乾いた音に怒りを乗せ
流れてくるニュースはどこれもこれも戦いのことばかり。なんかこうもっと気分の明るくなるニュースはないのかねぇというバルトフェルドの発言に対し、マリューが「水族館で、白イルカが赤ちゃんを産んだとか、そういう話?」と返して、は思わず「マリューさん可愛い・・・」と呟いた。
「しかし、何か変な感じだな」
カガリの言葉に、マリューらは会話をとめて彼女を見る。
「プラントとの戦闘の方はどうなっているんだ。入ってくるのは、連合の混乱のニュースばかりじゃないか」
「プラントはプラントで、ずっとこんな調子ですしね」
言ってラクスがチャンネルを変える、そこに映し出されたのは、以前が言っていた“ラクスの偽物”だった。とてもポップなその歌とライブは、とてもじゃないが“ラクス”と同じとは思えない。
「・・・こんなのラクスじゃない!」
「みなさん、元気で楽しそうですわ」
珍しく、ラクスから皮肉の言葉。これもなんとかしたいものだが、現時点それをする術が無い。本物のラクスが表舞台に出たら出たで、混乱を招いてまたラクスの身が危うくなるかもしれない。現在はスカンジナビア王国に匿ってもらい海底に潜んでいる。ずっとこうしているのもどうかと思うが、まだ“その時”ではないのだ。ユニウスセブンの落下により地球は強烈な被害を与えた。難癖つけて開戦した連合に対し、プラントのデュランダルは評議会も市民もおさえて、最小限の防衛でことを済ませている。連合の後ろにブルーコスモスがいるであろうことは明白だが、マリューはデュランダルのことを“どう見ても悪い人ではない”と評した。だがそれに、「そこだけきけば」と付け加える。そう、デュランダルは表面はいいのだ。裏の顔は、らが実際に受けている。ラクスの暗殺と偽物のラクスの件で、マリューらもデュランダルへの疑念を覚えるほかなかった。
「なんだか、ユーラシア西側のような状況を見てると、どうしても、ザフトに味方して、地球軍を撃ちたくなっちゃうけど・・・」
「お前らはまだ反対なんだろう?それには」
問いを向けられたのは、とキラの姉弟。
「・・・えぇ」
「私は常に反対」
は初めからデュランダルを信用していないし、キラもこの件で彼を信じることなどできなくなっていた。
「アスランが戻れば、プラントのことももう少しわかると思うんだが・・・」
「・・・アスラン、ねぇ」
「?」
カガリの言葉にが大きく息をはく。戻ればいいけど、と心の中で付け加えたのは、カガリに知れることはない。アスランの行方も、やキラの中ではほぼ確定となっていた。重い空気を打ち払うかのように、が「さて」と声を上げる。それに反応し、みなの視線がに集中する。
「ちょっと出てくる」
「・・・何処へ行く気だお前は」
バルトフェルドの目が細められる。はいたずらっ子のように笑ってみせた。
「ちょっと、ディオキアへ」
ディオキア。それは、地球におけるザフト軍の軍拠点のひとつである。
何も当てずっぽうでディオキアといったわけではない。ちょっとハッキングして得た情報なのだ。ミネルバがディオキアへ向かっていると。単に情報を仕入れに行くだけだ。
「、お前まさか、こんなことばかりやってるんじゃないだろうな?」
「プラントと地球の行き来のこと?まぁそこそこね」
「お前なぁ!正規のルート以外で行くなんて、不法入国だぞ!?」
「はいはいごめんなさいね」
「あっ、こら、誤魔化すな!」
カガリの頭をぐりぐり撫でて黙らせる。危険な行為だということなど百も承知だ。こんなことをやっているからこそ、は自分がカガリの姉だと公表していないのである。不意には、こちらを見てくるキラと目があった。少し、心配そうな瞳。
「大丈夫よ、キラ」
「・・・うん」
こちらの頭も撫でてやると、彼はおとなしくそれに従う。
「言っても止まらんだろうから止めんが・・・気をつけろよ」
「ん、ありがと、アンディ」
ある意味一番わかってくれているのはバルトフェルドかもしれないなと苦笑しながら、はワルキューレを発進させた。
潜入はお手の物、なんてのは自慢話にしていいのかわからないが、は人の目につかず探知されない岩陰に、ワルキューレを安置させた。ここは軍拠点で街中にザフト軍の軍服姿が溢れているが、一般人の姿もある。ちょっとだけ変装して平然としていれば問題はない。情報が得られそうな場所といえば、やはり人の集まる場所。軍人が泊まるホテルがいいかなと、はそちらへ移動した。そしてそこであるものを目にし、一気に頭が冷める。目が細められ、下がった熱が、ふつふつと沸騰し始める。だがここでそれを爆発させては潜入の意味が無い。大きく息を吐いて自分を落ち着かせ、“彼ら”を観察した。黒髪の少年と赤紫の髪の少女、オレンジの髪のフェイスの青年と、ピンクの髪のオヒメサマ、そして、紺の髪の、フェイスの青年。
「・・・よりにもよってフェイスって」
怒りと呆れと困惑が混ざって自分が今どんな気分なのかがわからない。二度目の大きなため息をついて顔を上げると、紺の髪の青年と目があった。
「やば」
思わずこぼした声。すでにピンクの髪のオヒメサマ―偽物のラクスの姿はなく、こちらを凝視しているアスランを、何事かと少年たちが見ていた。さすがに彼らにまで気づかれてはまずい、とは急いで踵を返して撤退した。
「っ、待て!」
待てと言われて待つわけがない。は全速力で、アスランから逃げるのだった。
ふたつの大きな息切れがその場で繰り返されていた。結局海岸沿いまで来てアスランに追いつめられてしまったのだった。息が整われてきた頃に、アスランが口を開いた。
「なんでお前がここにいるんだ、!?―っ!?」
答えの代わりに平手がアスランの頬を打つ。不意打ちをくらったアスランは困惑に目を瞬かせた。
「それはこっちの台詞よ大馬鹿者!!あんたなにやってんの!?フェイス!?ざけんじゃないわよ!!カガリがどんな思いしてたと思うの!?」
「・・・」
アスランは答えない。オーブでの花嫁拉致事件はすでに耳にしているだろう。ザフトに復隊し、その話をきいてなおフェイスでい続けるのはなぜなのか。
「・・・俺は、俺のやるべきことを、しようとしているだけだ」
「議長の言葉に踊らされて?」
「」
の目には怒りが込められているが、同時に冷めてすらいる。そんな目を今まであまり見たことがなくて、一瞬たじろいでしまった。
「はっきり、言わせてもらうわ。もうこの際だからあんたがどこでなにしてようがどうでもいい。ただひとつ・・・あんたにカガリを任せようとした私が馬鹿だった」
「な・・・」
「肝心なときにそばにいないで、カガリを泣かせて!あんたにカガリを任せるんじゃなかった!!」
言い放つと、は踵を返して歩いて行った。先ほどのように走っているわけではないのに、アスランにはを追いかけることができなかった。
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