これからのこと、むかしのこと






















医務室から少し行ったところでイザークと合流する。顔を合わせると若干ぎくしゃくはしたが、それもすぐに無くなった。プラントや大西洋連邦との話し合いも終わったようで、今後について確認する。


「明日、1000にイザークくんをザフトへお返しすることになったわ。それから私達は引き上げることになります」

「大西洋連邦のほうは?」

「あちらも終戦ということで了解したわ。月基地へ戻って、それでおしまいね」

「うまくまとまってよかった。ありがとう」

「いえ・・・私は何もしていないわ」


アークエンジェルは脱走艦だ。大西洋連邦の方へ出てしまえば、軍法会議にかけられてもおかしくはない。それでも問い詰められがないのは、向こうがオーブへの亡命を黙認してくれたということであろう。


「アスランくんの事も、オーブへの亡命ということで取り計らってくれたそうよ」


アスランは今回の主犯、ザラ元議長の息子だ。アスランがいてはまたすぐに事が荒立つ可能性もある、とのカナーバ議長代理の取り計らいである。


さんのことも、うまく片付けて下さるそうよ」

「よかった」


はザフトに戻る気がない。このまま除隊の処理を行い、オーブへ移住することになるだろう。


「あとは・・・」

「ディアッカ、ね」

「えぇ・・・彼はどうするのかしら」

「・・・ディアッカ」


黙って二人の会話をきいていたイザークがふと顔をそむけた。そしてその向けた先に当人がいて、小さく名を呼ぶ。つられてとマリューもそちらを向き、彼の名を呼んだ。


「ディアッカ」

「ディアッカくん・・・」

「あーと、俺の話してた?」

「えぇ。あんたはどうするのかって」


ディアッカが三人に歩み寄ってきて腕を組んだ。もう決めているような表情である。


「俺はプラントに戻るぜ」

「ディアッカ・・・!」


いちはやく喜びの声をあげたのはイザークだった。コロニーメンデルで話し合った時に何を言ったのかは知らなかったが、その内容次第ではプラントに戻らない可能性もあったのかもしれない。


「このままアークエンジェルに便乗するのもありなんだろうけどさ、俺のふるさとっての?それはやっぱ、プラントだしさ。とりあえず、まぁ、家族もいるわけだし」

「そっか、ディアッカが決めたのなら、それでいいんだと思う」

「さんきゅ」


何に対しての礼なのかはわからないが、はとりあえず笑みで返しておいた。だがすぐに「あぁでも」とディアッカに向ける。


「ミリアリアに、ちゃんと話しておきなさいよ?」

「・・・わかってる」


軽く視線を落とす様はいつもの調子のいい感じとは違っていて、これは本当に好きになったのかなとは嬉しく思った。ナチュラルを下に見ているようなところが多少なりともあったから、これはいい変化である。


「それならディアッカくんの件も追加でお願いしましょう。ザフトへの復隊・・・ということでいいのかしら?」

「復隊も何も、俺、MIA扱いだろうし?」

「そうね、そうだったわね。なら、生きていることを伝えて、指示を仰ぎましょう」


ディアッカの処遇も決まり、あとはイザークとディアッカをプラントへ返すのみとなった。イザークだけはまだが戻らないことを不満に思っているようではあったが、彼も成長しており、それを口にすることはなかった。




















正直、相手が弟だとわかっていても、男の名を連呼されるのを見聞きしているのは、どうにも気分がいいものではなかった。は今までの我慢がオーバーヒートしたのか、「キラ、キラ」とキラに構い通しである。そんな様子をと友人同士で、キラと恋仲になっているらしいラクスは微笑ましく眺めているのだが、イザークとの心境は複雑だった。


「顔、すげぇことになってるぞ」

「・・・放っておけ」


声をかけたのはディアッカで、やれやれと思いながらイザークの向かいの席に座ってらを眺める。


「まぁ、あれは確かに誤解を招くよなぁ。どう見てもがキラのことが大好きでたまりませんっていってるようなもんだからな。実際そうだけどさ」

「・・・あの二人は、なぜ姉弟なのにファミリーネームも違うし、別々に暮らしていたんだ?」

「さぁ?そんなとこまできいたことないからな。アスランも知らないみたいだぜ?」


アスランの名前が出てイザークの顔がぴくりと動いたが、当の本人はカガリについてクサナギにいる。


「けどまぁ、不思議な縁ってやつだよな。はザフト、キラは民間人からの地球軍、だからな」

「・・・民間人、だと?」

「らしいぜ?キラ、軍事訓練は一切受けていなかったって」

「それでストライクを動かしていたというのか!?」


思わずバンっと机を叩いてディアッカに詰め寄る。ディアッカが焦って「俺もきいただけだっつーの!」と返しているところに、「あーあ」と第三者の声が入ってきた。


「ディアッカ、あんた余計なこと言ったでしょ」

「余計なっていうか・・・余計なことか」

!そいつが元々民間人だというのは本当なのか!?」

「そいつじゃなくてキ、ラ!あーもうコレに関してはあえて黙ってたのに・・・」


はぁ、とがため息をつく。「どうなんだ!?」とイザークが声を荒げるが、の反応で肯定しているも同然である。当人のキラは、のすぐ後ろに少し気まずそうに立っていた。


「キラは元々工業系の学生だし、趣味がハッキングなだけあっていろんなことに詳しかったりして・・・」

「趣味がハッキングってやべぇなおい」


これにはディアッカも驚きで、キラは乾き笑いをもらした。


「・・・だがあのOSの書き換えはそうできるものではなかったはずだ」

「そう言われても、ねぇ?」


ねぇ、はキラに向けられたものである。わかったものはわかった、ですませておくにこしたことはない。おそらくキラがOSの書き換えができたのは、スーパーコーディネイターの潜在能力からなるものだ。イザークは納得はしていなかったがきいても無駄だと悟ったのだろう、それ以上きくことはなかった。


「だが・・・だがそれなのに、あいつらは」

「イザーク」

「!」


ついこぼした言葉だったが、イザークはの声色にはっとした。彼女を見れば、その目には静かな怒りの色が宿っている。


「余計なことは、言わなくていい」

「っ、だが!」

「ストライクは討たれた。あんたもそう言ったでしょう?それで、おしまい」

「っ、だがミゲルは!」

「イザーク!!」


続けようと声を上げたイザークに、が怒鳴りつける。しまった、とイザークが気づいたときには遅かった。の顔は怒りと悲しみと切なさが混ざり合い、今にも泣き出しそうな目をしていた。


「お願い、まだ」

「・・・すまない」

「・・・ん」


の後ろでキラがディアッカに目できいた。だがディアッカは首を横に振るだけで、話してくれそうにはない。


「私の口から、ちゃんと、言うから」

「・・・あぁ」


それでわかってもらえたようで、は息をついた。そして後ろの弟に対し、「ごめんね」と呟く。なんのことかわからないキラであったが、いずれ話してくれるのならと頷いた。


「みなさん、お暇でしたら、お茶でも飲みながらお話しませんか?」


そこへ一部始終を見守っていたラクスから声がかかり、四人はぱちくりと瞬きをして顔を見合わせ、そして苦笑した。


「ありがとう、ラクス。そうしましょうか」

「えぇ、ぜひ」


ラクスの気遣いに感謝しながら、はラクスと共に五人分のお茶を用意した。


















談話タイム、ということだが、正直何を話すかというのはわからなかった。何を話題にすればいいのだろう。が「うーん」と唸り出しそうになったとき、不意にキラが口を開いた。


「ディアッカとイザークはの後輩で、ラクスは友達・・・でしたよね?」

「えぇ、そうですわ」

「どうしたんだ?急に」

「いや・・・僕、姉弟っていっても、と会ったのはこの戦いが始まる時だし、のこと、まだ全然知らないから」


のこと、いろいろききたいなって。その言葉をきいて一同一時停止し、「へ?」とこぼしたのはだった。


「え、いや、キラ、別に私のこと話題にしなくても・・・」

「でも僕はのことが知りたい。駄目かな?」

「駄目っていうか・・・」

「そうですわねぇ、私とが初めて出会ったのは、私は14歳の時で・・・」

「ちょっ、ラクス何話し始めちゃってるの!?」


慌てるもお構いなしに、ラクスは楽しそうに思い出を語る。後輩組も二年前ということは自分達はまだであっていない時だと、ラクスの話に聞き入った。


「確かまだ軍籍に入ったばかりの時で、とても緊張していらっしゃいましたわね。声が裏返りそうになっていたのを、私覚えていますわ」

が・・・?」


男三人の視線がに集まる。は恥ずかしさですでに机に突っ伏していた。


「えぇ。ですので私申し上げましたの。そんなに緊張なさらないでください、よろしければ、私とお友達になってください、と」

「なんか・・・ラクスらしいね」


キラの感想にラクスは微笑んだ。


「・・・緊張もするわよ。片やそこらへんの新米軍人で、片や議長のご息女だったんだから」

「お、復活か?」

「うるさい」


ディアッカの茶化しを一蹴し、は肩肘をついて大きくため息をついた。


「一時的にとはいえ歌姫≠フ身辺警護を任されて、緊張しないわけないでしょ?新人だったわけだし。いくら赤服もらったとはいえ、普通新人に任せるー?」

「その時は同じ年頃の女性のほうが接しやすいからとご配慮いただきましたのよ?けれど、同じ年頃で女性のザフトの方はくらいしかいらっしゃらなかったそうでしたから・・・」

「・・・それもあとからきいた」


一応、上司に訴えかけてはみたのだ。だが同じことを言われ、訴えは却下された。


「その頃からは、ご友人ではありますけどお姉さん≠ニいう感じもありましたわね」

「え、そうなの?」

「はい。だから私、お姉様ができたようで少し嬉しかったのですよ?」

「それは知らなかった・・・」


ぽかんとすると、初めて言いましたものと小さく笑われた。花でも咲きそうなその光景を男三人はただただ眺めるばかり。


「私が知るはこのような感じですけれど・・・ザフトにいた頃は、どのような感じでしたのでしょうか?」

「えっ、そう、だなぁ・・・」


急に振られ、ディアッカがどもる。ラクスいわく、自分の警護をしてくれていたは友人だったから、軍人としてのは知らないのでききたい、ということだ。


「面倒見が良くて、男所帯でも何ら問題なく過ごしてて」

「・・・自分のことには案外ずぼらで自分の無茶は顧みない」

「う゛、刺さる」


後輩達にズケズケいわれ、は胸を押さえた。そこへイザークが追い打ちをかける。


「そうだ、キラ、これは頭に入れておけ」

「なんですか?」

「もしが怪我や病気で入院することになった場合、病室をくまなく点検しろ」

「点検・・・?」

「・・・ちょっとイザーク」


がジト目でイザークを見るがまったく気にせず、首を傾げるキラに続ける。ディアッカは「あー」と抜けた声を発し、ラクスもまた首を傾げていた。


「ダンベルを見つけたらすぐに没収しろ!水の入ったペットボトルが余分にある場合もだ!」

「ダンベル?!、病室にダンベル持ち込んじゃうの?」

「だって身体が鈍るじゃない!」

「開き直るな!内蔵痛めたやつのすることじゃないからな!?」


イザークの叱り声をきいて、キラはのことがまたわかったのだが、なんともいえぬ複雑なおもいを抱いたのもまた事実であった。




















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