ひとときの安らぎを
いつの間に上がったのか、ミネルバも宇宙で戦っていた。映像を観ているだけしかできないことがもどかしかったが、ロゴスは、討たれた。これからデュランダルがどう動くのか。何を破壊し、何を得るのか。アークエンジェルも宇宙へあがってくると連絡があったので、今はアークエンジェルを待つことになっている。は頬杖をつきながらぼんやりとデュランダルについて考えていた。デスティニープラン=E・・遺伝子組み換えによってそれぞれの役割≠指定管理し、争いの無い世界をつくる・・・それは確かに争いの無い世界だが、それは本当に人≠フ生きる世界なのだろうか。
「・・・結局は、遺伝子科学者か」
はああと大きくため息をついてシートにもたれかかる。ギルバート・デュランダル。元、コロニーメンデルの遺伝子科学者。とキラの出自にも関わっている人物。その時からこんな計画を考えていたとは。は再び大きくため息をついて、それからふとモニターを見た。
「・・・え!?」
モニターにはいつの間にかテキストオンリーでアークエンジェル、コペルニクスに入港≠ニ表示してあった。急いでブリッジへ繋げ、怒鳴りつける。
「アンディ!何で通信で教えてくれないのよ!?」
『考え事をしているときに邪魔をするのは悪いだろう?』
「こういう時だけ余計なお世話!ね、行っていい?いい?」
『あぁ、行ってこい。こっちは大丈夫だ』
「ありがとう!」
やれやれと苦笑するバルトフェルドに笑みを浮かべ、は嬉々としながらワルキューレを発進させた。
コペルニクスに到着し、アークエンジェルを探す。駆け入れば、その後ろ姿を発見した。
「キラ!」
「え、?」
思い切り抱きついたがキラはちゃんと受け止めてくれて、思わず顔がにやける。だが部屋から出てきた青い影に、一気に熱が下がった。
「っ、待っ」
キラが制止の声を漏らすが問答無用である。の右手がアスランの頬を思い切り引っ叩き、いい音を廊下に響かせた。直後にドスっと床に落ちる音。
「・・・った・・・」
「言われなくてもわかってるわよねぇ?」
「・・・わかってるさ」
「ならもう一発」
「なぜそうなるんだ!?」
「、お、落ち着いて?ね?」
よろけて座り込んだアスランにむけてが平手をかざすと、慌ててキラが止めに入る。
「だってミリィが、怒るのはがって言ってたもの。キラだって、怒るのは私の役目って言ったんでしょ?」
「ミリアリアぁ・・・」
を羽交い締めにしながらキラが頭を落とすと、くすくすと笑い声がきこえてきた。その知ったる声にがぱっと顔を明るくさせてそちらを見る。
「ラクス!に、メイリン!」
バッとキラの拘束から抜け出し、二人に駆け寄る。ラクスと抱擁を交わし、続けてメイリンの両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「メイリン、怪我とか大丈夫だった?馬鹿が巻き込んでごめんね、馬鹿が」
「おい・・・」
「だっ、大丈夫です!熱は出ちゃったけど、怪我はとくになかったので・・・。怪我は、アスランさんの方が、すごくて・・・」
「モニター爆発とかが直できたのかしらねぇ。まぁ、自業自得だし生きてるんだから問題ないわ」
「お前な・・・」
アスランの声は完全に聞こえないふりである。
「こっちに、いることにしたのね」
「・・・はい。オーブにのこれとも言われたんですけど、じっとしているの、だめだって思って」
「メイリンがそう決めたのなら、何も言わないわ。私もこんなだしね」
言って赤服を示して見せれば、メイリンも笑った。
「ところでみんな私服だけど、どこかいくの?」
「うん、ちょっと市内に出ようかと。気分転換も兼ねて」
「もう何ヶ月も外にでていませんでしたから」
キラとラクスの答えに、そっか、と頷く。
「私も行っていい?」
「いいけど・・・」
「5分待って。キラ、服貸して」
「え、いいけど」
キラの返事をきくと、はキラの手を引いて走っていった。
「・・・あの、こういうの、きいていいのかわかんないんですけど・・・」
「はい?」
キラたちの姿が見えなくなって、おそるおそるメイリンがラクスに問いかけた。
「いいん、ですか?あのお二人・・・その・・・」
メイリンはキラとラクスの関係に気づいて言っている。ラクスはその心配を嬉しく思い、「えぇ」と頷いた。
「キラとは、私にとってどちらも大切な方々ですし、あのお二人は、また違う絆で結ばれていますから」
「違う、絆・・・?」
ちらと今度はアスランに目を向ける。嘘が下手なアスランはどう返そうか迷っていた。「あー、その」と声をだし、どうしたものかと目を泳がせる。と、5分経過して二人が戻ってきて、なんだか妙な空気が流れていることに気づいた。
「どうしたの?」
「あ、いや・・・俺が答えていいものかわからなかったから・・・」
「うん?」
が目を瞬かせて三人を見る。ラクスは笑みを浮かべるばかりで、見守り態勢だ。
「え、えっと、そのぉ、キラさんとラクスさんって、その、恋人同士・・・なんですよね?」
「えっ?う、うん・・・」
ちらとキラがラクスを見た。お互いに笑みを交わす姿が微笑ましい。
「そのラクスさんの前で、その、さんがキラさんに抱きつい、たり、すごく親しくするのって、どうなのかな、って・・・す、すみません、部外者が口を出すことじゃないって思ったんですけど、なんか気になっちゃって・・・」
「あぁ、なるほど、そういうことね」
は頬をかきながら乾き笑いを漏らした。
「外では一応気にしてるんだけど、アークエンジェルのみんなは知ってることだから、ついやっちゃったわ」
「?」
「私とキラはね、姉弟なの」
「えっ!?」
ぱっと顔を上げて、メイリンがとキラを交互に見る。ぱちくりと目を瞬かせる姿がなんとも可愛らしい。
「で、でもファミリーネーム・・・」
「わけあって別々に育ったのよ」
「さんは元々ザフトで、キラさんは・・・」
あぁ知ってるのか、元々は別陣営にいたことを。は苦笑して、メイリンの頭に手を乗せた。
「だから本当は、あなたにはオーブに残って欲しかった。ミネルバには、ルナマリアがいるからね」
「っ!」
ルナマリアとメイリンは姉妹だ。メイリンがアークエンジェルに乗っている以上、ミネルバとの戦闘も免れないだろう。パイロットと艦内クルーとはいえ、きょうだいが戦うことは、味わって欲しくなかったのだ。
「けどメイリンが決めたことだから、そこをどうこう言うつもりはないわ。あなたも覚悟をもって決めたのだろうし」
「・・・」
「話がそれちゃったけど、私がキラに抱きついたり・・・っていうのはそういうことね。離れて暮らしていたし、その、戦いもしたわけで、なんか今までのが溜まりに溜まっちゃってるのか、スキンシップが激しくなっちゃってるのよねぇ」
自分で言っておいてなんだけど、とつきたして笑うと、ようやくメイリンも笑った。遅くなってしまったが出発しようということでエレカーに乗り込む。
「では行ってきます、ラミアス艦長」
『えぇ、気をつけてね』
「報告遅くなったけど、私も合流してるから安心して」
『あらさん、いつの間に。それなら大丈夫ね』
「任せて。生身の戦闘ならこいつらよりもできるつもりだから。そういうことがないことを願うけどね」
『そうね』
マリューに報告を済ませ、エレカーを出発させた。
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