生と命





















ピリ、と頭をはしるものがあった。これは距離が近いことを意味する。


「キラ、気をつけて、クルーゼがいるわ!」

『!うん!』


そして見えてきたのは、地面に落ちたストライクと、それを討たんとするゲイツ。キラがビームを放ち、その銃を撃ち落とした。


『ムウさん!』


そしてフリーダムはそのまま、ゲイツの頭部と両足を切り落とす。機動力と視界を失ったゲイツは地に転がった。とすぐさまクルーゼがゲイツから出て走り出す。


「クルーゼ隊長・・・っ」


はワルキューレを着陸させ、ハッチを開ける。ムウもまたストライクから顔を出した。生身での銃撃音が響く。


「今日こそつけるかね、決着を!」


そしてクルーゼはまた走り出す。誘い込むような言い方、走り方、その先には研究所らしき建物。の身の内の血が、騒いだ気がした。追って飛び出したムウは腹部に傷を負ったらしく、赤い血が流れている。は胸騒ぎをおさつつ、銃を用意してムウのあとを追った。キラも降りて走ってきた。


「・・・キラ、あんた白兵戦は」

「・・・無い」


おそらく銃をしっかり握ったこともそうないであろう。はキラに「あとからきて」と行って、前方の様子を伺いながら進み始めた。


「ムウさん!」

「キラ!?」


研究所内に二人の声が響く。


も一緒か!?」

「はい!」

「ほう・・・君たちも来てくれたのか、嬉しいよ、、そしてキラ・ヤマトくん」

「っ、クルーゼ、隊長・・・!」


ムウの姿を発見して合流する。


「なんで来たんだ!」

「あのまま外で待ってるなんてできませんよ!マリューさんに、なんて報告すればいいんです」

「そうよ、それにその腹。それでクルーゼ隊長とやりあおうなんて、無謀にもほどがあるわ」

「・・・返す言葉がないな。それよりキラ、お前、撃つ気あるなら、セーフティ外しとけ」

「あっ!」


なんて間の抜けた会話だ、と緊張感たたよう場のはずなのに苦笑した。だがの方は、胸騒ぎと背筋を通る冷たい空気が身を包んでいて気持ちが悪い。


「さぁ、遠慮せずにきたまえ。始まりの場所へ」

「始まりの、場所・・・?ま、さか・・・」


サーッと血の気が引くのがわかった。口に手をあて、軽く俯く。


?」

「だ、大丈夫・・・だい、じょうぶ・・・」


口では大丈夫と言いつつも、動悸は激しくなっている。それでも、進まなければ。


は覚えているだろうかね、この場所を」

「・・・」


クルーゼの言葉が響く。え、とキラがを見たが、続いて放たれたものに、キラもまた驚いた。


「キラくん、きみにとってもここは生まれ故郷だ」

「!?」

「引っかかるんじゃない!奴の言うことなんか、いちいち気にするな!」


ムウがすぐさまキラに言うが、のほうはある意味確信してしまった。記憶で覚えていなくても、身体で覚えているようだ。走り出したムウのあとを、二人は追った。


















扉がスライドされると、すぐさまクルーゼからの銃撃があった。走る足音をきいて、キラたちも筒状のガラスの並ぶその中へ入る。そして、の足がぴたりととまった。


「あ・・・あ・・・や、ぱ、り・・・」

?どうした、?」


瞳孔が開き、息もきれぎれである。いつものとは明らかに違っていた。


「懐かしいかね?、キラくん」

「・・・っ」

「え?」

「君たちはここを知っているはずだ」

「・・・知っている・・・?僕が・・・?」


キラの瞳が動揺に揺れた。ゆっくりに視線を向けるが、はキラに気づかないほど取り乱していた。クルーゼが入ったのはひとつの研究室。そのプレートには“ユーレン・ヒビキ”の名。


「っ・・・」


激しく弾丸が舞い、ムウが肩に傷を負って銃を落とした。すぐさまキラとも入り、物陰に身を隠す。


「大丈夫ですか!?」

「っ・・・」


命に別状は無いが、銃を持つのは厳しそうだ。は荒れた息のまま、いつでも撃てるように構えた。


「殺しはしないさ、せっかくここまでおいでになったのだからな。全てを知ってもらうまではね」


そう言ってクルーゼが投げよこしたのは、ひとつの写真立て。それは、カガリがウズミから渡された母子たちの写真だった。そしてひとつのファイル。そこからはみ出したのは、とある父子の写真。


「親父・・・!?」


ムウが声を上げた。アル・ダ・フラガ。それはこの研究所に大きな関わりのある人物だった。


「君も知りたいだろう?人のあくなき欲望の果て、進歩の名のもとに狂気の夢を追った、愚か者たちの話を。君もまた、その息子なのだからな」

「っ、やめてください!!」

「止めることはないだろう?君はずっと、彼に言わないつもりだったのかね?」

「言わなくて済むのなら・・・知らせたくはない!!」

「甘いな、君は」


クルーゼは不敵に笑い、話を続けた。やめて、とが小さくつぶやくが、きこえるはずも、聞き入れるはずもなかった。


「ここは禁断の聖域。神を気取った愚か者たちの夢の跡。君は知っているのかな?今のご両親は、君の本当の親ではないということを」

「えっ!?」

「やはり言っていなかったのだな、


キラの目がおそるおそるを見る。きょうだいだということは告げたが、ヤマト夫妻が本当の両親でないということは言っていなかった。銃を持つキラの手が震える。


「まぁそうだろうな。でなければそんな風に育つはずもない。なんの陰も持たぬ、普通の子どもに」

「っ、それこそが、“お母さん”とおばさまの願いだから!!」

「ふっ、願い、か。アスランから名をきいたときは思いもしなかったのだがな。君が、彼だとは。てっきり死んだものだと思っていたよ。あの双子、とくに君はね」

「やめて・・・やめて!!」


の悲痛な叫びもものともせず、クルーゼは続ける。


「その生みの親であるヒビキ博士と共に、当時のブルーコスモスの最大の標的だったのだからな」

「何を・・・っ」

「だが君は生き延び、成長し、戦火に身を投じてからもなお存在し続けている。なぜかな?」

「だめ・・・っ」

「それでは私のようなものでもつい信じたくなってしまうじゃないか。彼らの見た狂気の夢を!」

「そんなもの!!」

「僕が・・・僕がなんだっていうんですか!?あなたはなにを言ってるんだ!?」

「キラ、だめ!!」


がキラを止めようとするが、キラは自分が“何者”なのかという疑問に、ひけにひけなくなっている。


「君は人類の夢、最高のコーディネイターだ」

「っ!!」

「そんな願いのもとに開発された、ヒビキ博士の人工子宮。それによって生み出された、唯一の成功体。彼の息子、数多の犠牲の果てにな。もその、失敗作のひとつだ」


の身体から血の気がひいた。撃たれた弾はムウによってなんとか避けることができ、彼はそのまま力の抜けたキラとを誘導しながら階下へと進んでいく。


「僕は、僕の秘密を今明かそう」


再びクルーゼの声が響く。


「僕は自然そのままに、ナチュラルに生まれたものではない」


それは人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレンの言葉だった。そこから研究に研究を重ね、ユーレン・ヒビキが開発したのが、人工子宮だった。だがそううまくいくはずもなく、いくつもの命が消えた。普通に生まれていれば生きられたはずの命が消えていった。


「やがてヒビキ博士は、自らの子を使った。ほかの命とは違い、それは形となった。生きられることができた。だがそれも、劣化の、失敗作だった。彼の求めるものではなかった。それがだ。は失敗作であるがために父親である博士から、放置された」

「・・・・・」


もはや反発する気にもなれず、ぎゅっと自らの身体を抱きしめる。荒れる息に震え、目からは涙が溢れていた。


「そしてまた母は子を宿した。双子だった片方を抜き取り、彼はついに成功させた。それが、きみだ、キラくん」


キラもまた衝撃の事実に動揺し、動けずにいた。
コーディネイターの技術が向上するにつれ、コーディネイターとナチュラルは憎み合い、争うようになった。ナチュラルはコーディネイターを不条理のものと妬み、コーディネイターは我らこそが新たな種だとふるいたつ。


「ならば殺し合うがいい!それが望みなら!」

「何を!貴様ごときが偉そうに!」


ムウとクルーゼが撃ち合う。


「私にはあるのだよ!この宇宙でただ一人、すべての人類を裁く権利がなぁ!」

「裁く、権利・・・?」


の指がぴくりと動いた。


「確かに、あなたも“被害者”よ・・・でも、それでもすべての人類を裁く権利なんて、無い!!」


の声が煙の中に響いた。クルーゼはそれを捨て置き、続ける。


「覚えていないかな?ムウ。私ときみは遠い過去、まだ戦場で出逢う前、一度だけ会ったことがある」

「なんだと!?」

「私は、己の死すら金で買えると思い上がった愚か者、貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!」

「なっ!?」


は目を伏せた。本人に確認したわけではないが、それを知っていた。クルーゼもまた、研究者と権力者による“被害者”なのだった。


「親父のクローンだと!?そんな御伽噺、誰が信じるものか!」

「私も信じたくはないがな。だが残念なことに事実でね」


かつ、かつとクルーゼの足音が響く。ムウに向かっていく足。不意にがキラを見れば、何かを探していた。


「まもなく扉が開く、私が開く!そしてこの世界は終わる。この果てしなき欲望の世界。そこであがく思い上がった者たちの、のぞみのままにな!」


クルーゼの銃口がムウに向いた。そして、キラが駆けた。


「キラ!」


キラはクルーゼの銃弾を避けながら彼に突っ込んでいく。ムウがそれを援護するように撃ち、クルーゼの肩をかすめた。キラがナイフ代わりにと掴んでいた破片が、クルーゼの仮面を弾き飛ばした。その顔は、さきほどの写真に写っていた、男性そのものだった。


「貴様らだけで何ができる!?もう誰にも止められはしないさ!この宇宙を覆う憎しみの渦はな!」


言い放ってクルーゼは走り出した。ムウが追おうとするが、腕の痛みに膝をついてしまう。


「鷹!」

「く・・・情けないぜ・・・」

「応急手当を。結構時間たってるし、もしドミニオンが攻めてきてたらやばいわ」

「・・・お前さんは、大丈夫か?」

「・・・えぇ」

「肩を貸します」


ムウに肩を貸し、キラは歩き出す。ひとまず彼も落ち着いて大丈夫そうである。研究所を出たところでバスターと合流した。イザークとの話し合いはうまくいったのだろうか。気になるところではあるが、今はすぐさま戻らなければ。コロニー内を進み港へ戻ると、三隻の姿はなかった。ドミニオンの姿を認識し、戦闘が開始されていることを把握する。


「遅くなってごめんなさい!援護に回るわ!」


負傷したムウとストライクをフリーダムがAAへ下ろし、フォビドゥンらの迎撃にまわる。だがすぐに、ザフトが動いたとの報が入った。


「余裕無くなってきてるんじゃない?クルーゼ隊長・・・!!」


前にドミニオン、後ろにヴェサリウスを含むナスカ級三隻。非常に手厳しい状況だった。


「・・・ディアッカ」

『あぁ?』

「イザークとは、話せたの?」

『とりあえず俺の思いは伝えたさ!』

「・・・そう」


大丈夫、きっと、イザークならわかってくれる。そう信じ、戦闘に集中した。
ナスカ級から出てきたのは、ジンが12機にデュエル、シグーだ。ゲイツを失ったクルーゼはシグーに乗り換えたのだろう。ザフトはエターナルを狙ってくるはずだ。


「エターナルの援護に入る!」

『ジンの迎撃にはM1を当たらせる!』

「なら私は、シグーと・・・デュエルを」


クサナギからのカガリの言葉に頷いて、表明する。正直M1だけにジンの迎撃は厳しいだろうが、今は任せるしかない。イザークはディアッカと話してどう動くのだろうか。そう考えていたら、クサナギにデュエルが迫ってきた。


「イザーク・・・!」


やはり、戦うしかないのだろうか。顔を歪めると、デュエルを威嚇するように砲撃が通った。


「ディアッカ・・・」


バスターとデュエルがその場を離れていった。イザークはディアッカに任せよう。そう思いシグーを探すが、近くにはいない様子。ではジンから、と動こうとしたとき、AAから通信が入った。


「ヴェサリウスを突破する!?」


なんて無茶で無謀な。しかし成功すれば追撃される可能性は低い。ここでいつまでも挟まれて追い込まれるよりはいいか、とは頷いた。そして行動に移そうとしたとき、戦場に、甲高い声が響いた。


『アークエンジェル!!』


戦っていたものたちの動きが止まる。ヴェサリウスから射出されたらしい脱出ポッドからの救難通信のようだ。


『アークエンジェル!私です、フレイです!フレイ・アルスターです!!』


フレイ、と呼ばれていた少女のことを思い出す。赤い髪の、一般人の少女。なぜ彼女がこんなところに、それもヴェサリウスから出てくるのだろうか。


「何を考えているの、クルーゼ隊長・・・!?」


全く読めない。彼の思惑など読めた試しが無いが、何か企んでいることは明白だった。そしてなぜかキラが、急に動きを止めた。フレイと何かあったということだろうか。アスランがキラに呼びかけているが、反応がない。と、思ったら、フリーダムが突然動き出した。ポッドを回収しようとするカラミティに先を越されまいとはしる。フレイは『鍵を持っている』と言っている。一体、なんのことなのだろうか。そこへAAから信号があがった。機を逃せば突破はできなくなる。ジャスティスがフリーダムを抱えて来た。これであちらは大丈夫だろう。二人にはディアッカもついている。はエターナルにつき、大きく被弾した前方のヴェサリウスを見つめた。


「アデス艦長・・・みんな・・・」


もうザフトではない。だが、共に戦った仲間たちが、そこにいる。の、アスランの、ディアッカの右手は、自然と敬礼の意をとっていた。今まで自分が乗っていたヴェサリウスが、撃沈した。これでひとつ、ザフトの大きな障壁を、打ち破ったのであった。






















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