そうしたらパイロット、ルナだけになるんじゃ・・・」
旧グラディス隊は副官であったアーサーを隊長とし、トライン隊を改められた。だが隊のパイロットはシンとルナマリアのみで、ここでシンが抜ければ彼女一人となってしまう。シンはそれは気がかりなのであった。
「そこに関しては問題ない。今年アカデミーを卒業した主席次席のふたりがウチにきてくれることになったんだ」
「そう、なんですか・・・」
「どうだ?シン、行ってくれるか?」
「俺は・・・」
確かに、キラとともに戦いたい思いはある。だが、とルナマリアを見ると、彼女はそれを感じ取ったかのように笑った。
「行きなさいよ、シン」
「えっ」
「あたしのこと気にしてるなら、行きなさい。あたしなら大丈夫だから」
「ルナ・・・」
ルナマリアに背を押され、シンは決意して頷いた。
は頭を抱えていた。キラが、時間になっても部屋に来ないのである。まさか迷子になっているのではないか。そう思って連絡をとってみれば、ビンゴだった。確かにプラントに来てひと月も経っていないが、こんなときに迷子にならなくてもいいだろうと、は走り書きで開始が遅くなって申し訳ないが、待機しておくように≠ニデスクにメモを残し、キラ捜索へと走った。
キラの首根っこを掴み息を弾ませながら部屋へ入ると、隊員たちがぎょっとした顔で彼らを見た。一人はおそらく、違う意味も込もっている。キラをデスク前にたたせ、自分はその傍に控える。はー・・・と大きく息を吐いて、彼らを見据えた。
「遅くなってごめんなさい。ちょっと隊長がとんちんかんなことをしでかしてくれたので探しに行っていました」
「探しに・・・?」
「だって、ここわかりずらいし」
「言い訳無用」
え、迷子?と誰かが呟いた。こほんと咳払いをし、はキラに目配せをした。
「え、っと・・・。今日からきみたちの上官になります、キラ・ヤマトです。もしかしたらすでにきいているかもしれないけど、僕は元々軍人じゃなくて、ザフトのこともよくわかりません。軍事もザフトのこともプラントのことも、勉強中です」
キラの爆弾発言に驚く素振りを見せたものはいなかった。みなそういったことを噂ないし上官や教員からきいてきているからだ。
「でも、また戦争を起こさせないために尽くしていくつもりです。だから、僕に力を貸してください。よろしくお願いします」
言って笑みを浮かべたキラに、彼らが敬礼をする。この様子ならきっと大丈夫そうだと安堵し、次はが口を開いた。
「副官を努めます、・です。私のこともおそらくきいているとは思いますので、省略します。プラントのために、地球のために、この宇宙のために、尽力をつくしましょう」
再び敬礼がなされる。満足そうに頷き、はキラに主導を返した。
「それじゃ、一言自己紹介してもらおうかな。シンから」
「え、俺から?で、ありますか・・・」
シンの微妙な敬語はなおっていないらくし、は苦笑を浮かべた。えっと、と口にし、シンが自己紹介をはじめる。
「元ミネルバ所属、シン・アスカです。いまは専用機はないけど、どんな機体だって乗りこなして、精一杯戦います!」
デスティニーは先の戦いでひどく損傷したが、直されることはなかった。シンもまた1からのスタートである。次、とシンの隣に目をやる。グレーのセミロングの髪をひとつに束ねた、大人しそうな少年で、纏う軍服は、やシンと同じ赤。
「トウマ・レイゼンです。今年アカデミーを卒業しましたので実績はありませんが、精一杯務めさせていただきます。得意な機体はジンです」
「え、ジンなの?今時珍しいわね」
ジン好きのが思わず反応する。好きではあるが今は新型が次々と製造されて、ジンの活用はどんどん減ってきているのであった。
「はい、自分は機動力を生かした戦いを得手していますので。ザクやグフよりは、まだディンのほうが動かしやすいかと思います」
「ということは、僕たちの隊はスピード勝負、ってなりそうだね」
キラの言葉にが頷く。フリーダムは言わずもがなで、ワルキューレもパワーよりはスピード、シンも元々インパルスにデスティニーと、バランスがよくスピードもある機体に乗っていた。作戦を練る時は、スピード重視でいくといいかもしれない。
「それじゃ次は・・・」
「はい!」
元気よく声を上げたのは、前のふたりとは異なり整備兵の格好をした、濃紫の髪に青い目の少年。
「シズマ・グロウ、今年アカデミーを卒業しました!頭はそんなによくありませんけど、手先の器用さは誰にも負けないと自信をもって言えます!機械いじりが大好きです!」
「それは頼もしいね」
キラに言われ、シズマは「ありがとうございます!」と声を上げて敬礼してみせた。そして最後の一人、キラよりも明るい茶髪に茶の瞳の彼も整備兵だ。
「ジェイス・コータリウスです。今年アカデミーを卒業しました。シズマとはよくコンビを組んで、彼の頭を補う体制でやっていました。同じく、機械いじりが大好きです、趣味です」
「へぇ、コンビなのね。その二人がそろってくれたのは、ありがたいものね」
に言われてシズマとジェイスが互いをみやり、「へへっ」と笑った。キラがひそかに「機械いじりが趣味だなんてアスランみたいだ」なんて思っていたことは、誰にもバレていない。
「二人で四人の機体をみてもらうことになるから大変でしょうけど、お願いね。私達もできる限り自分の機体の調整はするから。まぁ、隊長は被弾率低いからそうそうはないでしょうけど」
なんせストライクフリーダムは被弾率の低さから防御力を落としてスピードや攻撃を特化させたくらいだ。
「しばらくはこの六人でヤマト隊だから、みんな、よろしく」
「はい!」
六人の敬礼と四人の少年たちの声が重なった。これにて本格的に、ヤマト隊始動である。