歯車が徐々に噛み合う





















戦闘配備が解除されたらしく、外から声をかけられた。ハッチをあけるとそこにはパイロットスーツを着た少年がいた。


「あなたが・・・?」

「そうだけど・・・君は?」

「あ、えと、シン・アスカ、です。インパルスのパイロットの」

「・・・あの新型は、インパルスというのね」


つ、と目を向けるのは、フェイズシフト装甲を落として灰色になった新型MS。はぁ、と息をついて、は再びシンに顔を戻した。


「それで?私の乗艦許可のほうはどうなったのかしら?」

「はぁ・・・一度ブリッジへ、とのことでした」

「・・・適当ねぇ・・・押し掛けだからいいけど。地図ある?自力で行くわ」

「えっ、でも・・・」


さすがに一人で歩かせるわけには、というか機密ものの地図なんて渡せるわけがない。シンは焦ったが、ブリッジに確認をとると構わないとの答えで、は簡易地図をもらってMSデッキをあとにした。


















中の構造もアークエンジェルと似通ったところがあるようだが、さすがにもらった地図には機密なところまでは載っていない。配属外の赤いパイロットスーツのままで目立ってしまい申し訳ないが、このまま歩かせてもらう。さてブリッジは、と顔を上げようとしたら、ピリッと頭に痛みがはしった。なぜ、ここで。は思いながら顔を上げ、目を見開いた。


「な・・・」


顔つきは幼い、だが、確かによく、似ている。もしや連合のパイロットではなく彼だったのか、と思いながら、その後ろに、ここにあるはずのない顔があってさらに動揺した。


「カガリ!?」

!?」


すぐさま駆け寄り、その肩を掴む。なぜここに、その傷は!?と詰めよると返ってくるのはどもり声ばかりで、はカガリの一歩後ろを歩いていた彼の胸ぐらを掴んだ。


「あんたがついていながら・・・!」

「ちょっ、、私は大丈夫だから!」

「怪我をさせる時点で許せないと言ってるの」

!」

「その辺にしておいてあげてはくれないか。彼も姫を守るのに必死で戦ったようなのでね」

「・・・・・」


背後からもうひとつの声。は自分で高揚が一気におちるのがわかった。胸ぐらを掴まれた本人もその変わりように驚くくらいに。


「・・・その程度では困るのですよ、デュランダル議長」

「代表の護衛ともなると、ハードルが高いわけか」

・・・?議長と、お知り合いなのか・・・?」


とギルバート・デュランダル議長を交互に見るカガリに、小さく苦笑する。ちょっと、ね、とだけ返し、デュランダルに失礼しましたと一礼した。


「ところでなぜきみがここに?」

「・・・先の戦闘にて私とシンを助力くださり、こちらへの乗艦をすすめました。事態が落ち着くまでは待機していただいており、報告が遅くなりました」


説明したのはレイだった。


「正式な乗艦をいただきに、これからブリッジへ」

「そうか、邪魔してすまなかったね」

「・・・いえ、荒げたのは自分ですので」


では、と一礼して、は再び歩を進めた。カガリたちが乗っている理由をきけなかったが、おそらくとそう変わらないだろう。そもそもなぜアーモリーワンに、という点は、非公式の面会なら知らなくても無理はない、で片づく。


「・・・また」


こんなことに巻き込んでしまうのか。こんな戦いにでるのは、自分だけでいいというのに。唇をかみしめたい気持ちを負いながら、はミネルバのブリッジへと入室した。




















ミネルバの艦長、タリア・グラディスに正式に乗艦許可をもらったは、ひとまず士官室に通されることとなった。だがブリッジを出る直前に、ボギーワンと名称づけた先ほどの戦艦を発見、さらにデュランダルがカガリたちをつれてブリッジへとやってきた。彼はカガリたちもここで戦闘を見ていただくようにとタリアに提案し、さらにまでもここにいることとなった。はパイロットだ、ブリッジでの戦闘なんて数えるほどしかない。妙な違和感を抱きながら、戦闘開始を見守った。


「ボギーワンか・・・本当の名前なんというのだろうねぇ、あの艦は」

「え?」


突然のデュランダルの発言に困惑する。クルーゼ隊がアークエンジェルを足付きと呼んでいたのと同じ感覚だとは思うが、なぜ、いま。


「それが偽りだとしたら、それは、その存在そのものも偽り・・・ということになるのかな。アレックス・・・いや、アスラン・ザラくん」


空気が震えた。デュランダルはなにを考えているのだろうか。今この場でアスランの正体を明かす意味が、どこにあるのだろうか。その意図が読めず、は目を細めた。本当のアスランと話がしたい。それはいったいどういうことか。そんなことを言っているうちに、出撃したインパルスと、ミネルバもう一人のパイロット、ルナマリアのザクウォーリアが戦闘に入った。相手はカオス、ガイア、アビス。待ち伏せされていたということだが、感知できなかったのは。


「磁場の乱れを利用したのね・・・」


ボギーワンもロストしており、そちらも同じ理由だろう。発見したときには距離は500となっていた。相手の指揮官は相当やり手のようだ。それにかわってこちらは新型戦艦、新隊で戦闘経験の少ない者ばかり。無意識に、ち、と小さく舌打ちをもらした。ちらとアスランを見てみれば、やはり彼もどこかやきもきした面もちだ。


(議長はこれを利用しようとしてるんじゃ・・・)


アスランはまっすぐで馬鹿正直だから、言いくるめられたら終わりだろう。


(あぁもういろいろ面倒なことばかり!)


とにかく今はこの状況だ。発進進路もとれず、レイを援護に出撃させることすらできない。こんどは多数のミサイルがとんできた。だがなにかおかしい。


「これは!」

「直撃コースじゃない!艦を小惑星からはなしてください!」

「えっ」

「押しつぶされたいの!?ッ!」


言っているうちに、ミサイルが小惑星にぶつかっていく。砕かれた岩がミネルバに降り注いだ。進路を塞がれ、ミネルバは身動きがとれない状態となる。MA接近の通達があり、ガンバレル搭載のアイツか、とは即座に判断して舌打ちした。タリアがレイに出撃命令を出したが、それでおさまるわけもなく。そこへ、デュランダルの一言がとんだ。


「この艦にほかにMSはないのかね!?」

「パイロットがいません!」

「!」


言葉はタリアに一蹴されたが、アスランの胸をうつにはじゅうぶんだった。これがねらいか、とは内心で舌打ちする。アスランはあれ以来、先ほどのやむを得なかった搭乗以外、MSに乗っていない。できることなら、もう乗せたくはない。だが彼には“力”がある。MSはある、それを扱う力が自分にはある。アスランの葛藤は、アスランにしか動かせなかった。


「私が出るわ」

「!」

、きみがかね?」


思惑がずれたことに、デュランダルの声色は若干揺らいでいる。そんな彼を一瞥し、はタリアに顔を向けた。


「私にはワルキューレがあります。機動力もザクより高い」

「そうか・・・一機で大丈夫かね?」


まだ、アスランを出させることを諦めていないのか。は自然と拳が強まるのを感じた。スッ、と息を吸い、静かに吐き、また吸い込んだ。


「お言葉ですが、議長」


ぴりっとした声に、カガリもアスランも、に注目した。


「私が今この世でもっとも信じられない人物はあなたであることを、お忘れなきよう」

「・・・」

「なっ・・・、なにを!?」


驚き慌てるカガリを流し、はブリッジをあとにした。



















さん、きこえる?』

「きこえるわ」


発進準備中、ブリッジのタリアから通信が入って応答する。


『右舷側の火砲を小惑星に同時射撃して艦体を押し出します。あなたも射撃に参加してもらえる?』

「・・・よくそんなの思いついたわね」


あのちぐはぐな面子で。


『これは、アスランの提案よ』

「・・・」


なるほど、そういう方向に行ったわけだ。は小さく息をついた。


「了解。出てすぐ右舷にまわるわ」


ワルキューレを機動させて、カタパルトの先へ行く。そしてその黄の機体は、宇宙へと飛び出した。


















ミネルバの上にちゃっかんし、マルチロックの準備に入る。


さん、いける!?』

「OK!」

『――てぇー!!』


ミネルバとワルキューレが、一斉に射撃した。大きな爆発が起き、ミネルバが爆風で岩の網から解放される。ミネルバはそのまま、接近してきていたボギーワンにタンホイザーの照準をあわせた。タンホイザーはボギーワンの側面をかすめ、艦体に被害を与える。ボギーワンは戦闘機たちにきかんしんごうを送り、そのまま戦線離脱していった。





















ミネルバは膨大な被害を被った。ボギーワンを追うのはひとまず諦め、現在は修復作業中である。カガリとアスランはシャトルをこちらへまわしてもらい、ミネルバから離れることになるという。もそのタイミングでミネルバを離れようと思っているが、カガリらと顔を合わせてはいなかった。いま会うといろいろなことを思いそうで、アスランに余計なことを言いそうで。ひとり、人気のない通路脇に膝を抱え込んで座っていた。だがしかし、頭にピリッと痛みがはしって目を開ける。


「こんなところにおひとりですか?」

「・・・レイ」


よくよくきいてみれば、声も似ているような気がする。そう思いながらは顔を上げて彼を見た。


「レイ、あなたも“メンデル”の遺物なの?」

「・・・・・はい」


レイは驚きと戸惑いに目を見開いた後、意外にも素直に頷いた。頭を走る感覚が誰との間におきているか確定し、は大きく息をはいた。


「そう・・・あの人のほかにもいたなんてね・・・。レイ、あなたは自分がソレとしりながら、なぜ議長のそばにいるの?」

「議長は・・・ギルは俺を救ってくださいました」

「救う、ねぇ・・・利用されるとわかっていても、救ったと言うの?」

「はい。なにもわからず一人で苦しんでいた俺を救ってくださったのは、ギルと、ラウです」

「・・・・・」


どうやら本心のようだ。デュランダルを憎むことなく、一心に彼の期待に応えようとしている。


「・・・わかった、あなたの思いがそれなら、私は何も言わないわ。でも、これだけは言わせて」


一拍おいて、はレイを見据えた。


「デュランダル議長を憎んでいないというのなら、あなたが生まれたこの“世界”も憎まないで。あの人に、とりつかれないで」

「・・・」


レイからの返事はなかった。サッと敬礼し、レイはに背を向けて歩いていった。その背を見つめ、はまた大きく息をはくのであった。




















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