届かぬ声























がアークエンジェルに戻ってきてきいた衝撃的なことは、スエズの地球軍増援としてオーブ軍が来たということだった。いや、オーブが大西洋連邦との同盟を結んでしまったときから、こうなることはわかっていた。その時が、今というだけのことだった。に、とっては。ザフトにいるアスランはオーブと戦うことになるだろう。そしてAAもまた、行動を決する時だった。



















ダーダネルス海峡にて、ザフト軍と地球軍、オーブ軍連合の戦闘が開始された。オーブは功を焦っているのか知れないが、アストレイを全機出撃させているらしく、セイバーとインパルスが数の多さに少々苦戦していた。だがその間にミネルバが主砲をオーブ艦へ向ける。そしてそれが放たれようとしたその時、主砲が上空斜めから、撃ち抜かれた。アストレイのものではない。上空から降り立ったのは青い翼、フリーダムだった。そしてその背後からはミネルバと似た型の白い艦、AA。AAの艦上にはプラチナブロンドの機体が待機していた。そしてさらにAAから発進される機体がひとつ。ピンクの色をしたそれは、この戦場の一部の者には知った機体であった。


『私は、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!』


ストライクルージュがフリーダムのそばまで来て、カガリの声が戦場に響き渡った。戦場に動揺の空気が流れる。


『オーブ軍は、ただちに戦闘を停止せよ!軍を退け!』


これは賭けだった。オーブを止めるための賭け。これに応じれば良し、応じなければ、カガリには悪いが戦うしかない。


『現在訳あって国元を離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、このカガリ・ユラ・アスハが、オーブ連合首長国代表であることにかわりはない!その名において命ずる。オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘をただちに停止し、軍を退け!』


これを受け入れるかどうか、考えものであろう。地球軍とオーブ軍の布陣は絶妙なものであるし、オーブ軍の指揮をとっているものが誰かにもよる。緊張がはしるなか、動きのない戦場を見守っていた。そして、オーブが決断した。オーブ艦隊から、幾多のミサイルが、発射された。照準は、ストライクルージュ。すかさずフリーダムが前に出てミサイルを撃ち落としていく。はひとつ息をついて、前を見据えた。


「これから混戦になる。私も飛ぶわ」


AA艦上に待機していたワルキューレが金の翼を広げて飛び立った。そして地球軍からはアビスら三機と他MS隊が発進され、またミネルバからもザクらが発進された。地球軍とザフト軍の戦いが再開される。オーブ軍もまた、ザフトへの攻撃を再開させた。


『オーブ軍、私の声がきこえないのか!?言葉がわからないのか!?オーブ軍!戦闘をやめろ!!』


カガリの必死な訴えも虚しく、オーブ軍には届かない。いや、届かないようにさせられているようなものであった。そしてその銃口はこちらにも向けられた。


『カガリ、もう駄目だ。残念だけど、もうどうしようもないみたいだね』


冷静なキラの声がカガリに言う。


『下がって。あとは、できるだけやってみるから』

「カガリ、アークエンジェルへ」


ワルキューレがフリーダムに並び、ルージュの退路を作る。


『キラ・・・・・・』


多くの機体が爆発し、海へと落ちていく。らはAAを守るようにして戦っていた。頭の中で種≠ェ弾け、クリアになる。とキラは地球軍、オーブ軍MSを戦闘不能におとしていった。


『バルトフェルドさん、カガリとアークエンジェルを頼みます!』

『了解!』


バルトフェルドの乗ったムラサメがAAから発進され、カガリとAAの護衛についた。そしてAAはミネルバへと進路をとる。不利になっているザフト側に寄り、オーブ軍と地球軍を牽制しようというのだ。とにかくどちらも撃たせないように、MSを撃破ではなく戦闘不能≠ノしていく。これはキラとにしかできないが、AAもまたミネルバをおとさせまいと地球軍MSを牽制した。キラはインパルスの腕を切り落とし、海中にいるアビスを戦闘不能にさせた。フリーダムはそのまま、グフイグナイテッドとガイアの方へと向かう。フリーダムはガイアを海へおとし、続いてグフイグナイテッドの腕を切り落とした。そして次、セイバーとカオスに向かおうとしたとき、ガイアがサーベルを光らせて再び飛び上がった。そこへ割り込む、オレンジの機体。別のMSの相手をしていたは、ふと何かを感じてフリーダムらのほうを見た。そしてその目は、その瞬間を捉えた。ガイアのサーベルによって、背後から真っ二つにされた、グフイグナイテッド。


「・・・・・ハイネ」


バラバラとオレンジの残骸が海へと落ちていく。は顔を歪め、目を閉じた。大きく深呼吸をして、前を見据える。フリーダムに蹴落とされたガイアがカオスに回収されるのが見えた。そして地球軍艦隊から信号弾が上がる。これでこの場は収まり、AAはその戦場から立ち去った。


















オーブ軍の説得は成らなかった。ならば次はどうすべきか、それを考えなければならなかった。AAの行おうとしていることは、地球軍、ザフト軍ともに伝えることができただろう。はベッドに寝転がり普段は胸の袋におさめているピアスを指で転がしていた。そこへブリッジから通信があって起き上がる。


「どうしたの?」

『ちょっと気になる入電があってな。お前にも見て欲しい』

「入電・・・?わかった、すぐ行く」


バルトフェルドに言ってはすぐに部屋を出た。









AAに突如入ってきた入電の内容は、こうだった。


《ダーダネルスで天使を見ました。また会いたい。赤のナイトが姫を探しています。どうか連絡を。ミリアリア》


ミリアリア、それは先の戦いでAAのCICを務めていた、キラの昔からの友人だ。今はフリーの報道カメラマンをして地球を駆け回っているときく。なぜ彼女から突然入電があったのか。そして気になるワードがもう一つ。


「赤のナイト・・・?」


赤、とは何を意味するのか。には一瞬にしてわかってしまって、大きくため息をついた。


「アスラン・・・」


呟いたのはカガリだった。まず間違いはないだろう。赤がザフトレッドを意味するのか、はたまたセイバーを意味するのか。


「アスランが・・・アスランが戻ってきているんだ、キラ!」


カガリが喜びの声を上げるが、キラは浮かない顔をしていた。も同様にである。また、この入電が本当にミリアリアからのものである確証はない。ミリアリアの存在を知る者など限られているし、ミリアリア自身はAAの連絡コードを知っているから、通信してきたのはミリアリア本人である、と信じてはいいのだろうが。


「・・・会いましょう」


やがてキラが口を開いた。


「アスランが戻ったのなら、プラントのことも色々わかるでしょう」


は内心、「戻った、ねぇ」と呟いた。ここでアスランがザフトに戻ったことを言うべきか言わざるべきか、迷いどころではある。


「でも、アークエンジェルは、動かないでください。僕が一人で行きます」

「え?」

「大丈夫、心配しないで」


声を上げたラクスにキラが微笑むと、横からカガリが「私は一緒に行くぞ」と前へ出てきた。


「・・・いいよ。じゃあ、僕とカガリで。は・・・」

「・・・私は、行かない」

「意外だな。行くと言うと思ったが」


意外、と言ったのはバルトフェルドだった。彼には向かず、は目を細めた。


「今アスランに会ったら、また殴りそう」

「また?」

「・・・ディオキアで会って、殴った」

「お前な・・・ん?ディオキアで・・・?」


バルトフェルドがを見る。は「後で」と言って、ひとまずキラたちを送り出した。


「で?アスランとディオキアで会ったってのは?」


二人を送り出してから、バルトフェルドがに問いかけた。はー、と大きく息を吐いて、頭をおさえた。


「・・・アスラン、ザフトに戻ってるのよ」

「え!?」


驚きの声を上げたのはマリューだった。唖然としてを見ている。はそのまま続けた。


「しかもFATESの称号つき。ほんとあの馬鹿は何考えてんのか」

「FATESときたか・・・それはまた・・・」

「FATESって確か・・・ザフトの特殊部隊、だったかしら?」

「そう。その称号だけで隊長と同じ権限を持つ、特殊部隊」


話している間にの苛々が募ってきている。それを悟ったバルトフェルドは無意識に一歩下がった。だがはそれを逃さなかった。


「殴りたくなってもおかしくないと思わない!?ねぇ!?」

「まぁ、そう、だな」

「今は正直、顔も見たくない」


それだけのアスランへの怒りは強いのだ。ブリッジ内の面々はそれを思い知ったのであった。




















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