生きていることの喜び





















ワルキューレはデュエルを連れ、AAに帰艦した。乗艦許可はすでにとってある。コックピット内でヘルメットを取り、一息ついた。それからハッチを開き、コックピットから顔を出す。


「おう嬢ちゃん!お疲れ!!」


下から声を上げてくるマードックに手を振りデュエルの方を見ると、ちょうどイザークが出てきたところだった。イザークもヘルメットをとり、こちらへ蹴って向かってきている。


「イザ・・・!?」


勢いのままイザークは、を抱きしめた。の手からヘルメットがすり抜けて無重力を漂った。


「ちょ、イザーク!?」

「・・・無事で、良かった」


小さく震えの混じる声で紡がれた言葉を、は黙って聞いた。


「生きてくれていて、本当に、よかった・・・!」

「・・・イザークも、約束守ってくれて、ありがとう」


俺は死なない。その言葉がを勇気づけた。安心させた。救われた。心の支えだった。


「それから、守ってくれて、ありがとう」

「・・・俺はお前を守るようなことをしてやれた覚えはないが」

「これ」


はイザークに見えるように少し顔をよじらせ、耳を見せた。そこにはイザークにもらった紫の石がついている。もっとも、装飾やら熱やらで、の身体を少々傷つけてはいるが。


「お前、そんなことになるから戦闘ではつけないって」

「絶対勝たなきゃって思ったから、守ってもらおうと思って」


にこりと笑ってみせると、イザークは照れくさそうに顔をそらした。そしてちらとを見て目を細める。


「・・・・・今更なんだが」

「何?」

「その、髪は、どうした」

「あーそっか、今までメットかぶってたから気付かなかったのね」


は言いながら短くなった髪に触れた。


「えーと、プラントで養生してて、戦いに戻るときに、そのまんまで出たら私だってわかっちゃうから、髪を切って、緑服に着替えたの。パイロットスーツは赤だけど」

「そう、か・・・・・プラントにいたのか!?」

「イザークはまだ地球だったわよ。ほら、ワルキューレに乗り換えたのがちょうどそのときよ。あぁ、ワルキューレといえば・・・アラスカでは、ろくに話もできなくてごめんね。混乱させたでしょう?」

「・・・まぁな」


思い出して、イザークはふてくされたようにそっぽを向いた。そんな顔もなんだか愛おしく見えて、はイザークの頭を撫でた。


「何をする!」

「えー?いや、ほら、イザークが可愛いから」

「男に可愛いなどと言うな!」

「そこのおふたりさーん、いちゃついてるのもいいけど、そろそろ降りてこようぜー?」

「「!!?」」


突如下からあげられた声のほうへ、とイザークはバッと顔を向ける。そこにはディアッカがいて、にやにやした顔で二人を見ていた。ちなみに、二人はいまだ抱き合ったままである。


「〜〜〜〜ディアッカ!」

「く・・・してやられたわね、いいわ、やり返してやろうじゃない」

「・・・?」


はイザークから身体を離し、彼の手を引きながら下へと降り立ち、ディアッカへと言い放った。


「悔しかったらあんたもミリアリアの手くらい繋いでみたら?」

「ぐ・・・おまえ、何言って」

「詰まったってことは図星よね!ふふーん!」

「嬢ちゃん・・・そんな性格だったのか・・・」


はぁ、とマードックが呆れのため息をこぼす。たしかに、キラやアスランの前ではこんなことはしないだろう。本当の意味で素になれるのはイザークやディアッカ、バルトフェルドら元ザフトの前なのかもしれない。


「さて、ちょっと時間経っちゃったけど、ブリッジに行きましょうか。イザークのこともちゃんと話さなきゃだし、ディアッカ、あんただって決めなきゃでしょ?」

「待て、、お前は・・・?」


イザークの問いに、は薄く笑った。


「私は、ザフトへは戻らないわ」


なぜ。その問いには、また後ほど答えることとなる。



















ブリッジでイザークが配置されていた艦に連絡をとり、一時預かりということになった。色々決まるまでは致し方がない。落ち着けばイザークは向こうへ戻れるであろう。たちは一息つくために軽食を手に休息室にいた。


、さっきのはどういうことだ、戻らないって・・・」

「もうちょっと待って、その理由を話すから」

「待てっておまえ・・・!」

、キラたち来たぜ」


入ってくるなり言ったディアッカの方へ向く。その後ろには、キラがいた。


「キラ!」




は床を蹴り、キラへと抱きついた。涙を浮かべ、その肩に顔を埋める。


「・・・っ!?」

「あー、待て、イザーク、大丈夫から落ち着け」

「何が大丈夫だと・・・!?」

「イザーク」


ディアッカにたしなめられ、に名を呼ばれ、イザークは一時停止した。


「紹介するわね、この子はキラ・ヤマト。元ストライクのパイロットで、フリーダムのパイロットよ」

「何・・・!?こいつが!?」


見たところ強そうには見えない、ということなのだろう。眉間にシワが寄っていて、怪訝そうなのがよくわかる。こいつが自分の顔に傷をつけた男なのか、と。そしては、「それから」と続けた。


「私の、弟」

「は?」

「な、に・・・?」


これはディアッカも初耳で、間の抜けた声を発して目を瞬かせた。


「血の繋がった、大事な弟。私がザフトに戻らないって言ったのは、ここがひとつ」

「・・・本当の家族がいるから、戻らないというのか?それではプラントにいるお前の家族はどうなる」

「ずっと戻らないわけじゃないわ。たまに戻るつもりよ」

「MIA扱いのお前がどうやってプラントに入国するんだ」

「それはまぁ、なんとか、いろいろ」

「いろいろだぁ!?」

「え、ちょ、ちょっと待って、


不機嫌面になっていくイザークと、あっけらかんと話すの間に、キラが割って入った。


「もしかして、僕やカガリがいるから、プラントに戻らないって言うの?」

「プラントに、じゃなくてザフトに、よ」

「でも・・・」

「いいの。ザフトに戻る気はないわ」

・・・」


なんとも頑固である。息をつき、キラはイザークを見た。もイザークを見て、さてと、と話を変える。


「それでねキラ、こっちはデュエルのパイロットで、イザーク・ジュール。この顔の傷ね、キラがつけたのよ」

「え、僕が・・・?」

お前・・・!」

「これもはっきりさせておきたかったのよね。イザーク、ストライクや足つきは討てなかったわけだけど、その傷どうする?」

「・・・」


ストライクを討つまでは傷を消さないと言っていたイザーク。キラが乗っていたときのストライクはアスランが討ったわけだが、乗っていたキラはこうして生きている。おとすはずだったAAも健在だ。だがそれはすでに、イザークの中でも消化しきれているだろう。


「・・・“ストライク”はあの時アスランが墜とした。事態が落ち着いたら、消すさ」

「よかったー!やっぱりイザークの綺麗な顔に傷があるのは嫌だもの!」

「っ、だからお前は!軽々しくそういうことをだな!?」

「私は事実しか言ってないわよ」


この二人の会話をきいて、キラがこそりとディアッカに耳打ちした。


「この二人って・・・」

「あー、イザークの方は好意だけど、はどうなんだろうなぁ・・・。あーゆーのはイザークにしか言わないから、少なからずってとこだとは思うんだけどさ」

「ふうん・・・」


なら、自分にとっても他人じゃなくなる可能性があるのか、とキラは一歩踏み出してイザークに右手を差し出した。


「よろしくお願いします、イザークさん」

「・・・・・」

「・・・?」

「・・・・・イザークでいい」

「はい、イザーク」


やはり一応消化はできているらしい。キラの右手をとり、二人は握手をかわした。そこへブリッジからの通信が入り、ディアッカが応答した。


『そこにさんはいる?』

「いるけど」

「なに、どうしたの?」

『アスランくんがこちらに到着したのだけれど・・・』

「何ぃ!?アスランだと!?」


声を荒らげたのはではなくイザークだった。「えっ?」と声を上げるマリューに、なんでもないと笑って返す。


「アスランすぐ戻るでしょ?私たちがドッグに行くわ」

『わかったわ、そう伝えるわね』

「お願いします」


ぷつ、と通信が切れる。さて、と振り向くと、イザークがものすごい顔をしていた。キラは驚いて目をぱちくりさせている。


「・・・まぁ、アスランには覚悟してもらいましょうかねぇ」


肩をすくめ、らはドッグへと向かった。



















ドッグで赤のパイロットスーツ姿を認めると、が声を掛ける前にイザークが飛び出していった。「あーあ」ととディアッカがこぼし、キラが「え?」と小さくもらす。そして、イザークの声がドッグに響き。


「アスラン!貴様ああああ!!!」


鈍い音が、アスランの左頬で鳴った。


「アスラン!?」

「あー、キラ、ストップね、気の済むまでやらせてあげてね」

「で、でも」

「アスランを一発殴らないと気がすまない!って顔に書いてあったもの」


そのイザークを見てみれば、尻餅をついたアスランにぎゃいぎゃいなにかを怒鳴りつけている。その光景が嬉しくて、は「ふふ」とこぼした。


「なんで笑ってるんだよ・・・」

「いやぁ、なんか、懐かしいっていうか・・・こうしてまた集まれて、嬉しいなって」

「・・・まぁ」


欠けたものもあり、全員ではない。だがそれでも、生存した者たちで集まれたことは、喜ばしいことだった。


「アスランも自業自得だし?どうやっても懲りないだろうから、ちょっとくらい痛い目みても、ねぇ?」

「おまえってさ、なにげにアスランの扱い悪いよな」

「気のせいじゃない?」


そう、きっと気のせいだ。きっとアスランの扱いが悪いわけではなく、本当にアスランが悪いのだ。やがて気が済んだのか、座り込んだアスランを放置したままイザークがこちらへ歩いてくる。だが、やられて黙っているアスランでもなかった。


「あ」


背後からの足払いにより、イザークがずっこけた。わなわなと震えながら、イザークが身体を起こす。


「アぁスラぁン・・・きぃさまぁあああ!!!」

「先に仕掛けてきたのはそっちだろう!」


そして始まる喧嘩。殴り合いの喧嘩はさすがにそう見たことがないが、事態が事態なのでまぁいいかとは眺めていた。


「え、ちょ、止めなくていいの?」

「めんどくさい」

・・・」


さすがのキラも呆れてため息をついた。イザークとアスランの喧嘩は殴り合いとなり、その後止めるよう必死に頼み込まれたによって撃沈されるまで続いた。





















Created by DreamEditor