「こちら・シュライア。ミゲル・アイマン、機体を損失。共に帰艦します」
『了解。無事帰艦、待っている』
ピ、と通信が切れると、ふうと一息ついてはコックピット内のシートの後ろに乗せたミゲルを見た。
「怪我はしてないわよね?」
「んなヘマするかよ」
「それならなにより」
二人は宇宙にいる戦艦、ヴェサリウスに帰艦した。
ヴェサリウスに戻ると、クルーゼの姿が無かった。オロール機大破、ミゲル機損失の報せをきき、隊長自ら出撃したのだという。ミゲルのことはともかく、オロールが機体を大破させてしまうほどの相手は、地球連合軍では一人しか思い当たらない。
「・・・エンデュミオンの鷹」
も一度だけ戦を交えたことがあるが、相当腕のいいMAパイロットだったと覚えている。さらに隊長機が損傷したとの報せが入って確信した。もしくは、キラが・・・。
『、隊長が呼んでる』
「わかった」
機体をチェックしていた手を止めてはタルタロスから降り、隊長の待つブリッジへと向かった。
ミゲルが録画していた、白い機体との戦闘映像を観る。端から見てはいたが、やはり正面から見るのとでは違う。敵の構成を確認し、ミゲル、オロールに出撃命令が出た。あの白い機体は、捕獲できそうにないなら破壊する事となった。アスランも出撃許可を得ようとしたが、機体が無いからと却下された。
「アスラン」
「・・・」
「気になってるの?彼の事」
「・・・・・」
図星のようで、アスランが俯く。
「彼は軍人のようではなかったし・・・大丈夫よ、多分」
「多分、か。説得力無いな」
「こればかりは悪いけど、断言できないから」
民間人とはいえ、軍の重要機密に触れてしまったのだ。すぐに解放してもらえるとは思えない。もちろん、無事に戦線離脱してほしいとは思っている。乗るのはあの時だけでいい。
「・・・」
「ん?」
「ごめん」
え、と声を漏らすの横をアスランがすり抜けていく。あっという間にアスランの背は遠ざかって行った。
「まさか・・・!」
は急ぎアスランの後を追った。
「すみません隊長!アスランがあの機体で無断出撃しました。後を追います!」
『わかった、アスランを頼んだぞ』
「はい!」
タルタロスに乗り込み、はマシューと共にアスランの機体を追った。
先の戦闘で開いた穴からヘリオポリスへ侵入する。白い戦艦が、壊滅寸前の街に目立った。
『オロールとマシューは戦艦を。アスラン!無理矢理ついてきた根性、見せてもらうぞ』
『・・・あぁ』
ミゲルの指示でオロールとマシューが散る。戦艦から先ほどの白い機体―X105-ストライクが発進してきたのを目にし、は眉をひそめた。
(キラが書き換えたOSのまま鷹が出るのは無理・・・たとえまた直したとしても、アレをナチュラルが動かすのは容易ではない。だとしたらあれに乗ってるのは、キラ・・・)
ギュッと拳を握る。向こうの状況なんて知った事ではないが、再びMSに乗ってしまうなんて。
『・・・、!きいてるか!?』
「っ、ごめん」
物思いにふけっている場合ではなかった。すぐさま切り替えて前を向く。
『慣れない機体だろうが、しっかりしろよ。アレは俺がやる。お前は戦艦の方を頼む』
「了解」
ミゲルの指示を受け、戦艦の方へ飛ぶ。ミゲルのジンもすぐにストライクとの戦闘が始まった。
「オロール、マシュー、何が何でも沈めるわよ!」
『わかってる!』
『任せとけって』
前を見据えながら、それでも浮かぶのは工区内で見た少年の姿。キラと戦いたくはないし、死んでほしくも無い。だが、向かって来るなら立ちうちしなくてはならない。そしてこちらも死ぬわけにはいかない。ミゲルにも、アスランにも死んでほしくはない。今までこんなことを思うなんてなかった。連合に知り合い何ていないし、ミゲルたちが早々墜ちることなんてないから。ミゲルが専用機を中破した時は冷や冷やしたが、それでも無事だった。だが今は、相手が相手だ。どちらもの無事を願うなんて、馬鹿げている。自分達は戦争をしているのだから。敵は、倒すしかないのだから。だがそれでもと、どちらも、死ぬな、と。しかしその願いは、儚く散った。