悲しみの墓標
ユニウスセブン残骸では、激しい戦闘が繰り広げられていた。ユニウスセブンを砕くためのメテオブレイカーを破壊されないように、それを抱えて逃げ回っているように見える。相手はジンを使っていて、ちょこまかと動きが素早い。そしてさらに、アーモリーワンで強奪された、カオス、ガイア、アビスの三機も出てきていた。シンたちが三機との戦闘に入る。そこへ、ジュール隊からと思わしき交信が入った。
『なぜお前がここにいる!?』
「あら久しぶりねイザーク」
『質問に答えろ!』
「怒りっぱやいのは相変わらずね。そんな状況ではないでしょう?」
『く・・・』
今は破砕作業を急がなくては。はジュール隊の援護を始めた。いくつかのメテオブレイカーは作動し、ユニウスセブンが割れるが、それでもまだ、大きい。
『だがまだまだだ。もっと細かく砕かないと!』
『アスラン!?』
アスランの発声に、ディアッカが声を上げる。ディアッカに届いていたということは、もちろんイザークにもきこえていたわけで。
『き、さま・・・といい貴様といい、こんなところで何をやっている!?』
『そんなことはどうでもいい!今は作業を急ぐんだ!』
『あ、あぁ!』
『わかっている!』
「ふふ」
こんなやりとりがなんだか懐かしくて、はつい笑みをこぼした。
『相変わらずだな、イザーク』
『貴様もだ!』
『やれやれ』
「この面子がそろってるんだもの、やれるわ。いや、やるのよ!」
作業自体はジュール隊らのパイロットに任せればいい。たちは撃ってくるジンたちの相手にまわった。二年経って三人の機体が以前と違っていても、四人の連携は衰えていなくては安心した。アビスたちもまだこちらをうってくることに変わりはなく、そちらの対処もする。
『イザーク!』
『うるさい!今は俺が隊長だ!命令するな!民間人がぁ!』
「こどもじゃないんだから・・・」
のツッコミは、おそらくイザークにはきこえていない。小さくディアッカの乾き笑いだけきこえてきた。アビスとカオスの相手を二人に任せ、はディアッカとともにメテオブレイカーの方についた。だがすぐに、ボギーワンから信号弾があげられ、ガイアら三機は撤退していった。突然の退艦に疑問が浮かぶが、すぐにはっとする。
「そうか、高度・・・!」
そしてボルテールの方にも帰艦信号が上げられた。と同時にテキストオンリーで通達がイザークのもとに入った。
『ミネルバが艦主砲を撃ちながら降下する!?』
「な・・・本気なの!?」
『どうやらそのようだ。悪いが俺達はここまでしかやれん』
「そうね・・・ザクでは大気圏突破は無謀だし、ナスカ級もおなじくだし」
『・・・』
いつの間にか通信がオンリーになっていることに気づいては苦笑した。
「何?」
『・・・せっかく会えたんだ。一度プラントに戻ってこい』
「・・・戻れればね」
『!』
「そうがならなくても、近々戻るわよ」
スピーカー越しの『必ずだぞ!』とのイザークの言葉で通信は終わった。ミネルバからも帰艦命令が入り、ルナマリアたちはミネルバへと帰艦していく。が、アスランがまだ、そこにいた。
『何をやってるんです!?帰艦命令が出たでしょう!通信も入ったはずだ!』
すかさずシンが寄ってアスランに通信を入れた。あの馬鹿は、ともそちらへ向かった。
『あぁ、わかっている。きみははやく戻れ』
『一緒に吹っ飛ばされますよ!いいんですか!?』
『ミネルバの艦主砲といっても、外からの攻撃では確実とは言えない。これだけでも・・・!』
アスランの言葉が終わると、インパルスがザクの元へ寄り、メテオブレイカーを支えた。
『なんであなたみたいな人が、オーブになんか・・・!』
「あーもう、馬鹿ばっか!」
二人を見ていられず、がそこへ加わった。
『?』
「アスラン、あんた今何に乗ってるかわかってる?ジャスティスじゃないのよ?ザクなのよ?大気圏突破なんて無理な機体でなにやってんのよこの大馬鹿!」
『大馬鹿っておまえ・・・』
「シン、インパルスは大気圏突破は?」
『やったことないけど、いけるはずです!』
「ならここは私たちに任せて、あんたはミネルバへ急ぎなさい!戻れなくなるわよ!」
『・・・・・』
アスランは沈黙したまま動こうとしない。
「アスラン!」
『なっ!?』
声を上げたのはシンだった。まだジンが残っていたらしく、攻撃をしかけてきたのだ。
『我が娘のこの墓標、落として焼かねば、世界は変わらぬ!』
ジンのパイロットの一人が声を上げる。
『娘?』
『何を・・・!』
『ここで無残に散った命の嘆き忘れ、撃った者らとなぜ偽りの世界で笑うか!?貴様らはぁ!!』
ユニウス・セブンを撃ったのはナチュラルだ。そのナチュラルと手をとりあい生きることを言っているのだろう。
『軟弱なクラインの後継者共に騙され、ザフトは変わってしまった!』
その言葉から、彼らが“パトリック・ザラ派”だったことを把握した。
『なぜ気づかぬかぁ!我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラがとった道こそが、唯一正しきものと!!』
「っ、アスラン!」
ジンと切り結んでいたザクが、一瞬の隙をつかれて腕を切られた。加勢しようとしたシンは、ほかのジンによりダメージを食らってしまう。自爆したジンの残骸がメテオブレイカーにあたり起動したが、ついに、大気圏に突入してしまった。
「やばい、落ちる」
まだあんなに大きいのに。インパルスは降下できると言っていた。ならザクを守らなくては。だがやつは、まだ諦めてはいなかった。
『我らの思い、今度こそナチュラルどもにいい!!』
ザクの足を掴み、そのまま大気圏へ引きずり下ろそうとする。ザクもジンも、単体での大気圏突破は不可能だ。
「アスラン!」
がワルキューレをはしらせようとしたそのとき、インパルスがジンの腕を切り落とし、ユニウスセブンへと蹴り落とした。引力に引きずられながら、必死にミネルバへ帰艦しようとしていた。
「シン、アスラン・・・!」
そしてそれは起きてしまった。インパルスの手から、ザクの手がすり抜けてしまったのだ。ザクは引力に引かれ、一気に落ちていく。インパルスもまた、引力には勝てなかった。
「アスラン!シン!」
インパルスは大気圏突破用に調整が終わったらしく、自力でとんでいて一息つく。やがて大気圏を突破し、今度は重力に引きずられる。広くなった視界でザクとインパルスを探すと、二機同時にみつけた。
「アスラン!シン!生きてる!?」
『・・・っ』
『大丈夫です!アスランさんは俺が助けましたから!』
「よかった・・・ありがとう、シン。アスランはあとで一発殴らせるように」
『えっ!?』
驚きの声を上げたのはシンで、殴らせろ発言を受けた本人は小さく息をついていた。やがて光弾信号が上がり、それがミネルバからのものだと認識し、機体を寄せた。
「よかった、さすがに二機抱えて陸に降りるのは厳しかったのよね。海面に激突しなくてすむわ」
が苦笑し、ザクを抱えたインパルスとワルキューレはミネルバに着艦した。
機体から降り、重力内になった床つかつかと蹴りながらアスランの元へ向かう。の顔を見たアスランの顔が引きつった。とても、いい笑顔である。そして、スパァンといい音がドッグに鳴り響いた。
「相変わらず無茶苦茶してくれたわねこの大馬鹿者」
「・・・無茶でに怒られたくはないな」
「何か言った?」
「なんでもない」
引っぱたかれた左頬をさすりながらアスランが言う。の後ろでは、シンが「ほんとに殴った・・・」と呟いていた。少しするとカガリが駆け込んできた。アスランの顔を見て安心と同時にぎょっとしたが、それがによるものだとわかるとなんとも言えぬ顔となった。各員は移動し、着水の衝撃に備える。しばらくの振動のあと、ミネルバは無事波に乗った。これでなんとか、地球降下完了である。
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