彼への想いはなにものか
ラクス、カガリらがプラント、ならびに大西洋連邦と話し合っている最中、は医務室に呼ばれていた。休めと言ったのだが部屋でじっとしているのもという理由でイザークも同行している。は椅子に座って医務室の主、アリアと向き合っていた。
「いい加減治ってほしいものだけど、まだ治らないの?」
「うーん・・・痛くはないんだけど・・・」
「ちょっと外してみて」
アリアに言われ、は自分の頭に手をかける。くるくると包帯を外していく様をイザークは見守っていた。
「・・・そうねぇ・・・傷はもう問題なさそうね。頭部の検査は?」
「一応、タルタロスが壊れた後にラクスが私が眠っている間に検査に出してくれて、異常はなかったみたいだけど」
「そう、なら、もう外して大丈夫よ」
「よかったー」
外した包帯をアリアに渡して、はイザークを見た。笑みを浮かべてみせると、イザークも小さく笑い返した。
「あとはそれ。どうしたの、その耳」
「あー、これはピアスが・・・」
「そうなるのわかっててつけて出たのね?まったく・・・」
あははと乾き笑いを漏らし、軽くしかられながら治療を受ける。これでよしと治療が完了すると、アリアの顔に笑が浮かんだ。
「と、こ、ろ、で」
「うん?」
じゃっと音を立ててアリアが椅子ごとに寄り、顔を近づける。なんだかにやにやしている気がするのは気のせいだと思いたい。嫌な予感しかしなくてはアリアから目をそらしていた。
「彼は、の恋人?」
「んなっ!?」
声を上げたのはではなく、後ろにいたイザークだった。顔を真っ赤にして女性二人を凝視している。内心、がなんと返すのかが気になって仕方がない様子だ。
「・・・違いますー、後輩ですー」
「でもアスランくんやディアッカくんとはまた違うんでしょ?噂してる人いたわよ」
「・・・・・」
さすが軍医、情報がはやい。怪我の治療に来る人たちにいろいろ話をきいているのだろう。
「そ、ういうのって、さぁ・・・普通、本人がいないとこでやらない?」
「じゃあ本人がいなかったらきかせてくれるの?」
「しません!」
うらめしくアリアを見ると、彼女は楽しそうに笑いながらから離れた。大きくため息をつき、先程から後ろからじっと見ているイザークになんと言おうかと思案する。
「・・・」
「・・・何」
すると先に後ろから声がかけられた。だがは振り向かない。イザークは未だほんのり赤い顔のまま、振り向きすらしないの様子に首を傾げた。
「・・・?」
「ちょ、待った、待って」
「なんだ、どうしたと・・・」
顔を覗き込もうとするとそらされる。顔を手に当てて、まるで顔を見せたくない様子だ。そんな二人を、アリアがにやにやと見ていた。そして「あー、待ってあげて、いま、とっても可愛い顔してるから」とこぼした。の肩がびくっと跳ね、「は」とそんな間の抜けた声がイザークから漏れる。そして彼は、の少し俯いた後頭部を見つめた。
「・・・・・」
いまのアリアの言葉で一気に冷静さを取り戻したイザークは、スッと位置を移動し、の前にしゃがみこんだ。そして、その様子に、唖然とする。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
こんなを見るのは、初めてだ。顔を真っ赤にして、それを隠すように片手で顔を覆っている。指の隙間から紫の瞳が見えてはいるが、それはイザークを見ないようにとしっかりそらされていた。はアリアの恋人発言にものすごく照れているわけで、それを把握したイザークは、が自分を意識してくれているということがわかり、喜びを感じていた。そっとの包帯が巻かれていた小さく傷痕の残る場所に手をそえると、彼女の肩がぴくりと震えた。
「・・・包帯、取れてよかったな」
「・・・ん」
「」
「・・・」
「」
呼び続けると、がその体勢のまま、ちらとイザークを見る。それを確認し、イザークは小さく微笑んでの頭を撫でた。
「!?」
普段と逆のことをされ、は驚いて顔から手を離してイザークを凝視した。まだ赤い頬のまま、目をぱちくりさせている。そのまましばらく見つめ合う形になっていると、イザークの背後から「あー、こほん」とわざとらしい咳払いが発せられた。
「第三者がいるの、忘れないで欲しいんだけど?」
「っ!」
「うぇっ!?」
変な声を上げたのはだ。完全に頭から消えていたらしく、イザークが勢いよく立ち上がった。
「さ、先に出ているからな!?」
「う、うん・・・!」
言い放ってイザークがツカツカと医務室を出て行く。が大きく息を吐いて項垂れた。
「面白いわねぇ」
「面白がらないでください・・・」
けらけら笑うアリアとまたひとつため息をつく。でもさぁ、とアリアが切り出したので、は軽く顔を上げた。
「彼はあなたに好意があると思うんだけど?」
「・・・そう、なのかな」
「どうみたってそうでしょ。鈍いのねぇ」
「う・・・」
恋愛面の鈍さは自覚している。そしてそれゆえに、この、自分の中にある感情に自信がないことも。
「お互いに信頼しあって、好きあっているように、私には見えたけど?」
「自分では、よくわからなくて・・・」
「じゃあ・・・彼は、にとってどんな存在?キラくんみたいに、弟?それとも、アスランくんやディアッカくんと同じように、後輩?」
「うーん・・・弟ではないけど・・・」
そう言って考え込んでしまう。これは本当にわからないんだなとアリアは小さく息をつき、それなら、と言葉を足した。
「キラくんと彼、どっちが大切?」
「えっ?」
が目をぱちくりさせる。そんな比較をすることになるとは思わなかったからである。
「弟であるキラくんと、後輩である彼、どっちが大切?」
「・・・選べない・・・どっちも、大切だもの・・・」
「同じくらい?」
「・・・うん」
神妙な顔で頷くの様子を見てアリアは把握した。アスランたちと同じ後輩ではあるが、それ以上にイザークのことを大切に思っている、それが見てとれた。
「キラくんと同じくらい彼のことがとても大切・・・今はそれでいいのかもしれないわね。あとは彼の頑張り次第、かな」
「うーん・・・・・・・」
わかったようなわからないような、は軽く唸った。そんなを軽く笑い、アリアはを医務室から退出させたのであった。
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