困惑の目撃と通じ合わぬ邂逅





















大西洋連邦は、プラントへ無茶苦茶な要求を行った。テログループはすでに全員死亡したことを了承したにも関わらず逮捕引渡しを言い渡してき、賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣・・・あまりにも無謀で信じられる要素のないものだった。それが全チャンネルで世界中に広がっている。プラントがこれを飲み込むことはないだろう。大西洋連邦もそれをわかっていて言っているのだ。このまま開戦に持ち込む気のように。は大きくため息をついてニュースを消した。どうしてこうも戦争をしたがるのだ。どうしてこうも、コーディネイターだナチュラルだと区切られねばならないのだ。


「・・・・・」

?」


キラがどうしたのかと首を傾げている。席を立って、キラを見た。


「プラントに行ってくる」

「え?」

「いまのプラントが気になるから」

「・・・」


キラの目が真っ直ぐを見ている。心配と切なさを混じえたその瞳を見返し、はキラを頭を撫でた。キラの肩でトリィが声を上げ、その頭も撫でてやる。


「また、潜入するの?」

「ワルキューレを持ってくとなると、仕方がないわね」


いざというとき身動きをとれやすくするためにはワルキューレは必要不可欠だ。しかし輸送艦となるとチェックも厳しい。だからいつもはワルキューレに搭乗し、ひそかにプラントの抜け穴から入り込んでいた。いわゆる不法入国なので、見つかればただではすまされないことである。


「大丈夫よ、すぐ戻るわ」

「・・・うん」


キラの返事をきくともう一度頭を撫で、は家を出た。



















ワルキューレをいつもの穴に隠し、はプラントへ潜入した。ひとまず家へと顔を出す。居場所がばらばらなはやはり心配させてしまうから、“母と弟”に元気な姿を見せないといけない。


!あぁ、よかった・・・」

「心配かけてごめんなさい」

「姉ちゃん、怪我ない?」

「えぇ、大丈夫よ」


しがみついてくる弟の頭を撫でてやる。そのままカルナに目をやった。


「ごめんけど、ゆっくりはしてられないの。用を済ませて、また地球へ戻らないと」

「そう・・・」


カルナは切なそうに目を細めたが、の気持ちを汲み取って笑みを浮かべる。ユイルをから離し、「いってらっしゃい」と見送った。




















街中でニュースが響き渡る。どうやた地球軍艦隊が進軍し、攻撃を開始したらしい。当然ながら、プラント、ザフトも迎え撃つしかない。


「・・・馬鹿共が・・・!」


は舌打ちした。しかしこれほどまでの戦乱の中、脱出するのも不可能というもの。今はこのプラントで、ザフト軍がプラントを守りきることを頼みにするしかない。はひとまずワルキューレに移動し、コックピット内で戦場の映像をハッキングし映し出す。ボルテールが見えて、イザークたちジュール隊も出ているのだとわかった。それからかつての親友が憧れていた、オレンジのグフイグナイテッド。彼はたしかフェイスだったはずだ。ザフトの多くの者がプラントを守る為に戦っていた。そしてはその映像内に、信じられないものを発見する。黄と赤のマーク、それは。


「核ミサイル・・・!?」


地球軍は本気だ。本当に、プラントを破壊しようとしている。前線は囮にしての、曲軌道への核ミサイル。イザークらが一斉にそちらを阻止しに向かった。


「お願い・・・!」


頼みにするしかないのが歯がゆい。はただただ見守った。やがて、地球軍の核は破壊されたが、それはイザークらによってではなかった。一隻のナスカ級に取り付けられた装備。それはすさまじいエネルギーで核ミサイルを破壊し、MSも消し去った。それはまるで、二年前と同じ。


「ジェネシス・・・?!」


小型ではあるが、それと同じ作用なのだと瞬時に把握した。そのエネルギーは核攻撃隊の後方にいた戦艦をも打ち払いきった。


「・・・ザフトもザフトで、またこんなものを・・・」


新型MSを作っている時点でこんなものがあってもおかしくはないが、それでもやるせない思いがの中で渦巻いた。




















核攻撃隊を全滅させられた地球軍は、月基地へ撤退していった。これでひとまず、プラントは救われたことになる。大きく息を吐き、はこみ上げてくるものを振るい落とした。気を取り直して、最後の用を済ませてしまおう。はワルキューレを降り、再び街へ歩き出した。
街中には先ほどの戦闘の情景が映し出されていた。これを見てプラントの人々は何を思うのか。再び開戦されるのか、という不安が溢れている。そんな街中を歩き、は信じられないものを目にした。


『皆さん、私は、ラクス・クラインです』


地球にいるはずのラクス。だが、何かが違う。誰だ、これは。は動揺しながら、モニターを凝視した。


『みなさん、どうか気を鎮めて、私の話をきいてください』


言い争っていた人々がモニターに注目している。彼女の演説を聞き入っている。


『今また、より良き道を模索しようとしている、みなさんの代表、最高評議会の、デュランダル議長を、どうか信じて』


まさか、と頭に浮かんだ。そして同時に歯をかみしめ、拳を握り締めた。どういう事かはわからないが、デュランダルがラクスの声を姿を利用したことだけは、よくよく理解できた。やっと落ち着いて生きられるようになっていた、ラクスを。


「これがラクス・・・?ざけんじゃないわよ・・・」


はモニターの中で歌い始めたラクスの幻影を睨みつけ、その内にはデュランダルへの敵意が増加していた。


















結局一夜をプラント内で明かしてしまった。あんな気持ちであの場所に行くことはできなかったからである。あくびをしながらワルキューレを出て、は今度こそ目的地へと向かった。街の外れの静かな場所にあるそこについたのは夕方だった。目的の名前を探し、しゃがみこむ。


「・・・久しぶり、ミゲル。なかなか来れなくてごめんね」


“ミゲル・アイマン”と書かれたその墓標に花を添え、目を閉じる。さて戻ろうかと立ち上がったとき風が吹いて、二年前に切ったときより伸びた髪が揺れた。ふと風上を見ると、みっつの影が、こちらを向いていた。


「・・・え?」


それは紛れもなく自分の知っている青年たちで、唖然とこちらを見ている。も目をぱちくりさせ、だがすぐにはっと我に返り、そこから退散しようと踵を返した。


「っ、待て!なぜ逃げる!?!」


ぴた、との身体が止まる。抗えなかった自分が悔しい。ゆっくり振り返ると、いつの間にか銀の髪を揺らしながら、イザークがの目の前までやってきていた。


「いや・・・なんか、反射的に?」

「俺にきくな!」

「けど、ほら、ちゃんと戻ったんだからいいじゃない」

「顔を合わせるなり逃げようとしたやつが言っても説得力に欠けるな」


イザークの言いように返す言葉がなく、は「あははー」と乾き笑いを漏らした。そして、イザークの後方から歩いてきたアスランとディアッカ、とくにアスランに目を向け、細めた。


「で?なんであんたがここにいるわけ?カガリはどうしたのよ。私の方はきかないように」

「自分は答えないのに人にはきくのか・・・。・・・いまオーブで俺がカガリにしてやれることは、無い」

「まぁ、行政府であーだこーだしてるのが目に見えてるものね。だからってプラントにきたっての?」

「プラントの状況を知りたかったんだ。お前だってそうだろう?」

「まぁね」


肩をすくめてみせると、アスランは続けた。


「それと俺は、議長と直接話をするために来た」

「・・・議長と?」

「あぁ・・・」


アスランの顔がよそをむく。あれこれ言いくるめられたのか、とは胸の奥底からこみ上げるものを抑えた。


、お前は一人で何をしている?」

「何、って?」

「一人でちょろちょろ動き回って何をしているのかときいている」

「・・・・・」


オーブに所属するでもなく、ザフトに戻るわけでもなくふらふらしていることを言っているのだろう。





イザークに名を呼ばれ、彼を見る。真っ直ぐを見つめる瞳から、逃げられない。


「前と同じことを言わせてもらう」

「・・・」

「ザフトに戻ってこい」


それは、二年前と同じ言葉。彼らがプラントに戻るときに言われた言葉だ。





もう一度、名を呼ばれる。は目を伏せ、息を吐き、吸い込んだ。真っ直ぐイザークの目を見返し、同じ言葉を言い放つ。


「私は、ザフトへは戻らない」

「・・・っなぜだ!?お前が言っていた、信じられないという要素は、もうないはずだろう!?地球に弟や仲間がいるのはわかっている。だが、プラントにだってお前の家族がいるだろうが!?」

「そう、私は地球もプラントも両方大切。でもね、イザーク」


その瞳は決意が揺らぐことないことを示して光っている。


「私のザフト、プラントへのゆらぎが、消えてるわけじゃないのよ」

「何・・・?一体、どういうことだ?」

「私がこの宇宙上で、現在最も信じられないものを教えてあげる。それは、ギルバート・デュランダル」

「な・・・」


信じられないものとして現議長の名を挙げられ、イザークもディアッカも、衝撃に言葉をなくした。ミネルバ艦内できいていたアスランもまた、眉をひそめる。


「だから私は、戻らない」

「デュランダル議長はこの事態をどうにかしようと必死に動いておられる!それのどこが・・・」

「あんたたちはあの人を知らない!」

「!?」


の突然の剣幕に、イザークは目を驚き半身ひいた。


「あの人は、表で綺麗事を言い、理想論を語り、尽力をつくしているように見せ、裏で何考えてるかわからないような人物なのよ!あの人は・・・!」

、一体何を・・・」


もはやイザークらには困惑しかなかった。なぜがここまでデュランダルに対し敵意を見せるのか、見当もつかなかった。その理由を語るわけもなく、は彼らに背を向ける。


!」


イザークが名を呼ぶが、その背中は今度は振り返らなかった。




















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