白き翼が再び羽ばたく





















はザフトのチェックが厳しくならないうちにワルキューレに乗り込み、プラントを出た。ミネルバについていたときとは違い、一気に大気圏を降下する。ザフトと地球軍は、ついに開戦したとのことだった。オーブ上空に戻ってきたは、速やかにワルキューレを隠し場所へと格納した。降りてくるときに、確認できた。オーブ領域からちょうど出たあたりで戦闘が行われていた。地球軍艦隊と、ミネルバだ。そしてその後方にはオーブ艦隊。ミネルバが出港したのを見計らって地球軍が出てきて、オーブ軍はこっちに帰ってくるなと牽制している。オーブはいよいよ、大西洋連邦と手を組んだということだろうか。だからといってカガリが軍を出すことまでしないとは思うが。


(カガリ・・・)


いまの行政府員は大西洋連邦寄りが多いときく。カガリは押され、要求を飲み込んでしまったのかもしれない。こんなときにそばにいてやらないアスランに苛立ちを向けながら、は家に戻った。


「状況確認!」

「オーブは大西洋連邦と手を組むことになった。出港したミネルバを地球軍が迎撃して、オーブは背後を固めてる」

「カーペンタリアから指示が?」

「いや、地球軍が電波妨害してるからな。僕が助言してやった」

「そう・・・」


だが、少し遅かったというわけか。はやるせない思いを抱きながら、遠くで繰り広げられている戦闘の無事終結を祈った。


















前方の戦いは、ザフトの勝利で終わったようだ。ミネルバは無事、戦線を突破したとのことだ。インパルスが急に異様な動きを見せたらしい。彼もまた、種を持つものなのかもしれない。外に出ると、マリューとバルトフェルドがコーヒーを飲んでいた。


、お前も一杯どうだ?」

「えー・・・美味しいの?」

「私は昨日の方が好きだったわ」


昨日のコーヒーを飲んでいないから自分で比べようがないが、はバルトフェルドのカップを失敬して一口飲む。そして、なんとも言えぬ微妙な顔になった。


「・・・やっぱ自分で入れる」

「うーん、いつまでたっても好みのブレンドはうまくいかないな」


バルトフェルドは肩をすくめてからカップを受け取った。


「さて・・・いよいよ厳しくなってきたわけだ」

「・・・」

「僕たちコーディネイター組は引越しの準備をしたほうがよさそうだ」


オーブが大西洋連邦と手を組み、ザフト、プラントと戦う。中立国とはいえ、ナチュラルが、という思いが強くなれば、コーディネイターであるたちの身は危うくなる。マリューたちにも危害がいきかねない。


「プラントへ?」

「そこしかなくなっちまいそうだからな、このままだと。僕達コーディネイターの住める場所は」


そこでバルトフェルドは一度口ごもる。おや?珍しい、とは目をまたたかせ、バルトフェルドとマリューを見た。バルトフェルドの顔は、マリューに向いている。


「よければ、きみも一緒に」


口には出さないが、内心「わお」とでもいうような思いになった。この二年でアイシャを亡くした傷も癒えてきているということだろうか。プラントもプラントで、コーディネイターが、という思いが強い人間もいるが、デュランダルはナチュラルを追い出したりなどはしないだろうと、バルトフェルドは語った。マリューは間をおいたが、やがて口を開いた。彼女もまた、先の戦争で恋人を亡くしている。


「ただどこかで、静かに暮らして、死んでいければ、一番幸せなのにね」


これって私お邪魔じゃ、と今更気づき、はその場をあとにした。



















みなが寝静まった夜、はなんだか眠れずにいて夜空を見ていた。そして、不意にハロが騒ぎだしたことに気づき、部屋を出た。元軍人の性が出たのか、マリューとバルトフェルドも起きてきていた。何か、来る。銃を手にし、バルトフェルドらと合流した。


、お前はこっちを。きみは彼女と子供たちを頼む。シェルターへ!」

「了解」

「えぇ!」


マリューと別れ、バルトフェルドと廊下を駆ける。キラが部屋から出てきたので、状況を伝えた。


「はやく服を着ろ。嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクスたちを!」

「!はい!」


キラは急ぎ準備にかかり、たちはまた廊下を進んだ。窓から、複数の人影を確認する。武装した兵士だ。照準を合わせ、トリガーを引く。銃撃音が響き、やつらを撃ち抜いた。向こうも当然うちかえしてくるので当たらないように身を隠しながら応戦する。


「一体何人いるんだ!?」

「さぁね!」


銃を撃ち合いながら、シェルターの方へと移動する。やがてキラたちと合流し、みなシェルターに入り込む。そこへ、ひとつの火が彼女を狙う。


「ラクスー!!」


騒いだハロに反応してキラが敵に気づき、ラクスをかばった。すぐさまが敵の姿を視認し、仕留める。


「ラクス、キラ、怪我は!?」

「だ、大丈夫。ラクスは?」

「私も、大丈夫です」

「よかった、はやく中へ!」


二人を押し込み、やバルトフェルドらもシェルターの中に避難した。


「みんな、怪我はない?」

「大丈夫よ」


答えたのはカリダで、こどもたちにもマルキオにも怪我がないことを確認する。怖がらせてしまったので、それが傷にならないかだけが心配だ。


「・・・コーディネイターだわ」

「あぁ・・・それも素人じゃない。ちゃんと戦闘訓練を受けてる連中だ」

「ザフト軍!?ってことですか?」


キラの問いに、バルトフェルドは息を吐いた。


「コーディネイターの特殊部隊なんて・・・サイッテー」

「それは申し訳ない」


マリューの心からの吐き出しに、思わずが苦笑する。だがすぐに、険しい表情になった。


「最後のあいつ、明らかにラクスを狙ってた」

「あぁ・・・」

「でも、なんでラクスを・・・」

「・・・デュランダル議長だわ」

「え!?」


の言葉に、キラが目を丸くする。大きく息を吐き、「証拠はないけどね」とだけ言い、それ以上は語らなかった。そしてどれほどの時間が流れただろうか。もうすぐ夜明けとなるだろう。


「キラ、、バルトフェルド隊長、マリューさん」


こどもたちの方にいたラクスがこちらへ歩いてきた。


「狙われたのは、私なのですね?」


一瞬、言葉が詰まった。その時。急な地響きがシェルター内に響いた。


「まさか、MSまで出してきたの!?」

「狙われたというか、狙われてるな、まだ。くそっ」


急ぎ、さらに奥へ行く。シェルターは何重にもなっているが、これでは突破されるのも時間の問題かもしてない。


「・・・私が出る」


不意にが呟く。


「だが外に何が何機いるかわからんのに、一人放りだすわけにはいかん」

「でも、このままじゃ・・・!」

「ラクス」


バルトフェルドはから目を離し、ラクスへ向ける。


「鍵は持っているな?」

「!」

「扉を開ける。仕方なかろう」

「・・・」

「それとも、みんなここで、大人しく死んでやったほうがいいと思うか?」

「アンディ!」

「いえ、それは・・・」


ラクスが俯く。は自分だけでも出るというのだが、バルトフェルドは聞き入れてくれない。


「ラクス?」

「キラ・・・」


キラは何を言っているかわからないようだったが、すぐにはっと気づき、奥の扉を見た。この奥には、二年前におさめられた、あれがある。


「駄目、駄目よ!アンディ、私が出る、だから・・・!」

「お前は黙ってろ」

「アンディ!」


が必死に言うが、バルトフェルドは頑としている。続いてはキラに詰め寄った。


「キラ、駄目よ。あんたは、もう・・・!」

「ラクス、貸して。なら僕が、開けるから」

「キラ!」


悲痛な声は、キラに届いているのに届かない。


「お願いキラ、私はもう、あなたを戦わせたくないの・・・っ!」

「・・・ありがとう、。でも僕は、大丈夫。このままみんなを守れずに・・・そんなことになるほうが、ずっとつらい」

「・・・っ」

「キラ・・・!」


ラクスの切なげな声がキラを呼び、キラはそっとラクスを抱き寄せた。


「だから、鍵を貸して」


ラクスは決意し、ハロの中に隠していた鍵を出した。それを手に取り、キラとバルトフェルドがそれぞれ奥の扉の左右へ向かう。そのキラの隣にが立った。


「・・・私も出るから」

「・・・うん」


そしてバルトフェルドの合図で同時に鍵を回した。ロックが解除され、奥の扉が開く。暗い部屋に電気が入り、白と青の翼を持った機体が姿を現した。その隣には、のワルキューレがおさめられている。キラが、フリーダムへと歩みを進める。キラの背中を少しの間見つめたあと、もワルキューレへと乗り込んだ。



















ワルキューレを起動し、キラへ通信を繋げる。


「キラ、行ける?」

『うん、大丈夫。・・・まだ、怒ってる?』

「・・・怒っては、無い。自分が不甲斐ないだけ」

のせいじゃないよ。僕が、力があるのに何もしないのが、嫌なだけ』

「・・・そっくりね」

『うん、姉弟だからね』


キラの言い様に、は小さく笑みを浮かべた。そして、フリーダムとワルキューレが、空へと飛び立った。
“種”が割れ、二機が同時に動き出す。相手の数はそこそこ多いが、火力重視で機動力には欠ける機体のようだから問題無い。一気に攻めていき、その戦力を削った。朝日が差し始めた頃、全部の機体が戦闘不能になった。これでラクス暗殺について聞き出せるかと思ったとき、敵の機体が、すべて自爆した。


「・・・入念ですこと」


は朝日に晒された残骸を一瞥した。



















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