眠りを妨げるもの
休息をとっていたは、大事な話があるからと、カガリたちにあてがわれた部屋に呼ばれた。そして、衝撃的な事件が起きているときく。
「なんだって!?ユニウスセブンが動いてるって・・・一体何故!?」
ユニウスセブン、それは地球軍の核兵器によって喪われた農業プラント。アスランの母もそこで亡くなった。100年単位で安定軌道にあり動くはずのないそのユニウスセブンの大きな墓標が、動いているのだという。それもかなりのスピードで、地球へ向かって。あれがもし落ちたら、地球はかすり傷なんてものではすまない。それこそ、先のジェネシスレベルで危険なことだ。ミネルバはこのままユニウスセブンに向かうという。カガリたちをシャトルで送るのは先延ばしになるわけだ。そこでひとまず話は終わり、カガリたち三人は部屋を出た。
「ユニウスセブンが落ちたらひとたまりもない・・・どうしたらいいんだ・・・!」
「・・・ようは、落ちないようにすればいいのよ。けど、あんな質量のものの軌道を修正するのは容易じゃない。となれば、方法はただひとつ」
「あぁ・・・砕くしかない」
「えぇ!?」
カガリが驚きの声をあげてアスランを見た。
「・・・・・」
「本当に、それしか方法がないのよ、カガリ」
「けど、あそこにはまだ、多くの人の・・・」
そう、あそこにはまだ、多くの人の遺体や遺物が遺されている。だが、地球を救うためには、それしか方法がないのだ。
その後歩いていると、休憩室にたどりついた。そこではシンたちが今件のことについて話している。やはり彼らも砕くしかないと踏んでいるらしく、どうやって?などと話していた。
「でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ?不可抗力だろう」
整備士の一人がそんなことを言い始め、カガリが震える。
「変なごたごたもきれーになくなって、案外楽かも。俺達プラントには」
非常に軽率な言葉だ。カガリはそれに怒りをもち、休憩室の中へと乗り込んだ。
「カガリ!」
アスランが呼ぶがカガリは止まらない。この怒りっぱやいところは誰に似たのか。
「よくそんなことが言えるな!!お前たちは!!」
少年少女たちが一斉に立ち上がって敬礼する。シン以外。だが気にとめることなくカガリは続けた。
「しょうがないだと!?案外楽だと!?これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬ事になるか、ほんとにわかって言ってるのか!お前たちは!?」
「・・・すいません」
「やはりそういう考えなのか、おまえたちザフトは!?」
「カガリ」
がたしなめるように呼ぶが、ヒートアップしたカガリは止まらない。
「あれだけの戦争をして、あれだけの思いをして、やっとデュランダル議長の市政のもとで、変わったんじゃなかったのか!?」
「よせよ、カガリ」
アスランがカガリの手をひいて止め、やっとカガリもストップした。はぁ、とため息をついて、は彼らの様子を伺う。すると、そっぽを向いていたシンが口を開いた。
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも。そんくらいのこともわかんないのかよ、あんたは」
「なんだと!?」
「カガリ」
「シン、言葉に気をつけろ」
「・・・」
レイにたしなめられ、シンはまた皮肉口調で言い放った。
「あぁ、そうでしたね。この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんねぇ」
「お前・・・!」
「いい加減にしろ、カガリ!」
皮肉に負けて食ってかかろうとするカガリをアスランが止める。どうにもカガリとシンは相性が悪いというか、どちらも沸点が低いというか。シンの場合は、もしかしたら何かあったのかもしれない。カガリを落ち着かせて、アスランが踏み出した。
「きみは、オーブがだいぶ嫌いなようだが、なぜなんだ?昔はオーブにいたという話だが。くだらない理由で関係ない代表にまで突っかるというのなら、ただではおかないぞ」
アスランが睨みをきかせると、シンも黙ってはいなかった。
「くだらない・・・?くだらないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!」
言いながら、シンがつかつかと歩み寄ってくる。
「俺の家族は、アスハに殺されたんだ!!」
「!」
衝撃的な言葉に、アスランもカガリも息をのんだ。
「国を信じて、あんたたちの理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、オノゴロで殺された!!」
カガリを睨みつける目には、涙が浮かんでいた。シンがオーブを出てザフトに入った理由がわかった気がして、は目を細めた。
「だから俺は、あんたたちを信じない!オーブなんて国も信じない!そんなあんたたちの言う綺麗事を信じない!!」
避難勧告は出ていたが、もしかしたら遅れてしまっていたのかもしれない。それで戦闘が開始され、巻き込まれた。
「この国の正義を貫くって・・・あんたたちだってあのとき、自分たちのその言葉で、誰が死ぬ事になるのか考えたのかよ!?」
カガリにとっては衝撃的すぎる言葉だろう。父が信じ、みなが信じて戦ったものを、選んだ未来を、全否定されているのだから。
「何もわかってないようなやつが、わかったようなこと言わないでほしいね」
そしてシンは休憩室を出て行った。シンの言い分も、間違いではない。理想を唱える以上、それに反するものもいる。それは当然のことなのだから。カガリは今までそれを直接受けてこなかった。だからこその衝撃だった。
シンの発言から、カガリはすっかり気を落としてしまった。カガリはアスランに任せ、はブリッジで今後の作戦についてきいていた。すでにザフト艦、ボルテールとルソーがメテオブレイカーを持って先行しているらしい。ミネルバもそれに続くとのことだ。
「ボルテールって、確か・・・」
「ジュール隊の艦だ。そういえばジュール隊長は君の後輩ではなかったかね?」
「・・・えぇ」
よくもまあご存知ですこと、とは息をついた。イザークたちがいるのなら、きっと作業もそうごたごたすることはないだろう。これが自然的なものであれば、の話だが。
「この艦のパイロットは、シン、レイ、ルナマリアの三人でしたね」
「えぇ、そうよ」
「なら、私も出ます。人手は多い方がいいでしょう?」
「助かるわ」
では出撃準備に、と踵を返そうとしたとき、アスランがブリッジに飛び込んできた。
「どうしたのかね?アスラン。いや、アレックスのほうがいいかな?」
「・・・無理を承知でお願いいたします」
デュランダルの問いには答えず、アスランが口を開く。まさか、とは眉をひそめた。
「私にも、MSをおかしください」
「アスラン・・・!」
咄嗟にアスランの腕を掴む。だが、アスランは揺るがなかった。そこへタリアが否を唱える。
「たしかに無茶な話ね。今は他国の民間人のあなたに、そんな許可が出せると思って?カナーバ前議長のせっかくの計らいを、無駄にでもしたいの?」
内心ほっと、が息をつく。アスランの亡命はカナーバに黙認されたようなものだ。パトリック・ザラの息子がザフトに、プラントに残っては混乱が残るだろうからと。も亡命者であるが出ることを許可されたのは、自分の機体があるからだ。それでもアスランは、ひかなかった。
「わかっています。それでもこの状況を、ただ見ていることなどできません。使える機体があるなら、どうか」
そう言い切ってアスランが頭を下げる。本当にこいつは馬鹿正直で正義感真っ直ぐで馬鹿なんだから、とは内心舌打ちした。
「気持ちはわかるけど・・・」
「いいだろう、私が許可しよう」
「!?」
タリアがくだそうとした言葉を、デュランダルが断ち切る。議長権限などと振りかざしてきて、は奥歯を噛み締めた。
(それほどまでに、アスランをMSに乗せたいか・・・!!)
これではもうひっくり返すことはできないだろう。は「私は先に行きます」とブリッジを出た。
ワルキューレに乗り込み発進準備をしていると、急な通信が入った。
『発進停止!状況変化。ユニウスセブンにて、ジュール隊がアンノーンと交戦中!』
「なんですって!?」
やはりこれは人為的なものか、とは苛立ちを隠せなかった。
『各体、対MS戦闘用に、装備を変更してください』
そしてさらに、ボギーワンの姿が確認されたという。アンノーンのMSたちとボギーワン、両方を相手にしろというのか。だが任務がジュール隊の支援であることに変わりはない。すぐさま装備を整え、各機発進となった。
『シン・アスカ、コアスブレンダー、行きます!』
『レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!』
『ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!』
『アスラン・ザラ、出る!』
アスラン・ザラ。そう言ったアスランの声をきき、は目を細めた。もう、アスランに戦闘をさせたくなかったのに。
『進路クリアー、どうぞ!』
「・、ワルキューレ、出撃する!」
ミネルバから、いつつの機体が
宇宙へ飛び出した。
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