偽りの歌声は彼の地にてしずかにその役目を終えた






















市内のショッピングモールで買い物をするラクスとメイリンの姿を数m離れた場所で見守るキラとアスランは、買い物を待たされている彼氏か、はたまたボディーガードかのように見えた。


「一人は明らかに怪しいし・・・」

「・・・なんだよ」


じと、と見ればムッとした顔が返ってきたのでなんでもないと返す。そのサングラスはなんとかならないのかと言いたいのである。


はいいの?」

「え?うーん、今買ってもどうしようもないしね。ピアスはちょっと見たい気するけど・・・」

「見てくれば?大丈夫だよ」

「ある意味、そばにいてくれたほうが安心するしな」

「・・・そうね、じゃあ、そうする」


キラとアスランに言われ、も女子ふたりの買い物に加わった。あれが似合う、これが似合うといいながら。アスランが怒っているように見えるが、きっと呆れているのだろう。ラクスを連れ出すという行動に。だがさすがにこのタイミングでラクスに襲いかかるということはしないだろう。とくにここは中立のコペルニクスなのだから。


「アスラン?」

「今・・・」

『ハロー!ハロー!エクスキューズミー!』


アスランが何かを見ていたところに、妙な機械音が近寄ってきた。丸型のそれはラクスのハロと同型で、真っ赤な色をしている。そのハロはぴょんとラクスの手の内におさまった。


「これ、ミーアの・・・!」

「ミーアって、偽のラクス?」

「あぁ」


近くにいるということだろうか。赤いハロは何かメモを咥えていて、ラクスがそれを読む。


「助けて、殺される、ラクス様」

「え!?」


一同がシン、とする。そこで口を開いたのは意外にもメイリンだった。


「なんか・・・思いっきり罠ですね」

「そうね・・・」


逆に呆れてしまう。だが、ほうっておくこともできない。それも見越して誘われているのだ。


「キラ、、ラクスを守ってすぐに艦に戻れ。メイリンも」

「え?」

「あぁいや、応援を呼ぶ」

「はいはい落ち着きなさいよアスラン」

「何を・・・っ!?」


ひとりで勝手に混乱しながら慌てながら連絡しようとしはじめるアスランからそれを取り上げる。


「アスラン、私も参りますわ」

「は?」


今の「は?」は本気で素で出た声だなとは若干面白がっていた。しかしさすがにラクス本人が行くのはいささか危険な気もする。だが、ラクスは折れなかった。


「この方が呼んでいるのは、私です」

「だが・・・!」

「どこかでいずれ、ちゃんとしなければならないことですから。ね、キラ?」

「・・・」


キラもさすがにと思っているらしく、思案した。


「キラ!」

「私はお会いしたいですわ、彼女に」

「えぇ!?」


驚きの声を上げたのはアスランとメイリンだった。そうだ、ラクスはこういう子なのだ。ふたりとは反対に、キラとは笑みを浮かべていた。


「わかった、じゃあともかく、艦には連絡して」

「なっ、お前・・・!?」

「大丈夫だよ、アスラン。罠だってわかってるんだし、みんないるし。ね」

「〜〜〜〜っ!」


キラの言葉にアスランが頭を抱える。あまり見ないアスランの姿で、もなんだか新鮮だった。


「大丈夫よ、アスラン。ラクスは絶対に、守るから。何が何でも、命にかえても」

「あのなぁ・・・」

、それは私、嬉しくありませんわ」

「あぁ、ごめん」


ラクスが眉を下げると、はその頭を撫でて謝る。呆れが尽きないアスランを説得し、一同はエレカーに乗り込んだ。




















待ち合わせ場所は、野外コンサートホール。らしいといえばらしい場所だ。まずはアスランが先行して様子を見ることになった。アスラン、キラ、、メイリンの四人は銃を手に、ラクスとメイリンを守るようにして立つ。


「キラ、ちゃんとセーフティ外しててよ?」

「わ、わかってるよ」

「なんだその気の抜けた会話は・・・」


だってキラ、前にセーフティ外さずに使おうとしてたんだもの。あれはもう二年も前でしょ!という会話は、逆に緊張しすぎる身体をほぐさせる。


「メイリンが銃をもつと不思議な感じね・・・」

「わたしだって軍人ですから!」

「行くぞ」


アスランが慎重に歩を進める。ホール部分に、彼女はいた。罠だとわかっているため不用意に近づかず、近づかせない。銃を向けるとミーアは動きを止めた。そしてアスランは彼女に語りかける。これが最後のチャンスだと。たちも傍に寄り、ラクスが前へ出る。


「ラクス様・・・!?」

「こんにちは、ミーアさん、初めまして」


ミーアは愕然としていた。本当に来るとは思っていなかったのかもしれない。罠だとわかっていながら、ミーアに会うためにくるなどと。


「お手紙には助けてとありました。殺されると。なら、私と一緒に参りましょう?」


ラクスが救いの言葉を差し出す。だがミーアは信じられないものを見るように、またそれを拒否するかのように、後ずさりしていく。ミーアは錯乱していた。自分がラクスだと、自分がラクスで何が悪いと。そしてその銃はラクスに向けられる。だがすかさずアスランが先手を取り、その銃を撃ち落とした。


「名がほしいのであれば差し上げます。姿も。ですが、あなたと私が違う人間であることにかわりはありません。自分以外の人間にはなれないのです、誰も。でも、だからあなたも私もいるのでしょう?ここに」


膝をついたミーアが涙を浮かべてラクスを見上げる。


「だから出会えるのでしょう?人と。そして、自分に。あなたの夢はあなたのものですわ。それを歌ってください。自分のために」


そう、今まではラクス≠ニして歌っていた。歌で上を目指したいのなら、人々に知ってもらいたいなら、ミーア≠ニして歌うべきだ。


「夢を、人に使われてはいけません」


ただその歌声をデュランダルに利用されていた。そんなものは、夢ではない。
ミーアの反応をみていると、不意にトリィが鳴いた。そして何かの機械音。


「ラクス!」


アスランがラクスの身を引くと、そこに銃撃が放たれた。


「あそこか!」


すかさずがトリガーをひく。ラクスをキラに任せて壁の向こうに隠し、アスランもミーアの手を引いて走った。


「相手はひとりじゃないわ!」

「あぁ、わかってる!けど!」


ミーアにきいても人数まではわからないらしい。ざっと見たところ5、6人はいるように思えるが。


「キラ、ラクスを頼んだわよ。メイリン、一人でいける?」

「うん!」

「はい!」


なら自由に動ける。は銃撃を放ち弾を入れ替えながら様子を伺った。だがアスランが一人飛び出していく。


「アスラン!あの馬鹿また無茶を!」


どうやら乱射可能なものまで持ち出しているようだ。いくら白兵戦もトップだったとはいえ、無茶は禁物である。


「私も出る。ここ頼んだ!」

「はい!」


メイリンに一言伝え、はアスランとは反対側に飛び出して潜んだ。アスランに気をとられているうちに後ろから射撃する。


「あと何人いるのよ・・・!」


むしゃくしゃしながら撃っていると、ふとキラたちのほうに一人向かっていた。何かを投げ込んだように見えてはっとする。キラたちは上手く逃げたが、やつらは手榴弾まで持ち出しているようだ。首謀者と思われる彼女も手榴弾を投げたが、それはキラの射撃によって跳ね返り、彼女自身を吹き飛ばす。なんとか片付いたかというところでアカツキが降り立った。


『大丈夫か?坊主たち』

「遅いです、ムウさん!ラクスたちをはやく!」


とはいえコックピットは乗れる人数に限界がある。ひとまずラクスとミーアだけでも。アカツキが手をのばし上にラクスが乗り、キラがミーアに声をかけたその時だった。ミーアが声を上げて駆け、銃声が響いた。彼女の身体が崩れ落ちる。キラとアスランとが一斉に銃を構え、今度こそ首謀者の女を撃ち抜いた。


「ミーアさん!ミーアさん!」


ラクスがミーアを抱えて必死に名前を呼ぶ。この様子だと、もう。涙を流したその瞳は閉ざされた。忘れないで。その言葉を忘れない。その声を、忘れない。ラクスが、アスランが、メイリンが涙を流して彼女の死を悲しんだ。は涙を流さなかったが、まるでこぼれるものを防ぐかのように、少し曇った空を仰いだ。






















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