C.E.71年
ザフト軍クルーゼ隊は任務から帰還中に、中立国コロニーのヘリオポリスにて、地球軍の新型機動兵器が造られているという情報を得て、奪取作戦を決行しようとしていた。
「お前ら白兵戦は初めてだったか?」
「はい」
パイロットスーツに着替え、白兵戦のための装備を着けている後輩達を見ながらミゲルがきき、ニコルが答える。ミゲルはジンでの陽動を務めるため白兵戦には参加しない。兵器の奪取はクルーゼ隊赤服の6人と数名の緑服隊員だ。
「ま、落ち着いて訓練通りにやれば身体が動いてくれるさ。もいるしな」
「最後の付け足しいらない気がする」
パチッとナイフを装着してが片眉を上げる。ミゲルは、はははっと笑うだけだった。
「とにかくお前ら、死ぬなよ!撃たれても死ぬな!」
「無茶苦茶な・・・」
ふぅ、とが呆れて息を吐く。それがいい緊張ほぐしになって、ニコルの表情も少し和らいだ。ミゲルが格納庫に向かうと、たちもステルスランチに乗り込んだ。
「機体は全部で6体。単純に一人一体計算ね。効率良くやるわよ」
「はい」
地球軍が中立国のコロニーでMSを造っている事は許せない事だが、は少し楽しみでもあった。奪取したMSの一機はがもらうことになっている。作戦会議の時に、「君は先の戦いで機体を失っている。新しい機体は未だ完成していない様だから、これを機に乗り換えるといい」とクルーゼに言われたのだ。もちろん本国にも連絡し、許可済みである。だから、自分の機体になるのはどんなものなのだろうと思いを巡らせていた。もっとも、失敗すればそんな事関係なくなるのだが。
「イザーク、ディアッカ、ニコルと、私、アスラン、ラスティの二組に別れて行動する。イザーク、そっち頼むわね」
「あぁ」
『お前ら、あんま待たせんなよ』
「わかってるわよ、ミゲル」
ミゲルから通信が入り、にっと笑ってみせる。
「それじゃ、出発しましょう」
「OK.ザフトの為にってね」
戦いの火蓋は、もうすぐ切って落とされる。
潜入路の赤外線センサーを断ち切って、潜入。なんともあっさりで、拍子抜けである。中立国のコロニーだからといって甘すぎやしないだろうか。そのまま進んで行くと、下の金網越しに、白い戦艦を確認した。アスランの合図で幾手にわかれる。混乱を引き起こす爆弾を数か所に至って設置していき、完了報告をしてヴェサリウスの陽動を待つ。混乱に乗じてMSを奪うのだ。
「なんとまぁ単純な・・・」
「クルーゼ隊長の言った通りだな」
「つつけば巣穴から出てくるって?」
「やっぱり間抜けなモンだ。ナチュラルなんて」
「・・・・・」
MSが安置されている工場がよく見える高台から、それらが運び出されていくのを確認する。ヴェサリウスの陽動、ジンの侵入、爆発の混乱で、相手は思うように動いてくれた。イザークとディアッカの皮肉めいた会話を隅できいて、工場区のデータをミゲルのジンに送る。
「私たちも行くわよ」
ミゲルたちが襲撃を開始したのを確認し、らもライフルを手に跳び立った。
運び出されている3機をイザークらに任せ、たち三人は工区へ侵入した。ライフルの射撃音が耳につく。ヘルメットのおかげが、血の臭いの方は緩和されているようだ。いつまでたっても白兵戦は慣れない。敵が死んでいく様が見てとれるから。MS戦が主流になった今のではほとんど白兵戦が無いから、慣れないのも仕方のない事なのだが。
(あいつら、上手くやってるかな)
手榴弾を投げ爆音をききながら別働班を思う。
(・・・今はこっちに集中しよう)
相手だって命懸けで戦っているのだから、なめてかかると痛い目を見る。
『こっちは3機とも奪取に成功した。このまま艦に持ち帰る』
「了解。こっちはもう少しかかりそう」
『大丈夫だとは思うが、あまり時間をかけるなよ』
イザークとの通信を切り、目の前の敵を見据える。
「意外とやるわねぇ・・・地球連合」
目標物はすぐそこにあるというのに。
「ラスティ!!」
ふ、と叫びにも似た声が聞こえ、は振り向いた。赤のスーツが倒れているのが目に入る。動かないところを見ると、おそらく、もう。
「ラスティ・・・!!」
アスランが突撃していくのを援護しながら走る。機体の上にいた人物に手傷を負わせたが弾切れになったらしく、アスランはナイフを手に突っ込んで行った。
「はぁぁっ!!」
アスランが、連合の女と、傍に駆け寄った少年に切りかかって行く。も機体に乗り上がり、そしてその少年を目に入れ、動揺した。
(まさ、か・・・どう、して・・・なの・・・?)
ふいに浮かぶのは、スーツの下におさめている写真。一目でわかった。この子は。
「キラ・・・?」
こんな巡り合せが、あってたまるか。