かの者の亡霊、ヒカリと共に
ジェネシスは地球をも狙える。このままではオーブが危ない。はやくあれをおとさなければ。だがデスティニーもレジェンドも、他にも多く出てきたMSも、彼らの行く手を阻む。
『アークエンジェルは行ってください!アスランも』
「キラ?」
そこへキラの言葉が流れ込む。
『ジャスティスならシールドを突破できる。この要塞は僕たちで抑えるから!』
『でも、それではエターナルを・・・っ』
『この艦よりオーブです』
マリューの戸惑いに、ラクスが凛と声を放つ。オーブはデスティニープランに対する最後の砦、失えば世界は飲み込まれてしまう。
『絶対に、守らなくてはなりません。私たちは、そのためにここにいるのです』
「そうね、エターナルは任せて行って!」
『さん・・・』
「アークエンジェルを頼むわよ、アスラン、ムウさん」
『・・・あぁ!』
『あぁ、今度こそ、一緒に帰るんだからな!』
え、とは直視できないにも関わらずアカツキの方を向いた。まさか、記憶が戻ったのだろうか。の口元に笑みが浮かべる。これは本当に、みんなで生きて帰らなくては。アークエンジェルとジャスティス、アカツキが航路をかえると、レジェンドが向かってきた。キラとの頭にピリとはしる。
「レイ・・・っ」
そこへデスティニーもきて、フリーダムとデスティニー、レジェンドが対峙した。だがすぐにデスティニーは進路をかえる。アークエンジェルの方へ向かったのだろう。追いたいが、ここはアスランに任せるしかない。
「キラ、気をつけて!その子は・・・っ」
『・・・っ』
キラも感じ取ったようだ。その気配を、その怒りを。
フリーダムのドラグーンとレジェンドのドラグーンが飛び交い撃ち合う。
『誰なんだ、君は・・・誰なんだ!?』
『わかるだろう?お前には・・・俺は・・・ラウ・ル・クルーゼだ!』
ああ、やはり。は自分が哀しみに暮れるのがわかった。
「レイ・・・あなたはやっぱり、クルーゼ隊長の亡霊となってしまったのね・・・」
世界を憎まないで。その言葉は届かなかった。
「キラ!キラしっかりして!」
『っ』
「あれはクルーゼ隊長じゃない!レイ、やめて!」
声は届かず、レイは攻撃することをやめない。キラも戸惑いと困惑を抑えきれなかった。だが、キラは言った。違う、と。
『命は、なんにだってひとつだ!だからその命は君だ!彼じゃない!』
初めてレイが、戸惑いを見せた。そしてその隙を逃さずキラが撃ち込む。レジェンドは中波し、ロストした。
「レイ・・・」
の願いは届かず、レイはクルーゼの亡霊と化してしまった。だが、キラの言葉で戸惑いを見せた彼は、決してクルーゼとはちがうもの。
「キラ、大丈夫?」
『うん・・・彼、は・・・』
「・・・同じ、よ。クルーゼ隊長と、同じ・・・」
『・・・そう』
キラはそれだけ言ってフリーダムをとばした。もあとを追い、エターナルの護衛へと戻る。
『ラクス、ミーティアを!要塞を討つ、エターナルは下がって!』
フリーダムが再びミーティアを装填してメサイアにはしった。そこへ、イザークの声が響き渡る。
『エターナル!』
「イザーク?」
『イザーク・ジュール?』
バルトフェルドも突然のイザークに声を上げた。
『メサイアが撃ってくるぞ!射線上の連中を下がらせろ!はやく!』
「なんですって!?ラクス!!」
そしてジェネシスは再び放たれた。逃げ遅れた多くの味方をも巻き込んで。多くの命が再び消し去られた。
「なんてこと・・・味方に通達をしておきながら、回避する時間すら与えないというの!?」
ガンっとコックピットを殴りつけ、は歯を噛み締める。
「次はレクイエムが発射される!そうなればオーブが・・・っ!」
今はオーブでこちらを見守ってくれているカガリの顔が思い浮かぶ。させてはならない、そんなことは、させてはならない。
ジャスティスとアカツキがレクイエムのシールドを突破し、駆ける。その発射口に撃ち込み、レクイエムの発射は、免れた。
「やった・・・アスラン・・・ムウさん・・・っ」
まだ戦闘は終わっていないというのに、安心感で涙が浮かびそうになる。
『、まだ終わっていないぞ!』
「っ、わかってる!」
見透かされたようにイザークから激励がかかり、気を引き締めなおす。フリーダムがミーティアでメサイアの外輪をおとし、エターナルとともに一斉射撃が行われる。もワルキューレで応戦し、メサイアを破壊していく。フリーダムが内部に侵入していき、そのあとをジャスティスが追う。中には、デュランダルがいる。
「キラ・・・」
『信じてやれ。・・・弟だろ』
「・・・うん」
メサイアをみやり、はキラをおもった。
いつの間にか戦闘は止まっていて、爆発し、崩れていくメサイアをみんなが見つめていた。フリーダムとジャスティスが飛び出してきたことで、戦いが終わったことを、把握する。人々は、明日を掴む世界を守り抜いたのだ。
「・・・キラ」
『・・・彼が、議長を撃ったんだ。僕の、明日が、ある、って』
「レイが・・・」
最後の最後に、レイは、これは間違っていると、ひとりひとり、明日のある未来があったほうがいいと、わかったのだろう。だからデュランダルを止めるために撃った。最後の最後で、クルーゼの悪夢を振り払い、レイは救われたのだった。戦いは終わった。激しく火花が飛び交っていた戦場には残骸が漂い、とても静かだった。だがこれで終わりではない。大変なのはこれからだ。ラクスの停戦の申し入れをザフトは受け入れ、各戦艦から次々と戦闘終了の信号弾が放たれた。それはまるで夜空を流れる星々のようで、闇にそまりかけた世界を照らすようで、勝手に涙が溢れ出た。
『』
「イザーク・・・」
『俺はまだ、言い続けるからな』
何を、なんてきかなくてもわかっている。
『お前がデュランダル議長を疑心していたこと、いまならわかる。遅いと言われても仕方がないが。だがこれで、お前の案ずることは、本当に、無くなったはずだ』
そう、もうあの研究に携わっていた人間はいないはずだ。の疑心する相手は、もういないはずで、だからプラントに、ザフトに戻ることも、可能なはずで。
「・・・私は」
『』
口を開こうとしたにイザークが言う。
『俺は、何度だって言う。プラントに戻ってこいと。・・・俺のそばに、来いと』
「イザー、ク・・・」
『・・・もどかしいな、近くにいるというのに』
言って小さく笑う顔は、いつの間にそんなに大人になったのだろうという表情で、は嬉しく、切なかった。
『返事はすぐにはきかん。だが、すぐに迎えに行く。逃げるなと言ったのは、覚えているな』
「・・・ん」
『ゆっくり話したい。きちんと、お前の顔を、お前の目を見て』
言い残し、通信が切れた。これからはイザークも忙しくなるだろう。は消化しきれていないおもいとイザークへの想いの渦巻く胸を、首から下げたお守り袋とともに握り締めた。
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